第10話:私の血であなたを救い、あなたの体で私を閉じ込める(1)
予香の首の皮膚が、
ぽろぽろと剥がれ落ちていく。
そして――
肌全体が脱ぎ捨てられるように、
代わりに現れたのは、
巫咒龍の黄魚の鱗甲。
その鱗が脈動するたびに、
浮かび上がるのは予英の、
苦痛に歪んだ顔だった。
黒く長い髪は硬質化し、
全身からは淡い桜の香りが漂う。
手首には赤い紐、
そこに結ばれた鈴が――
チリン……と澄んだ音を鳴らした。
「――龍華態ッ!」
麗子が叫ぶ。
シュッ!
予香が腰をひねり、
尻尾をしなやかに振り抜いた。
その速度は――時速百キロ。
尾の一閃が、麗子の腰を切り裂かんと迫る!
「っ!」
麗子の瞳孔が一瞬にして竜のように縦長へと変わり、
本能的にその一撃をかわした。
ドゴォンッ!!
予香の尾は空を斬り、
だが壁はそうはいかなかった。
破片が爆ぜ、
小石が雨のように飛び散る。
壁には、深々と尾の痕が刻まれた。
「ふふっ……やっぱり、あなたにも“龍の血”が流れているのねぇ。」
龍化を完全に終えた予香が微笑む。
彼女のうなじには――
吉田・時獄龍の“記憶寄生虫”が刻んだ龍紋が、蠢いていた。
「でも……まだ覚醒したばかりみたいね。」
予香は太ももに巻き付けていたベルトから、
一本の手術刀を引き抜く。
その刀身には、はっきりと刻まれていた――「13」の数字が。
シュッ!
「ぐあっ!」
何中の悲鳴が響く。
手術刀は正確に――
彼とソファーを貫いていた。
それも、彼の“まだ無傷の肩”を。
赤紅の血が鎖骨を伝って滴り落ち、
ジュゥゥ……と音を立てる。
熱で刀が焼けるほどの血。
だが、その刃は――まったく損なわれない。
「これはね、吉田さまが――
特別に“何中くん専用”に作ってくださったものよ♥」
予香の笑みは、人間のそれとはかけ離れていた。
「それじゃあ――」
彼女が何かを言いかけた瞬間――
「爆龍! 真っ向の一撃ッ!!」
井田が渾身の拳を振り抜いた!
その拳には――暴義龍の炎が宿る。
轟烈なる“赤の拳影”が、
空を裂いて予香へと叩き込まれた!




