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第五話〈最後の決断と共鳴〉

今回短めになります

 エルフの里で完全な唄を取り戻したリオは、旅を再開した。

 森を越え、丘を越え、数日の行程をかけて、グレイドの街を目指す。


 


 だが、街に近づくにつれ、空気は変わっていた。

 空は重く、地平には黒い煙が立ち上る。

 胸の奥に嫌なざわめきが広がる。


 


 そして、街が見えたとき、リオは足を止めた。


 


 かつて賑わっていた鉱山都市グレイドは、瓦礫と炎に覆われていた。

 砕けた石造りの家屋、焼け焦げた市場、黒い結晶の破片が辺りに散乱している。


 


「怨晶龍……」


 


 リオは唇を噛んだ。

 街の中央に、黒い結晶をまとった巨影が立ち塞がる。

 砕けた鱗、濁った赤い瞳、怒りに満ちた咆哮が空を裂く。


 


 番を失い狂い果て、最後には己を爆散させたはずの龍。

 その涙の結晶核が歪み、再び命を持った存在――怨晶龍。


 


 人々は逃げ惑い、兵士たちはなすすべなく倒れていく。

 リオはリュートを強く抱え、瓦礫を乗り越えて広場へと向かった。


 


 だが、その途中。


 


「……てめぇ……!」


 


 呻くような声が響き、リオは思わず足を止めた。


 


 振り返ると、崩れた壁の影に、ひとりの老人が座り込んでいる。

 血に濡れた衣、震える手。

 見覚えのある顔――市場で唄ったあの日、リオの唄を聞いていた老鉱夫だ。


 


「お前が……この街に来たせいで……!」


 


 老鉱夫の目は、怒りと絶望に濡れていた。

 リオは言葉を失い、その場に立ち尽くす。


 


「唄っただろう……あの唄を……!」

「……俺は……」


 


「娘が、孫が……みんな……あの災いに……!」


 


 呻くような叫びが、瓦礫の広場に響いた。

 リオの胸に、重く突き刺さる。


 


 唄は、人を癒すだけじゃない。

 龍と、世界と、過去の傷を呼び覚ます。

 そのことを、痛いほど思い知らされる瞬間だった。


 


 だが、それでも――


 


 リオは拳を握りしめ、広場の中心へと歩み出す。

 逃げてはいけない。

 唄のすべてを知り、すべてを受け止めると決めたから。


 


「これが、完全な唄だ……」


 


 リオの声が、崩れた街と怨晶龍の怒りに溶けていく。


 


 遥かなる鉱の谷に、光をまとう竜ありき

 蒼き空 熱き土

 その狭間に舞い降りしは

 鱗透き通る光の竜


 


 旋律が広がるたびに、怨晶龍の赤い瞳がわずかに揺れた。

 リオは続ける。

 かつて欠けていた、一節も含めて――


 


 だが忘るるな、終わりは始まり

 涙に咲かぬ核もまた

 いずれ命を欲しと鳴く

 愛なき結晶、それもまた

 竜の子と、呼ばれたり


 


 唄が終わったとき、怨晶龍の動きが止まった。

 砕けた鱗が軋み、黒い結晶が淡く輝く。

 その瞳に、怒りとも悲しみともつかぬ色が宿った。


 


 リオは一歩、踏み出した。

 まだ涙の残る老鉱夫を背に、決して目を逸らさずに。


 


「帰ろう……お前も、俺も」


 


 広場に風が吹き、結晶片が舞い上がった。

 唄と共に、龍と人との共鳴が、始まろうとしていた。

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