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不滅の愛[4:0]

作者: こたつ

この台本は4:0の台本です。

ジョセフ♂:

ロベルト♂:

ハイエナ♂:

ヨハネ♂:


正史2:2

https://ncode.syosetu.com/n9633ii/


反転2:2

https://ncode.syosetu.com/n8421ij/


0:4

https://ncode.syosetu.com/n8419ij/

ジョセフ/♂ヴェラリオ戦線司令官。軍人。メリーという女性と結婚している。


ロベルト/♂ジョセフの護衛。人間兵器だった。ジョセフに恩を感じている。


ヨハネ/♂ 10代ほど。呪われてしまった。ただの心優しい少年だったのに。


ハイエナ/♂ヴァルツヘルゲン特殊工作員、ハウンドドッグ所属。妻と息子を亡くしている。



____________________________


<<取調室、ロベルトと検察官が対面で座っている>>



ロベルト:……なぜ、ですか?

……そうですね。俺も同じ立場ならその言葉を投げかけるでしょう。

俺はあの人に従った。引き金を引いた。それは揺るがぬ事実です。

それでもあの人は、不滅の愛を誓ってくれた。

寄る辺 (よるべ)のない俺に手を差し伸べた。

ならばまだ終わるべきではない。俺の愛は滅んでなどいない。

戦争を続けましょう。

祖国に仇なす敵国に、呪われたルスラムに復讐を。

忌まわしい天使どもに鉄槌を。

おれの最愛に……っ


ロベルト:親愛なるジョセフベルベットに……不滅の愛を。





<<ルスラム国境沿い>>

<<ハイエナ、数人の兵隊を暗殺している>>



ハイエナ:(息を吐く)……クリア。


ヨハネ:相変わらず見事な手際ですね、ヴァングレイドの兵隊をいとも簡単に。


ハイエナ:猟犬の嗜みだ。主人に手間取らせるまでもない。ヴァルツヘルゲンの人狼は──


ヨハネ:よく躾けてある、ですね?ご褒美を用意しなければ。


ハイエナ:(微笑み)この手の冗談にお前が乗るとは珍しい。期待しておこう。


ヨハネ:気分が良いのです。とびきりを用意しましょう。


ハイエナ:それはなによりだ。では行くぞ、この先の拠点を潰し鉄道に潜り込む。意見はあるか。


ヨハネ:祈りを。…よろしいですか。


ハイエナ:時間がない。が、他ならぬお前の頼みだ、なんとかしよう。


ヨハネ:ふふ、あなたはいつも甘やかしてくれる。


ハイエナ:わかっているなら早くしろ。魔銃と銀弾はハーゲンまで保たせねばならん。


ヨハネ:オオカミ男の切り札が銀の弾丸だなんて、いつ聞いてもおかしいですね。


ハイエナ:皮肉なら聞かんぞ。こいつで死ぬのは呪われた人間だけだからな。


ヨハネ:それ、痛いから嫌いです。


ハイエナ:俺もお前には使いたくなかったよ。


ヨハネ:ふふ、傷ついてくれるんですね。


ハイエナ:手早く済ませろ。


ヨハネ:ええ。(跪く)……ルスラムの天使の名の下に、あなたたちの死が呪いのくびきから逃れんことを。

──これが救いにならずとも、ひととき罪を忘れる罰を。




<<場面転換>>

<<ヴェラリオ城砦>>


ロベルト:ふう……。やあ、ジョー。


ジョセフ:ロベルト、調子はどうだ。


ロベルト:ジョー。……まあまあだよ。


ジョセフ:お前の「まあまあ」はあまり信用できないな。(カップを差し出す)……ほら、飲め。


ロベルト:おお、ミルクティー?


ジョセフ:ナタリアが茶葉を送ってくれたんだ。終わったのか、その…彼らの介錯は。


ロベルト:あと少しだ。今は休憩中。シルバーバレット、すごいね。呪われた彼らみんな、何をしても死ななかったのに。


ジョセフ:敵国ルスラムに巣食う、天使とやらを殺す銃弾らしい。


ロベルト:なにそれ?


ジョセフ:手配書を読んでいないな?天使を名乗る修道士と人狼の二人組が方々で暴れ回っている。


ロベルト:修道士……忌まわしい響きだ。


ジョセフ:ロジェールか。残念だったな。


ロベルト:……気にしないで。それで、銀弾がなんだっけ?


