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もしも春の推理2024のテーマが「うわさ」だったら  【題名】:ある少女への疑いを解決せよ!

春のチャレンジ企画2025(テーマ:学校)と、私のチャレンジ企画の作品です。

2024年度の企画のテーマをシャッフルしています。

ジャンルは「推理」、テーマは「うわさ」です。


 Z県の県庁所在地であるX市。

 この市のとある中学校に、警視庁から刑事が来ていた。


 何か事件が起こった訳ではない。

 この刑事はサイバー課に所属する刑事で、名は夢野八洲彦(ゆめのやすひこ)

 X市の各中学校でSNS等の使用に関して、情報リテラシーの講義に来ていたのだ。


 話は少し遡る。


「夢野、Z県のX市へ行ってくれないか?」


 警視庁のサイバー課の特別室内で、八洲彦に語るのは上司の房洲(ぼうす)警部。


「ちょっ……、左遷ですかっ!」


「そうだ、お前は犯人だからな。というのは冗談で、中学生相手のネットの利用についての講義者を我が課からも人員要請をされたんだ。才羽(さいば)は23区からの1区での講義だがな」


「何で才羽さんだけ!」


 才羽もこのサイバー課の刑事である。房洲警部は続ける。


「X市って、お前の祖父母が住んでいるんだろ。この間、『もしも冬の童話祭2023のテーマが「手紙」だったら』を読んでいたら、そう書いてあったぞ。祖父母にもご挨拶して来い」


 ナイス宣伝です。房洲警部。(謎の声)


「X市って人口が約25万なんですよ。中学校が何校あると思っているんですか!? あとこの作者アホだから、Z県を『海なし県』と書いているんですよ。これすごい特定されるんですけど」


 な、なんだってー!?(謎の声)


 こうして八洲彦はX市へと向かった。

 彼一人ではなく、厳密にはもう一人。

 それは、基本的に八洲彦のスマホ内に常駐している、妹の夢野奈歌(なか)

 奈歌がデータのように存在している理由は『もしも春の推理2023のテーマが「ゆめのなか」だったら』を読んでください。(流石にしつこすぎる宣伝)

 こうしてX市の到着した八洲彦は、初めの中学校の講義への準備をしている。


「大丈夫、兄さん? 私に何か手助けできることない?」


「大丈夫だ。これくらい自分でできるさ!」


 八洲彦は自分のスマホ内の妹と確認をしていた。



「……というわけでスマホなどのネット利用については注意してください」


 X市のとある中学校の体育館。

 壇上の八洲彦はきれいに整列して座っている体操服姿の全校生徒たちと、その周囲に簡易な椅子に座る全校教師たちに説明をしていた。


「要するに、注意すべきは次の三点」、と八洲彦はまとめ、あとは生徒たちのざっくばらんな会話タイムにしてこの日は一校目が終了だ。


「まず、怪しげなサイトや広告にクリックしないこと」


「次に怪しげなワードで検索をしないこと」


「最後に相手が誰であれ、投稿をする場合は節度を守った内容で送ること」


 八洲彦は壇上から降り、生徒たちを立つなり、自由な会話するなり促して、自分に質問がある場合は何でも聞くように、と付け加えた。


 生徒たちは現役の刑事と聞いて少し緊張していたが、八洲彦はよく言えば強面でなく優し気な感じ。

 別の見方をすると、ちょっとルックスの良いスーツを着たお笑い芸人みたいなので、次々に生徒たちに囲まれて、質問を受けた。


「刑事さん。例えば有名人のSNSに批判的な投稿をするのはダメだと言ってましたけど、有名人は人前に出てお金を稼いでいるので、そのパフォーマンスが悪かった場合も批判しちゃダメなんですか?」


