第3話∶12号実験体の遺したもの
擬似文学的なスタイルで書くのはとても難しい
昼休み、校舎を抜ける風の音は、教室の呼吸よりもはっきりと聞こえた。
何中が教室を出た途端、誰かに立ち塞がれた。
「おい、ヘぇ──チュウ」
語尾をわざと引き伸ばす、挑発的な声。
金髪の男が階段の手すりにもたれ、口の端にまだ火のついていない煙草を咥えていた。
「屋上だ。タイマン勝負だぜ。来れねぇなら──もう学校にツラ出すなよ。」
そう言い放つと、男は顎で上の階段を示した。まるで既に勝敗は決まっているかのように。
何中は答えず、ただ一瞥をくれ、そのまま歩き出す。
──ただし、足は屋上ではなくトイレの方へ向かっていた。
トイレの中は誰もいない。
個室のドアは半開きで、鍵をかけ忘れたように見える。
押して開く。
便座の上には古びたノートが置かれていた。表紙は水に濡れてまだらな褐色になり、そこに歪んだ字でこう書かれている──第12号実験体。
最初のページをめくる。文字は乱れ、力任せに書かれた線が紙に傷のように刻まれていた。
> 龍紋が皮膚の下を這う。
奴らは勝手に位置を変える。
寝ているとき、互いに擦れ合う音が聞こえる。体が耐えられない。
……
最後のページは破り取られ、残った紙端には校章の金の箔押しが微かに残っていた。
一行一行が、鋭いもので脳裏を裂かれるように突き刺さる。
何中の指は数秒、紙の上で止まり──そしてノートを閉じた。
──ビリリッ。
紙が裂ける乾いた音が、やけに軽やかに響く。
最後のページを破った瞬間、個室のドアの内側に刻まれた細い文字が目に入った。
> 観測対象 No.12
直後、紙の山から何か鋭いものが飛び出した──何かに撃ち出されたかのような速度で。
龍の骨片。
形は不規則で、縁は砕けたガラスのように鋭い。しかし、かすかに体温を帯びている。
それが彼の指先を裂き、瞬時に血の中に溶けた。暗金色の液体が金属の光沢を放ちながら皮膚の上を這い、やがて消えた。
視線を上げると、個室の灯りが一瞬チカリと瞬き、壁の影が水面のように揺らいだ。
外から、階段を駆け上がる靴音が響く──金髪が彼の名を叫んでいる。
何中は指先の暗金色の残滓が消えるのを見届けた。
口元に、ゆっくりと笑みが広がる。まるで、とびきり面白い冗談を聞いたかのように。
「……暴れる前に、ウォームアップだ。」
割れた窓から吹き込む風が、床の紙片をめくった。
光と影の間で、その文字たちはまだ蠢いているように見えた。
次の章をライトノベル風に書いてみましょう。