ジョセフ:呪いを断つ弾丸だ、天使は呪われているんだと。大事に使ってくれ。


ロベルト:あは、全部使っちゃった。助からないならせめて早く殺してあげたい。


ジョセフ:……すまないな、こんな仕事を任せてしまって。


ロベルト:いいんだ。……呪いを受けた人間の介錯だなんて、「魔眼のハーゲン」にぴったりの仕事じゃないか。


ジョセフ:そんなことは!……そんなことはない。お前は昔とは違う。変わったんだ。


ロベルト:変わらないよジョセフ、少なくともこの戦場では俺はいまだ魔眼のハーゲン。先祖代々受け継いだこの眼は、塞ぐことを許されていない。そういう契約、してくれたでしょ。


ジョセフ:……すまない。


ロベルト:謝らないで。こう見えて俺ね、嬉しいんだ。だってあんたのおかげで今回限りだ!

生まれてからずっと人を殺すことを強いられてた。少し先の未来が見える、ハーゲンの魔眼。この眼に振り回されてばかりだったけど、やっと俺は、俺として生きられる。


ジョセフ:だが、それでも──。


ロベルト:もういいんだって!この戦場から帰ったら、食卓に招待してくれるんだろ?妹やメリーに会うのも久々。軍服以外に袖を通す機会なんてないと思ってた。


ジョセフ:(苦笑)……素敵なスーツを期待してるよ。


ロベルト:そうこなくちゃ!明日?明後日?いずれにしろ帰ったらすぐだぞ〜?


ジョセフ:わかった、わかったよ。


ロベルト:ふふ。それじゃあ俺、仕事に戻るよ。


ジョセフ:待てロベルト、気分の良くない仕事なのは確かだろう。あとは任せて休め。


ロベルト:おっと……(目を伏せる)どうして?忌人いみびとを殺すことに、俺は何も感じない。


ジョセフ:……ロベルト、本気で言ってるのか?


