第18話 凍てつく骸と、加速する成長
ひときわ巨大な、円形のホール。
その中央に鎮座する、骨の玉座。
そして、その玉座に腰掛ける、一体の巨大な骸骨の王。
【骸骨の百人隊長】。
今の佐藤の心に、恐怖はなかった。
あるのは、ただ、この面倒な「業務」を、いかにして効率的に終わらせるかという、冷徹な計算だけだった。
彼は、その場で一度立ち止まると、隣に控える二人の少女へと、最後のブリーフィングを始めた。
その姿は、もはやただの冒険者ではない。
一つのプロジェクトを成功へと導く、有能なプロジェクトマネージャーのそれだった。
「…さて、と。いよいよ、本日のメインイベントだ」
彼の、その低い声。
それに、陽奈と輝の表情が、引き締まる。
彼の視界の隅で、ピンク色のタコ…フロンティア君が、ARウィンドウにボスの詳細なデータを表示させた。
「敵の行動パターンは、三つ。一つ、巨大な両手剣によるなぎ払い。二つ、周囲の骸骨兵の召喚。そして、三つ目。これが、一番厄介だ」
フロンティア君が、そのうちの一つのスキルアイコンを、赤く点滅させた。
「攻撃を食らうと、凍傷にかかってDOTダメージデバフを貰うッピ!このデバフは、重複する。三回も食らえば、HPがみるみるうちに削られて、回復が間に合わなくなるッピ!」
「だから、遠距離から攻撃するのが、安牌だッピ!」
その、あまりにも的確な、そしてどこまでも教科書通りのアドバイス。
それに、佐藤は静かに頷いた。
「…なるほどな。分かった」
彼は、その情報を元に、瞬時に、このテーブルにおける「最適解」を導き出した。
彼は、二人の少女へと向き直る。
その瞳には、絶対的な自信が宿っていた。
「――じゃあ、りんご」
彼は、いつの間にか呼び方が変わっていた、その確率の魔女へと、最初の指示を下した。
「お前の【神の雷霆】で、攻撃してくれ」
「えー、あたしから?まあ、いいけどさ」
りんごは、少しだけ不満そうに、しかしどこまでも楽しそうに、その星のワンドを構えた。
「その後の、感電してる隙に、陽奈が【フロストボルト】で凍結にする」
「はい!」
「**その後は、袋叩きにすりゃいい。**いいか、よく聞け。凍結攻撃する敵を、逆に凍結にしてハメるぞ」
その、あまりにもクレバーで、そしてどこまでも悪辣な戦術。
それに、輝はニヤリと笑った。
「へえ。あんた、意外と性格悪いね。…気に入った!」
「…うるせえ。行くぞ」
◇
戦いの火蓋は、切って落とされた。
玉座から、百人隊長がその巨体を起こす。
その、最初の行動を、りんごの気まぐれな奇跡が、完全に封じた。
「了解~!じゃあ、【神の雷霆】!」
彼女の、その楽しそうな叫び声と共に、その手に持つワンドから、一つの小さな光の球が放たれる。
そして、その光の球が、百人隊長の頭上で炸裂した、その瞬間。
天から、十数本の黄金の雷霆が、降り注いだ。
ドッドッドッドッドッ!
雷霆が、骸骨集団と、【骸骨の百人隊長】を襲う。
そのあまりにも圧倒的な、範囲殲滅魔法。
それに、百人隊長の周囲にいたはずの骸骨兵たちは、その骨の体を黒焦げにしながら、一瞬で砕け散った。
そして、その中心にいた百人隊長もまた、その黄金の鎧をバチバチと火花させながら、その巨体を大きくのけぞらせた。
感電。
その動きが、完全に停止する。
「――感電してる様子。いまだ!陽奈!MPの限度まで、連発してくれ!」
佐藤の、その鋭い号令。
それに、陽奈が完璧に応えた。
「はい!【フロストボルト】、連発します!」
彼女の、その可愛らしい、しかしどこまでも力強い叫び。
彼女の足元に、青白い魔法陣が広がる。
そして、その魔法陣から、十三本の、死の氷柱が、次々と、そして尽きることなく、放たれ続けた。
【フロストボルト】が連発されて、骸骨集団を凍結地獄にする。
ガキン、ガキン、ガキンッ!
