番外編:炎竜の心臓(3)
焰龍がゆっくりと身構えた。
その背から、紅蓮の光が走り、鱗の一枚一枚が開く。
地面が震え、空気が裂ける。
「やめろ! 本気でやったら俺死ぬって!」
「共生体なら死なない。せいぜい、意識が飛ぶだけだ。」
「それを“死ぬ”って言うんだよ馬鹿野郎ッ!」
何中が叫んだ瞬間、焰龍は一気に距離を詰めた。
ドンッ――!
その拳が空気を押し潰す音と共に、何中の頬をかすめた。
衝撃だけで、体が数メートル吹き飛ぶ。
「ぐあっ……!?」
砂と熱風の中を転がりながら、何中は立ち上がる。
だが膝が震え、視界が揺らぐ。
「クソ……! 動け……!」
背中の皮膚が熱く焼けるように疼く。
そして――
ジュゥッ……!
腕の皮が裂け、その下から、金属のような青銅の鱗が滲み出てきた。
それはまるで血管の中から流れ出す炎のように、
腕から肩、そして胸へと広がっていく。
「な、なんだこれ……!?」
「“龍紋の進化”だ。
怒り、恐怖、そして“生への執着”が引き金になる。」
焰龍の声が低く響いた。
「やめろ! やめてくれ! 俺は――!」
何中が叫びながら腕を振り払うと、
金属の鱗が裂け、燃えるような血が飛び散った。
「……俺、死にたくねぇんだよ!」
焰龍は目を細め、何かを確かめるように一歩近づいた。
「“生”を望むか。」
「当たり前だろ! 死にてぇ奴なんているかよ!」
「なら――その命、俺と共有しろ。」
焰龍が手を伸ばす。
その掌から、炎のような紋が浮かび上がる。
「嫌だ……そんなの、嫌だッ!」
何中が後ずさる。
しかし、足が地面に縫い付けられたように動かない。
「お前が望まなくても、契約は成立する。」
「ふざけるな! 勝手に決めんなッ!」
彼の胸に、焰龍の手が触れた瞬間――
ズガァンッッ!!
全身が灼熱の光に包まれた。
筋肉が裂け、骨が軋む音が耳の奥で爆ぜる。
「ぎゃあああああああああああああッ!!」
焼ける臭い。
骨の奥から、金属が鳴るような音。
痛みが意識を何度も切り裂く。
それでも、死ねない。
「……いやだ……俺は……死にたくない……!」
炎の中で、何中の声が掠れていく。
「よく言った。
それが、お前の“覚悟”だ。」
焰龍の声が遠くで響いた。
その瞬間、何中の背から翼が突き出た。
紅と黒の混ざった鱗が背中を裂き、
彼の体を包み込むように羽化していく。
「うああああああああッ!」
――ドンッ!!
爆風と共に、地面が陥没した。
何中の体がゆっくりと炎の中に沈んでいく。
最後に見えたのは、焰龍の冷たい瞳。
「これで……お前も“龍”だ。」
「……やめろよ……そんなの、いらねぇよ……」
意識が暗転する。
音も、熱も、すべてが遠のいていった。