ロベルト:俺はずっと本気。かわいそうだけど、だれも虫を踏んだことに気を病まない。


ジョセフ(M):──そう、恐ろしくはあった。


ロベルト:……彼らは違う、違うんだ。ここは差別大国ヴァングレイドだぞ。


ジョセフ(M):人生の多くを戦場と人殺しに捧げた彼の精神は、ヴァングレイドに培われた差別心によって保たれている。


ロベルト:彼らは俺たちと違うから、死なず苦しみ続ける忌み人になったんだ。……そのはず、なのに。


ジョセフ(M):今まで手にかけた呪われた同胞が、


ロベルト:さっき殺したロジェールが言うんだ。フィア、フィア愛してるって。


ジョセフ(M):その実私たちと変わりない、ただの人間だったと知った時、


ロベルト:なあこれは……いいえ、いいえ。彼らは忌むべき人だ。そうでないといけない。そうじゃなきゃ……


ジョセフ(M):彼は耐えられるのだろうか。


ロベルト:俺が殺したのは、誰だったんだ。





<<場面転換>>



ハイエナ(M):愛が不滅でないことを、俺はよく知っている。


ヨハネ:天にましますわれらの父よ。


ハイエナ(M):もう動かない妻を抱きしめたときに。ベッドの上で日々痩せていく息子の手をとったときに。


ヨハネ:願わくは御名の尊まれんことを、呪いをもたらさんことを。


ハイエナ(M):愛は儚く滅ぶのだと知った。


ヨハネ:御心みこころの天に行わるる如く地にも行われんことを。われら積年の恨みを、今日こんにち晴らし給え。


ハイエナ(M):いずれ、彼女たちに愛された俺もこの戦場に滅ぶ。……天国でなら、愛は滅びないのだろうか。


ヨハネ:われらが人を裁くごとく、われらの罪を裁きたまえ。

われらが人を呪うごとく、われらの生を呪いたまえ。


ハイエナ(M):そう考えて、俺はまず地獄行きだろうと笑った。


ヨハネ:われらの父よ、この命をもって──


ハイエナ(M):ああヨハネ、叶うなら。


ヨハネ:われらを悪より救い給え……。


ハイエナ(M):また君を愛させておくれ。


ヨハネ:Amenエイメン




<<場面転換>>

<<ヴェラリオ戦線、鉄道に近いヴァングレイド兵の拠点が壊滅。ヨハネ、死んだように倒れている>>



ハイエナ:エンゼルフォール確認。敵拠点制圧。列車への潜入準備が整った。


ヨハネ:ぅ……あ……。


ハイエナ:(ため息)……教会の天使の死で起こる呪いの爆発、か。(手に持つ銃を見る)何度やっても、慣れんな。


<<ヨハネ、蘇生している>>


ヨハネ:私は、生き返るから、いいではないですか……。


ハイエナ:起きたか、小僧。


ヨハネ:ええ、ミスター。少し痛かったですよ。


ハイエナ:(苦しく)すまない……痛みなく殺すのは無理だ。


ヨハネ:そんな苦しそうな顔をしないでください。ちゃんと生き返りましたから。


ハイエナ:顔に、出ていたか……。すまないが、もう俺に君を殺させないでくれ。


ヨハネ:安心してください、今ので打ち止めです。次のエンゼルフォールは私が真に死ぬ時でしょう。


ハイエナ:来ないで欲しいものだ。心からな。


ヨハネ:まるで誰かを亡くしたみたいな顔でしたよ?まあ私は一度死んだので間違いではありませんがね。


ハイエナ:っ……。


ヨハネ:……笑ってくださいよ。


ハイエナ:……すまなかった。


ヨハネ:も〜。


ハイエナ:戦場の真ん中だというのに機嫌がいいのだな。


ヨハネ:ふふ、すみません。身を案じられたのは初めてだったもので。


ハイエナ:仮にも天使なのだろう?そんなはずはない。


ヨハネ:(微笑む)……残念ながら、いいえ。今回の私は、そもそも我ら教会の天使たちは、帰還を想定されていません。


ハイエナ:なに……?


ヨハネ:前回の作戦が奇跡的でした。あなた方ハウンドドッグの優秀さは司祭様すら見通せなかったようです。


ハイエナ:それでは、それではお前は……っ(言い淀む)


ヨハネ:死ぬために生きているのか、ですか?


ハイエナ:……すまない、酷なことを聞いてしまった。


ヨハネ:いいのです。……あなたはルスラムの聖書を読んだことがありますか?


ハイエナ:いや、ないな。


ヨハネ:……『苦しみに代わるものは別の苦しみである』


ハイエナ:なに?


ヨハネ:聖書の、初めの言葉です。


ハイエナ:……それが呪いか。


ヨハネ:ええ。…我々にとって、呪いとは信仰なのですよ。呪われることをこそ良しとしたのです。人を思うことそのものが呪いだと嘯うそぶいて。それが本当になってしまった。


ハイエナ:これが救いにならずとも……。


ヨハネ:ええ、ひととき罪を忘れる罰を。それが呪いです。


ハイエナ:……


ヨハネ:私たち天使は、あまねく人々に苦しみをもたらすべく産まれました。聖書の、新たなページを綴るために。産まれてからずっと思われ、呪われてきた。


ハイエナ:そんなものを身に引き受け、挙句兵器にされたのが君か。年若い少年を数多の呪いに浸すことが神の意志か。


ヨハネ:……ええ。


ハイエナ:呪いのるつぼにされ、戦場で爆ぜることを強いられて、なんのために生きているのかわからないじゃないか……!


ヨハネ:…私のために、怒ってくださるのですね。……ええ、そんなあなただから私は嬉しいのです。


ハイエナ:そんなことを言うな。俺はお前の手駒だが、同時に加害者でもある。お前をそんな風にしたやつらと何も変わらない。


ヨハネ:(微笑む)……あなたが家族なら幸せだったのでしょうね。


ハイエナ:っ、ヨハネ……。(意図せずこぼれた名前)


ヨハネ:(目を伏せて)…ヨハネ。そう、ヨハネなのでしょう?私の名前なのでしょう。

名前だけの一致。けれどもあなたは、見過ごせなかったのですよね。


ハイエナ:……!


