番外編:梁田養魚家の家訓
ファンの方のご要望にお応えして、これも一晩かけて書き上げました。文字数が足りず申し訳ありません。最後に、応援のほどよろしくお願いいたします。
幼き梁田は道場の冷たい杉の板の上に跪き、
目をぎゅっと閉じ、気力を集中させた。
唇をかみしめ、指先は微かに震えている。
「我慢しろ、梁田。『邪念』の気息を断つには、刻苦して心を集中させる術を習得せねば、その気息を察知することはできぬ。」
祖父の声は低かったが、刀鞘で脊椎を叩かれたかのような圧力があった。
「はい、祖父。」
梁田は息を整えながら応える。
月光が高窓から差し込み、
祖父・梁田剛玄の影を長く伸ばし、
まるで社を守る木の精霊のようだった。
「梁田、今より我が身の《邪念》の気息を感じるのだ。」
「はい!」
梁田は目をぎゅっと閉じる。
視界は漆黒だが、周囲が白い輪郭で浮かぶかのように感じ、道場の景色の一つ一つが認識できた。
目の前の白い線は祖父母の身体。
その中心には、外焰の赤火に包まれた内焰の紅橙色の邪火が揺らめいている。
「祖父、察知しました。」
梁田は状況を報告する。
「よくやった、梁田。」
祖父は褒め言葉とともに衣袖から短刀を抜く。
竹刀ではなく、鈍く光らぬ短刀。
刀身の逆鱗紋は月光の下で蛇の腹のように蠢いていた。
「顔を上げよ、梁田。」
「我ら一族『心形流』は、勝利のためではなく、斬守のためにある。」(斬守:邪念を宿す者の生命の気息を断ち、その痕跡を蓄える術)
祖父の枯れた指が道場中央、
深色の玉石に向けられる。
その玉石は幽かに光を帯び、眠る巨竜の瞳のようだった。
「これが『武道龍の眼脈』。世の濁気はすべてこの清浄を汚す。我らはその隙間を塞ぐ楔となる。」
祖父は突然、短刀の刃先をなぞり、
一滴の鮮血を玉石に落とす。
深い緑の光を放った後、再び静寂が訪れた。
「されど斬守には代償が伴う。」
祖父は左袖をまくり上げ、
手腕を露出させる――
漆黒の逆鱗に覆われ、鱗の隙間から灼けた痕が滲んでいた。
「これは『逆鱗呪縛』。代々、眼を養うために自らの身を犠牲にし、邪気の反噬を受けてこうなるのだ。」
彼は突然、短刀を梁田の左胸に突き刺した!
致命傷ではないが、正確に血の線を刻む。
梁田は唇を噛み、うめき、
滴る血は玉石に落ち、同じく飲み込まれた。
「痛みは錨である。今、この使命を心に刻め。」
祖父の声は冷たく、
その眼底には、当時梁田が理解できなかった屈辱が光る。
「我らは代々僕として、剣は無辜の者に向けざるを得ぬ。」
「吉田一族は…『契約契』で我が一族を縛り、守を離れれば滅ぶと定めた。」
祖父は梁田の剣道着を引き開き、
指先を新たな傷の上に置く。
灼けるような痛みが心臓を貫く!
手を離す頃には、
面板には永久に残る炎形の灼痕が刻まれ、
祖父の痕と重なっていた。
「この痕は邪気を感知する。心を少しでも集中できれば、汚れた龍眼に遭遇した時、正確に斬守できる。」
祖父は涙をこらえながら、梁田の目を見つめる。
「汝はやがて『邪念』を宿す者に出会う。本人の意思ではなく、古の意志が宿る…日中家の子孫、何中のように。」
最後の二文字は、氷の矢のように梁田の胸に突き刺さる。
「その時、汝は選べ:その人を斬るか…それとも別の道でこの局を破るか。」
祖父は短刀を鞘に収め、
陰影がその顔を覆った。
「我は老いた。契約を破る望みは…汝の世代にかかっている。」
そう言い残し、去っていった。
梁田は跪いたまま残され、
胸の灼痕が心臓を焼く――
刀傷以上の痛みだった。
スカートの裾の下には、
武道龍の刺青が浮かび上がる。
「私…私も…『龍力』を使えるのか…?」
梁田は荒い息をつく。
気づかぬうちに、異瞳はすでに変化を見せていた――
それは龍血を宿す者の証である。
やがて彼女は痛みに耐えきれず、意識を失った。
そして、祖父の短刀――
二人の血が付着したその刀鍔の中央には、
小さな蒼白の人骨がはめ込まれていた。
来週は9月12日20時と9月14日11時に更新を予定しています!来週もお会いしましょう!