番外編:炎竜の心臓(4)
――ズズン……。
耳鳴りのような低い音が、どこか遠くで鳴り響いていた。
何中はゆっくりと瞼を開ける。
そこは、灰と炎の残る廃墟のような場所。
空は裂け、赤い灰が雪のように舞っている。
「……ここは……どこだ?」
息をするたび、喉が焼ける。
体のあちこちが焦げ、皮膚は黒ずんでひび割れていた。
それでも、痛みはもう感じなかった。
ただ、胸の奥が重く沈むように痛む。
(あいつ……焰龍……)
その名を思い出した瞬間、
頭の奥で何かが微かに脈打った。
――ドクン。
熱い。
心臓ではない、もっと奥。
魂が焼かれるような熱だ。
「まさか……まだ、俺の中に……」
何中が胸に手を当てる。
そこに、確かに感じた。
龍の鼓動。
「……おい、焰龍……」
答えはない。
ただ、遠くから風のような声が届く。
『――共に在る、それが“共生”だ。』
その声が途切れた瞬間、
何中の背に刻まれた龍紋が淡く光を放つ。
赤黒い模様が蠢き、皮膚の下で呼吸しているように動いた。
「クソ……ふざけんなよ……!」
拳を握りしめる。
血と灰が混ざった地面を殴りつけると、
乾いた破裂音が響いた。
何中はゆっくりと立ち上がった。
目の前には、かつて龍がいた場所。
そこには、何も残っていない。
ただ――灰の中に、ひときわ紅く輝く鱗片が一枚。
彼はそれを拾い上げ、光に透かして見つめた。
「……あの死龍め……まだ俺をからかってるのか……」
吐き捨てるように呟き、
それでも口元には、わずかな笑みが浮かんだ。
風が吹く。
灰が舞い上がり、視界を覆う。
――その瞬間。
何中の脳裏に、
ひとつの声が鮮明に響いた。
『……それと、気をつけろ。』
「……誰だ?」
『――“あの優雅な猿”には、気をつけるんだ。』
ピタリと、時間が止まったように感じた。
心臓が一拍、強く跳ねる。
冷たい汗が背中を伝い落ちる。
「……あの、猿……?」
目を見開いた何中の顔に、
再びあの“爆発”の記憶がよぎった。
紅い閃光、裂ける肉片、
そして――あの笑い声。
「……吉田……!」
地面を殴りつけた拳が血を滲ませる。
その血が、手の甲の龍紋に吸い込まれるように染み込んでいく。
ジュゥゥ……。
赤い光が一瞬、脈動した。
「クソッ……まだ、終わってねぇのかよ……!」
彼は燃え尽きた地平線の向こうを睨みつけた。
赤黒い空の下、風に揺れる灰の中で――
何中の目だけが、確かに光を宿していた。
『――共に、闘え。』
焰龍の声が、再び心の底から響く。
「うるせぇよ……死龍。」
それでも、彼の口調には
わずかに、笑みが滲んでいた。
そして何中は、
燃え残る大地の上を、ゆっくりと歩き出した。
――焰の匂いと、未来の気配を残して。
それが何なのか分からないのでツイートします




