第2話∶保健室の冷蔵庫には
裏山の風は、いつもグラウンドの方より冷たい。
風に押し倒された草葉の下から、灰白色の土が顔を覗かせていた──そして、その土の上に横たわるものがあった。
猫だった。
毛色はすっかり褪せ、まるで日光で漂白されたかのよう。皮膚は骨にぴたりと張り付き、濡れた紙が数本の枯れ枝を包んでいるようだった。
さらに奇妙なのは、その首元に二つの細長い穿孔があったことだ。まるで龍の牙が同時に突き刺さったような跡で、傷口の縁は不自然なほど整っている。
何中は数秒じっと見つめ、それが誰かの悪ふざけではないことを確認した。
風が吹き抜けると、空っぽの眼窩がまるで彼を見ているかのように感じられた──眼球はないのに、視線を突き刺されるような感覚があった。
──彼は視線を逸らし、小道を下っていった。
今日は体育の授業があるが、運動服に着替えるのが面倒で、そのまま保健室へ向かうことにした。
ドアを開けると、保健室は静まり返っており、消毒液の匂いがいつもより濃く漂っていた。
机の上には番号の貼られた試験管が並び、その中で半分ほどの暗赤色の液体が揺れている。先生は背を向け、新しい試験管を冷蔵庫にしまっていた。
ドアの音に気づき、先生は振り返って職業的な笑みを浮かべた。
「何中くん? どうしたの?」
「ちょっと、手の調子が悪くて。」
そう言いながら席に腰を下ろす。視界の端で気づく──先生の手袋の手首あたりに、うっすら赤い痕が残っている。
先生は手袋をはめ直し、ガーゼと包帯を取り出しながら言った。
「最近、流行性の貧血が多くてね。校長の許可で栄養剤の研究をしているの。」
試験管を軽く揺らし、「ビタミンDと鉄剤、試してみる?」と微笑む。
「……そうですか。」
何中は目を伏せ、手にしていた缶ジュースを無意識に握り潰した。その瞬間、視線は自分の手の甲に落ち──血管が青黒い樹枝状の模様を浮かび上がらせ、すぐに消えた。
先生の手が一瞬止まったが、すぐに平静を装い、包帯を巻き終える。
「はい、もう無理はしないこと。」
彼は立ち上がり、出口へ向かった。
扉の外の陽光は目に刺さるほど明るい。しかし背後の消毒液の匂いは、服に染みついたように、どうしても振り払えなかった。
廊下の奥からは放送の雑音が流れ、生徒たちの笑い声が風に混じって響く。それは、やけにリアルな日常劇の一場面のようだった。
ただ──
この劇で、本物は誰で、道具は誰で、観客は誰なのか?
何中は目を伏せ、ポケットの中で指をゆっくり曲げ伸ばす。骨の奥から、あの不気味なカチリという音が、また小さく響いた。
グラウンドから女子たちのはしゃぐ声が届く。
「何中くーん! クレープ食べる?」
彼は包帯の巻かれた手をひらひらと振った。包帯の隙間から滲む血が、まるでサクランボジャムのようだった。
そして、独りごとのように笑った。
「この場所……ますます面白くなってきた。」