「なかなかいいところを突くね。例えば君が好きなプロのスポーツチームで、とある選手の致命的ミスによって負けた場合に、その選手を批判するな、という意味合いかな?」


 生徒が「そうです」、と言うと八洲彦は続ける。


「君は嫌いなものとかあるかな? 例えば食べ物とか?」


「え~っと、キュウリが苦手です」


「じゃあ君はSNSでキュウリのまずさやキュウリ農家さんを批判するような投稿をするかな?」


「そんなの意味ないじゃないですか」


「そう、意味はないんだ。嫌いなことや腹が立ったことにエネルギーを使って投稿することなんて意味はないんだ。さっきの選手の例だと、励ますのが適切だと私は思うね」



 そんな風に八洲彦が中学生たちと歓談していると、八洲彦は体育館の隅に一人ぽつんと座っている女子生徒を見つけた。


「どうしたんだ、彼女は? 具合が悪いのかな?」


「刑事さん、彼女……、二年の有間美結(ありまみゆう)っていうんですけど。有間は有名人のSNSに誹謗中傷をしている『うわさ』があるんです」


「本当か? 何でそんな『うわさ』があるんだ?」


「有間はイラストが上手く、自身のアカウントの画像は彼女が描いたイラストなんです。もちろんアカウント名は本名ではないんですが、有間の絵そのものなんです」


 それらを聞いた八洲彦は、しゃがんでいる有間のところへ向かった。


「ちょっと、いいかな。有間さん」


 有間美結の顔は恐怖でこわばる。


「君はSNSをやっているのかい?」


「……やっていません。私はスマホを持っていませんし、お父さんのタブレットでイラストを描いているだけです」


「ふむ。お父さんのタブレットで絵を描いて、その絵の投稿はしていないんだね?」


「そうです! でもなぜか私のイラストをアカウントの画像に指定して、変な投稿をしている方がいるようなんです!」


「ふぅ~む。ちょっと調べてみるよ。これでもサイバー課の刑事だからなっ!」


 要するに、妹の奈歌に丸投げだ。



 休憩用に宛がわれたこの中学校の貴賓室で、八洲彦と奈歌は有間の父の所有している端末をチェックしていた。


「あ~、この人、完全なパソコン人間。タブレットやスマホは機器として興味があるから所持しているだけで、家にいる時はパソコンをずっといじっているみたい。かなりハイスペックな自作PCね」


「じゃあ、スマホやタブレットは完全に娘。有間美結さん用か?」


「スマホは出社時に持って行ってるけど、完全に緊急連絡用にしか使っていない。ほとんどアプリがインストールされていないし」


「具体的にどんな連絡だ?」


「ショートメールで奥さん。つまり有間美結さんのお母さんに、『今日は残業で遅くなる』とか、『接待で夕食をとるので、夕飯はいらない』とか、そんなことにしか使ってないようね」


「んっ? ではその奥さんはどうなんだ?」


「美結さんのお母さんもあまりSNSはやってないみたい。散歩中で撮影した草花をアップしたり、時折料理をアップしてるだけ。美結さんのイラストは一切アップしてないね」


 スマホに映る奈歌と会話する八洲彦は何かに気付いた。


「そうだ、スマホやタブレットの充電。有間さんのお父さんのパソコンに接続してやっているのなら、お父さんのパソコンに全てのデータが保存されているんじゃないのか?」


「有間家の全ての端末のデータは、自宅に設置したNAS(データ保存庫のようなもの)で各自用に切り分けて保存しているようね。ネットワーク接続してるからデータ漏えいの危険性はあるけど、そこはしっかりしているし」


「で、全てを管理しているお父さんは全てを閲覧できるけど、肝心のSNSに興味がない、と」


 ごく平凡な一家のデータ保存庫から、データを取り出して、それをアカウントの画像に使用して、著名人への誹謗中傷をするだろうか?

 それほどまでに有間家は誰かに恨まれているのか、さすがに兄妹はこれ以上の推測が不可能だった。


「まっ、今日は実家へ帰ろう。『じっちゃんの名にかけて』このうわさを解決してやる!」


 何かどこかから注意を受けそうな言葉を発して、この日の八洲彦は学校をあとにして、祖父母の家へと宿泊に向かった。



 数日間。こうして八洲彦はX市内の各中学校で講義をしていた。

 特に問題なく進んだので、どうしても最初の講義をした中学校の有間美結に関しての『うわさ』が頭にちらつく。


 何か見落としはないだろうか?


