古代の民の囁き
リアムは、謎の男――元王の庭師が示した古の地図を手に、一人、王都を離れた。地図が示すのは、この国がまだ「囁く病」を知らなかった頃、古代の王族が住んでいたという廃墟だった。そこには、病を浄化する「清き血」の秘密が隠されているかもしれない。
道は険しく、リアムは何度も足を止めかけた。だが、彼の耳には、病に苦しむ人々のうめき声が、まるで幻聴のように聞こえてきた。その声が、彼を前へと進ませた。
数日後、リアムは地図が示す場所にたどり着いた。そこは、苔むした石柱が立ち並ぶ、忘れ去られた神殿だった。神殿の入り口には、王家の紋章が彫られており、その紋章の中心には、リアムが持つ「血の代償」を象徴する、黒い染みが刻まれていた。
リアムが神殿の奥へと進むと、壁には古代の壁画が描かれていた。壁画には、王家の祖先が大地から生命力を受け取り、国を栄えさせる様子が描かれている。そして、最後の壁画には、王の背後に黒い影が忍び寄り、王の血が汚れていく様子が描かれていた。それは、男が語った「血の代償」そのものだった。
リアムが壁画に触れると、壁画が光を放ち、古の民の魂がリアムに語りかけてきた。それは、言葉ではなく、直接心に響くような、囁き声だった。
「呪いを断ち切るには、与えられた命を返すしかない……」
古の民はそう語った。彼らは、王が大地から奪った生命力を大地に返すことで、呪いを断ち切ろうとしたが、それは完全には成功しなかった。彼らは、自らの命を犠牲にして、呪いを封じ込めるしかなかったのだ。
だが、彼らの囁きは、リアムに一つの希望を残した。
「大地に与えるのは、命だけではない。心だけでも、呪いは浄化される……」
その言葉は、リアムの心に深く響いた。彼は、自分の命を犠牲にするのではなく、人々との「絆」を深めることで、呪いを浄化する「第三の道」を見つけられるかもしれない、と感じた。