ヨハネ:あなたのご子息は、亡くなったヨハネは。こんなにも優しく呪われている。


ハイエナ:なぜ、その名を。


ヨハネ:言ったでしょう?人を思うことそのものが呪いなのだと。身に引き受けた呪いがなんなのか、私には手に取るようにわかります。


ハイエナ:……そう、だったのか。それはすまないことをした。


ヨハネ:いいえ、私は嬉しいです。呪われた私を、息子のように扱ってくれた。石ころのように死ぬことさえできない私を。


ハイエナ:……。


ヨハネ:あなたの呪いは、生まれてから一番心地が良かった。


ハイエナ:やめてくれ。……別れの、言葉に聞こえる。息子もありがとうと言って死んだ。


ヨハネ:いいえ、聞いてください。私は嬉しいのです。こんなにもキラキラした呪いをかけてくれたことが。

私の人生は呪われたものだったけれど、それでも最期は輝いている。それが、嬉しいのです。




<<列車の中>>.



ロベルト:殺されるならあんたがいいな。


ジョセフ:なに?


ロベルト:ね、ジョー。俺、怖いんだ。


ジョセフ:なんだ、お前らしくもない。


ロベルト:だって怖いんだ。名前の知らない誰かに殺されるのがこんなにも怖い。


ジョセフ:……。


ロベルト:俺さ、名前の知らない誰かをたくさん殺したんだ。顔も知らない誰かをたくさん殺した。おんなじように、きっと小石を蹴飛ばすように殺されるんだろうな。


ジョセフ:……そんなことはない。お前は死なないよ。


ロベルト:……そうかもしれない。でもそうじゃないかもしれないだろ?俺さ、こんな俺でもさ、ジョー。怖いんだ。

だから、だからね。

俺、殺されるならあんたがいい。


ジョセフ:………。


ロベルト:ねえ、お願い、聞いてくれないかな。


ジョセフ:……わたしも殺されるならお前がいいな。


ロベルト:なら──


ジョセフ:だけどなロベルト。それはここで死ぬ時の話だろう?それなら考えなくていい。この戦場から帰ったら私の家で、みんなとディナーだろ?


ロベルト:真面目な話なのに…。


ジョセフ:はは、いつものじゃじゃ馬はどこに行ったんだ。


ロベルト:……ねえジョー。フィアって、ロジェールの子供だよね。だってあの人、子供の自慢ばかりしてた。


ジョセフ:…ああ、今年で6歳になる。


ロベルト:今際の際に、愛してるだなんて。俺は言える自信がない。


ジョセフ:……私もだ。


ロベルト:ロジェールに、手を差し伸べてあげればよかったの?手をとって、嘘でもいいから何かいってあげればよかった……?俺にはもうわからない……。


ジョセフ:ロベルト……


ロベルト:ロジェール、誓ってたのかな。不滅の愛を。俺に殺されるまで。忌人に成り果てても。


ジョセフ:……お前が背負わなくてもいい、ロベルト。

お前が戦場に来たのは国の意向で、お前の行いは私の指示だ。お前の罪は私にある。


ロベルト:それでも、殺したのはおれだった……。


ジョセフ:こんなに弱ったお前をみるのは初めてだな。


ロベルト:真面目な話って言ってるのに……もう。


ジョセフ:はは、すまない。でもねロベルト、それでもやっぱりお前の罪は私のものなんだ。戦場では命じる者が責任を負う。昔教えただろう?


ロベルト:ジョー……。


ジョセフ:怖がらなくてもいい、怯えなくてもいい。神様は、きっと君をみている。


ロベルト:ふふ……神は死んだ。あんたが見てて。


ジョセフ:(微笑み)罰当たりめ。そうだ、歌を教えてやろう。怖いものなんかなくなる魔法の歌だ。


ロベルト:ふふふ、こんなところで歌う気?


ジョセフ:悪くないだろう?


ロベルト:少なくとも戦場で歌う歌じゃない。


ジョセフ:ははは、それもそうだ。帰ったらにしよう。


ロベルト:それが良い。楽しみが増える。


ジョセフ:食卓で歌ってやろう。


ロベルト:ふふ、奥さんの前で?


ジョセフ:メリーとの仲直りのためだ。プレゼント選びも手伝ってくれよ?