 ある日曜日。八洲彦は祖父母の家でのんびりしていた。


「おい、八洲彦。ちょっとオレのパソコンを確認してくれんか? ネットにつながらないんだ」


 じっちゃん……、こと八洲彦の祖父が呼ぶ。

 八洲彦は祖父の部屋に入った。


「なんだよ~、ケーブルモデムに電源が入っていないだけじゃないか~」


「そういえば、午前中に掃除をして、全部のコンセントを引っこ抜いていたから、ただの刺し忘れか」


「じいちゃんはどんなサイトを見るの?」


「面白そうな記事を書く人だな」


「記事?」


 でかい据え置き型の祖父のパソコンにはでかいモニターが繋がっている。

 ノートPCだと、じっちゃんは「字が小さくて読めん」とのこと。


 ほとんどが各新聞社のWEB版だが、それらブクマの中にとある文章投稿サイトを八洲彦は見つけた。

 自分の持っているスキルや知識を発信するWEBサイト。

 つまりブログだが、タレントなどがやっているサービスではなく、専門家やジャーナリストなどが発信しているホームページに近いサイトだ。(あえて具体的なサービス名は言いません)


 八洲彦は有間美結の父親の名前で検索した。


「あった。そうか、この人は情報発信をこういったブログでパソコンでしているんだ。『我が家』分類に娘さん、つまり有間さんのイラストを公開して自慢している。そしてSNS連携もしていない。そもそもSNSをやっていないんだからな」


 つまり、有間美結のイラストは、父親が親バカから、自慢の娘カテゴリーとして、ブログに一分野の一環として娘の絵をアップしていたのだ。


「その画像をダウンロードしたヤツが、SNSでアカウントの画像に使用してるってこと?」


 スマホの奈歌が応答する。


「そうだ。一応チェックしてくれ」


「奈歌は病気で入院中なのに、不思議な状態で出てくるんだな~」


 八洲彦と奈歌の祖父はのんきに感心していた。



 奈歌のおかげで有間の父親のホームページから、有間美結のイラスト画像をダウンロードした人物は特定できた。


「よしっ、有間さんの学校へ行って、有間さんに関する『うわさ』をこれで払拭できるぞ!」


 八洲彦はX市の最初に行った中学校に、改めて赴きたい用件を伝え、翌日には了承された。


 そして、その当日。

 八洲彦はこの中学校に赴き、特別に校庭に有間美結と彼女のクラスメートだけを集めた。


「みんな、これを見てくれ。これは有間さんのお父さんのサイトだ。このサイトから有間さんのイラストがダウンロードされ、そのダウンロードした人物が、自身のSNSの画像に利用して、色々なリプライ。つまり著名人への攻撃的な投稿をしているんだ。この人物については警視庁で調査して事実関係を明らかにする!」


 有間美結と彼女のクラスメートは八洲彦のスマホを見る。

 そこで突如として声が出る。


「そ~いうこと。美結さんは何も関係してないのっ! だから変な『うわさ』で彼女をいじめたり、のけ者にしないでね!」


 スマホから女性。つまり奈歌の声がして、生徒たちはびっくりする。


 どうにかこの『うわさ』による誤解は溶けつつあった。

 何人かは有間美結に謝っている。


「この『うわさ』に関する難事件! 『謎は全て解けた!』」


 八洲彦……、君はやっぱり逮捕されるべきだ……。(謎の声)


 ちなみに有間美結のイラストをダウンロードした者は、特に有間家を恨んでのことではなく、単にネットをあさって、独特なイラストだったので「これならアカウントの画像に使える」との単純な理由であった。


「有間さん側に過失があるとすれば、お父さんが無断で美結さんのイラストをアップしてたことね。SNSに興味がないとはいえ、これは有間さんのお父さんに注意すべきね」


 こうしてZ県X市の中学校での情報リテラシーの講義を終えた、八洲彦たちは警視庁に戻るのであった。



「いや~、めんどくさい仕事だと思いましたが、色々とこちらも勉強になりましたよ」


 八洲彦がサイバー課で上司の房洲警部に報告する。


「うん、オレも温泉街とか、そういったところで、のんびりとやりたかったな」


 才羽が応ずる。

 すると、PC画面を見ていた房洲警部は、デスクから立ち上がり、大きな声を発する。


「海外に拠点を置いた日本人グループが詐欺をしているとの情報が入った! 才羽、夢野兄妹、至急調査だ!」


 連絡を受けた房洲警部は部下たちに命ずる。


「「「りょーかい!」」」


 才羽、八洲彦、そして八洲彦のスマホの中の奈歌は応ずるのであった。



もしも春の推理2024のテーマが「うわさ」だったら 【題名】:ある少女への疑いを解決せよ! 了

次はジャンルが「ホラー」、テーマが「分水嶺」です。

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【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
ジブリ風イラストをAIで描くことができるようになり、その画風のアイコンがすごく増えたことを考えると、なかなか興味深い話になっていて面白いです。私は、有間美結さんのクラスメート(うわさを八洲彦に教えた人…
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