番外編:炎竜の心臓(2)
「死竜、喰らえッ!」
焰龍が背を向けた瞬間、
何中は全身の力を込めて飛びかかる。
しかし――
ぐるり、と音を立てて、
彼の体はあっという間に焰龍の尻尾に絡め取られた。
「お前、"共生"って意味、知りたいだろ?」
「興味ねぇ! てめぇを殴りてぇだけだ!」
「ふふ……そんな顔して。
本王が慎重に説明してやるよ?」
「説明いらねぇ! 設定語りとかすんな、頼む!」
「だって、番外編にならないだろう?」
焰龍は、退屈そうにちらりと彼を見る。
その目には、軽蔑とも呆れともつかぬ光が宿っていた。
「――“共生”とはな。」
「……本当に語るのかよ!?」
焰龍の尻尾の先が、何中の喉元に触れた。
一刺しで沈黙させられる距離。
「言葉の通り、俺とお前が一つの肉体を共有する。
だが、主導権を持てるのは一人だけ。
強い意志と精神力を持つ宿主でなければ、
ただの抜け殻になる。」
「……相撲取りかよ。」
「ハッ、吉田の研究所で“共生体”の実験が行われた。
だが、全部失敗した。
黒いリングで稼ぐための実験体もいたが……お前がそいつをぶっ壊した。」
「……ちっ、やっぱりあの死ザルの仕込みか。」
何中は歯ぎしりする。
吉田――あの忌々しい名前を口にしただけで、血が沸騰する。
「それにしてもな、お前は大した奴だ。
俺の“龍紋”の反噬と干渉を受けながら、
自力で主導権を奪い返した。
人間のくせに、なかなかやるじゃないか。」
焰龍はぎこちなく手を叩いた。
「……これが人間の『称賛』ってやつだろ?」
「お前……なんだよ“龍紋の反噬”って?」
何中は苛立ちを抑え、尋ねる。
「それは俺たち龍族が抱えた“呪い”だ。
遺伝によって受け継がれる、終わりなき侵蝕。
そのせいで、俺の時代の龍たちは全て滅んだ。」
「じゃあ……俺の手の甲の、この赤い紋様は……?」
「そう、それが“俺の龍紋”だ。
今はまだ初期段階。
痛みくらいで済んでるが……」
「……その先は?」
「――地獄みたいに痛いぞ。」
焰龍は淡々と、まるで他人事のように言った。
「ふざけんな! そんなのゴメンだ!
お前、解除できねぇのか!? 他の奴に寄生しろよ!
俺は普通に生きたいんだ! 女抱いて寝たいんだよッ!」
何中の叫びに、焰龍は小さく肩をすくめた。
「悪いが、それは無理だ。
俺は“純血の龍”。 宿主を選べない。
この千年で、俺と共生できたのは――お前と、お前の父親だけだ。」
「はあ!? なんでそういう唯一無二設定つけんだよ!
俺、救世主とかいらねぇから!」
「安心しろ。救世主にはなれん。
――ただし、“痛みに耐えて死ぬ”唯一の存在にはなれる。」
「ちくしょう……!」
何中の顔から、すべての血の気が引いた。
「それとな、龍紋と俺は別物だ。
龍紋は環境や感情に反応して進化する。
俺は俺で、思考によって主導権を奪う。
つまり――制御不能、ってことだ。」
「……どいつもこいつも、馬鹿しかいねぇな!
そもそも、そんなもん誰が作ったんだよ!」
「“古龍祖”ラグディン・ルイス。
龍族の貴族支配を止めるため、
全龍族に“呪詛”を強制した。
だが解除法を知らず、自分自身が侵蝕されて死んだ。」
「……龍って、意外とアホ多いんだな。」
「ハッ!」
焰龍は苦笑して、尻尾をほどいた。
その瞬間――
ドゴッ!
何中の拳が焰龍の顔面を撃ち抜いた。
「いてっ!」
焰龍は頭を押さえながら、鼻を鳴らす。
「人間風情が、龍を殴るとはな……
俺が本気なら、灰になってるぞ。」
「偉そうにすんな、あの死ザルと同じ顔しやがって!」
その名が出た瞬間――
「吉田……?」
「そうだよ! あの死ザルだ!」
「ハハッ……やっぱりお前、バカだな。
吉田の“血脈”が俺を抑制できること、知らなかったのか?
わざわざ俺を引きずり出そうとして……ほんと愚かだ。」
「なっ……!?」
「まあ、知ってると思うが。
“半生”って言葉、聞いたことあるだろ?」
「……聞いた。けど、それが何なんだよ。」
「知りたいか? ――その前に、ちょっと脳をひと口だけ。」
「やめろ!」
何中が拒むと、焰龍はにやりと牙を見せた。
「なら、力ずくだな。」
龍の体に、再び紅の光が走る。