ロベルト:(笑う)うん、わかった。楽しみにしてる。


ジョセフ:メリーの好きな歌なんだ、私も楽しみだよ。

……なあ、聞いてくれ、ロベルト──



<<場面転換>>


ロベルト(M):不滅の愛を誓おう、と。ジョセフが言った。


ハイエナ:小僧、舞台が整った。


ジョセフ(M):ロベルトの奴め、口を開けておどろいている。こいつには支えてくれる誰かが必要だ。それが私なら、こんなに誇らしいことはない。


ヨハネ:ええ。ヴェラリオ戦線の主要人物が2名、無防備です。


ロベルト(M):子供を授かった時、神の前で誓う言葉。俺がついぞ聞けなかった言葉。笑顔を見せようと思ったのに、涙がこぼれてしまう。


ハイエナ:死ぬなよ、小僧。


ヨハネ:(微笑み)ええ、ハイエナ。生きて帰りましょう。


ジョセフ(M):この子にはもう、これ以上の運命を強いてはならない。恐怖も、血に染まった手も、日常に風化されるべきだ。ああ、ロベルト。何度だって言おう。不滅の愛を──


ハイエナ:(被せ)いいやいいや、ベルベット。不滅の愛などこの世にはない。



<<場面転換>>


ハイエナ:俺たちの命乞いを聞いてもらおう。


ジョセフ:何者だ!


ロベルト:警備は何をして(ヨハネに気付く)──修道士か貴様。


ヨハネ:はい。ヨハネと申します。


ロベルト:死ね。


<<ヨハネ、ナイフを抜き投擲>>

<<ハイエナ、それを防ぐ>>


ハイエナ:挨拶もできんのか、ヴァングレイドの犬は。


ロベルト:おや、獣憑き。


ハイエナ:躾がなっていないな。


ロベルト:どきな。その女の首をロジェールの墓に供えてやる。


ジョセフ:ロベルト待て。貴様ら何者だ。


ヨハネ:ヨハネです。こちらはハイエナ。どうか我々の命乞いを聞いてください。


ジョセフ:くそ、手配書と一致する。アサシンどもか。


ヨハネ:おや?顔がバレていますね。一人残らず祝福したはずですが?


ハイエナ:誰か死体に埋もれていたのか。


ロベルト:魔眼の許可を。5秒で殺す。


ジョセフ:許可する。確実に仕留めろ。


ハイエナ:命乞いすら聞いてもらえんとは。


ロベルト:遺言なら聞くぞ、大人しく死ね。


<<ロベルト、魔眼を発動。5秒後の未来を視る>>


ヨハネ:パルデンス条約に反してますね、ふふ。


ハイエナ:プランBからCに移行だ


ロベルト:な、に…!


ジョセフ:ロベルト…?何が見えたんだ


ヨハネ:おや、「頼んだぞヨハネ」と言ってくれればいいのに。


ロベルト:これは……!?


ハイエナ:早くやれ小僧


ヨハネ:これは手厳しい。それじゃあ、死なないで。


ロベルト:ジョー!早く逃げ──


<<ヨハネ、ロベルト、体が一瞬ぶれ、かき消える>>

<<一瞬の間>>


ジョセフ:な、なにをした…!貴様!


ハイエナ:呪いだよベルベット。我々の常識を覆すからこそ忌み嫌われる。

ヴァラリオ戦線の司令官はお前だな?


ジョセフ:くそ、人狼の相手だと…!


ハイエナ:俺の名はハイエナだ。ヴァルツヘルゲン特殊工作部隊、ハウンドドッグに所属している。

俺たちの命乞いを、聞いてもらおう。



<<場面転換>>

<<別の車両、ロベルトとヨハネ、対面する>>


ロベルト:(舌打ち)随分なご挨拶だな。


ヨハネ:改めまして、魔眼のハーゲン。ルスラムの天使が一騎、ヨハネです。


ロベルト:忌人に名乗る名はない。


ヨハネ:不要です。存じておりますから。


ロベルト:そう、話が早いね天使サマ。石ころみたいに殺してやろう。


ヨハネ:はは、素敵な死に様ですね。勇ましきミスタ・ハーゲン、我らの神があなたをお招きです。


ロベルト:……神は死んだ。



<<場面転換>>

<<ジョセフ、懐の拳銃にそっと手を伸ばす>>



ハイエナ:ヴァングレイドはその差別意識から他国の技術を忌避するらしいな。特に拳銃はひどい。


ジョセフ:……だが当たれば死ぬ。


ハイエナ:話にならんよ。ベルベット

狩人のいない村人がただひとり人狼に歯向かうと?


ジョセフ:(舌打ち)


ハイエナ:賢明だな。


ジョセフ:ロベルトは。


ハイエナ:隣の車両に移っただけだ。小僧が失敗していなければな。


ジョセフ:転移の外法げほうか…


ハイエナ:似て非なる。コツは消えてしまいたいと思うことらしい。


ジョセフ:なんだと…?