百人隊長の、その黄金の鎧。
それが、まるで美しい氷の彫刻のように、次々と青白い氷に覆われていく。
そして、ついにその巨体は、完全に、その動きを封じられた。
凍結。
その、あまりにも美しく、そしてどこまでも無慈悲な光景。
「――いけー!いまだ、全員で攻撃!」
佐藤健司が、号令をかける。
その、最後の、そして絶対的な命令。
それに、三人の冒険者が、そして一匹のピンク色のタコが、呼応した。
彼らは、その氷の彫像と化した、哀れな王へと、そのありったけの憎悪(という名の業務)を、叩き込んでいく。
みんなで、骸骨集団の凍結を殴り、粉砕させて、どんどん倒す。
佐藤の、重い一撃。
輝の、神速の連撃。
そして、陽奈の、尽きることのない氷の矢。
その、あまりにも一方的なリンチ。
それに、百人隊長は、なすすべもなかった。
その黄金の鎧は、まるでガラスのように砕け散り、そしてその下の骨の体もまた、ひび割れ、そして崩壊していく。
そして、最後の一撃がその頭蓋を粉砕した、その瞬間。
百人隊長は、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、その存在を完全に消滅させた。
静寂。
後に残されたのは、山のようなドロップ品と、そしてその中心で、自らの完璧な勝利を噛みしめる、一人の指揮官と、その仲間たちの姿だけだった。
そして、魔石が沢山ドロップする。
だが、その光景は、まだ終わりではなかった。
ドロップした魔石の一つが、きらりと、双子のように輝いた。
20%の確率で複製されるので、複製が沢山出る。
「やったー!」
その光景に、輝は喜んで、その魔石を拾う。
そして、その直後。
三人の全身を、これまでにないほど強く、そして荘厳な黄金の光が、包み込んだ。
D級の主を討伐した、莫大な経験値。
そして、陽奈のアイスによる、100%の祝福。
それが、彼らの魂と肉体を、一気に次のステージへと引き上げたのだ。
【LEVEL UP!】
【LEVEL UP!】
【LEVEL UP!】
【LEVEL UP!】
【LEVEL UP!】
【LEVEL UP!】
【LEVEL UP!】
祝福のウィンドウが、彼らの視界に、乱舞する。
全員が、レベル12までレベルアップした。
「いえーい!」
その、あまりにも劇的な成長。
それに、3人と一匹は、その場で抱き合い、そして子供のようにぴょんぴょんと飛び跳ね、そのささやかな、しかし彼らにとっては世界の何よりも大きな勝利を、喜び合った。
だが、その温かい、そしてどこまでも幸せな空気。
それを、断ち切ったのは、一人の、あまりにも空気が読めない、しかしどこまでも現実的な、中年の声だった。
「…あー、喜んでる所悪いが、早く魔石とドロップ品、拾うぞ」
佐藤は、そう言って、しゃがみ込んだ。
そして、そのあまりにも無粋な、しかしどこまでも正しい一言。
それに、二人の少女は顔を見合わせた。
そして彼女たちは、同時に、最高の笑顔で頷いた。
「「はーい!」」
みんな、仲良く魔石とドロップ品を拾う。
その、あまりにも微笑ましい光景。
それを、佐藤はただ静かに、そしてどこまでも満足げに、見つめていた。
そして彼は、全てのドロップ品を回収し終えた後、言った。
その声には、絶対的な自信が宿っていた。
「よし、拾い終わったな。じゃあ、二周目、いくぞ」
「えー、もう一周するの?」
輝が、不満そうな声を上げる。
「当たり前だろ」
佐藤は、きっぱりと言い切った。
「パーティメンバーが増えたんだ。周回増やさないと、儲けがないしな」
その、あまりにもサラリーマン的で、そしてどこまでも力強い宣言。
それに、三人の少女は、最高の笑顔で頷いた。
「「はい、ボス!」」