ハイエナ:彼の名はヨハネ。年端もいかない少年が、こんな戦場で天使を名乗らされている。


ジョセフ:貴様、何を言っている。


ハイエナ:あいつは毎日胸を灼く痛みで目を覚ますんだ。うなされて、飛び起きる。そして俺をみて笑顔を作って、おはようと言うんだ。あの子は悪夢を見続けている。

数多の呪いを押し付けられ、それでもなお天国を夢見、こんな戦場に身を落とした。


ジョセフ:……?


ハイエナ:呪いとは、誰かを思うことらしい。

俺はあいつを呪ってしまったんだよ。そんな俺に、小僧は言うんだ。あなたの呪いは、今までで一番心地いいと。


ジョセフ:何を言っているんだ、さっきから。


ハイエナ:命乞いだよ。最初から言っているだろう。

どうかあの子を殺さないでやってくれ。見逃してくれ。お前たちを殺さないでやるから、この国境を越えることを許して欲しい。






<<場面転換>>

<<ヨハネ、瀕死ながら傷が塞がっていく>>


ヨハネ:あ……ぅあ、もう、少し…やさしく、殺せないのですか


ロベルト:お前たちに呪われたロジェールは、その程度の苦しみで喚かなかった。


ヨハネ:(苦痛に耐える息)ご立派です。呪いと、介錯に耐えるなど。きっと天国に召されたことでしょう。


ロベルト:まだ侮辱する気か…!


ヨハネ:あなたにとって、その人は特別なのですね。

例えば、そう……ただひとり、普通の子として扱ってくれたとか。


ロベルト:……!


ヨハネ:想い人ですか?ああ、いえこれは…。これはきっとそう、初恋とすら呼べない。その方は、あなたの憧れだったのですね。


ロベルト:なぜ、それを。


ヨハネ:ああ、やはり。あなたも私と一緒なのですね。

望まぬ力に縛られている。……自分の罪から目を逸らせずに。

愛されたかったのですよね。ただの子供みたいに。

でも、やはり……介錯を悔やんでいる。


ロベルト:(息を呑む)


ヨハネ:だからこそ、あなたに慈悲を。主の導きを。

たとえ救いにならずとも、ひととき罪を忘れる罰を。


ロベルト:結構だ、死ね。お前は呪われた忌人で、俺は望んでお前を殺す。お前はなす術もなく死に、俺はジョセフを助けに戻る。俺はお前と違う。


ヨハネ:同じです。私は神に、あなたは血に呪われている。選ばれたと思わなければやっていられなかったのですよね?

それでもきっと私たちの役目は、誰が演じても変わらなかった。


ロベルト:黙って神の御許みもとに行け (武器を構える)


ヨハネ:私たちは答えが欲しいんじゃないんです。ただそばにいて、泣きたくなったら遊んで欲しい。夢の話をしたい、天気の話も。今日あったことや、花の話をしたい。私の懺悔を聞いて欲しい。




<<場面転換>>

<<ハイエナ、一歩詰め寄る>>


ハイエナ:俺たちはただ生きたいんだ。

家族を失い、国に捨てられた。作戦もなにも、もはやどうでも良い。


ジョセフ:だが、お前たちは人を殺しすぎた。


ハイエナ:承知の上だ。きっと地獄に行くだろう。だがそれまではせめて、二人で静かに生きていたい。


ジョセフ:……家族なのか。


ハイエナ:そのあたりはお前たちによく似ている。


ジョセフ:複雑だな、お互いに。


ハイエナ:ああ。


ジョセフ:協力はしたい。


ハイエナ:そうか。


ジョセフ:だが信用できない。


ハイエナ:だろうと思ったよ。


<<ハイエナ、ジョセフを撃つ>>


ジョセフ:ぐっ…!?


ハイエナ:──ハッ、ナイフのひとつでも投げてくるものと思っていたぞ。

未来でも見たか?魔眼のハーゲン。


<<ロベルト、ヨハネを引きずりながら登場。ハイエナ達からロベルトはよく見えていない>>


ロベルト:よくも俺にジョセフを殺させたな……!


ハイエナ:いい躾になったようだ。


ジョセフ:ぐ、ああ……!く、血が…!


ロベルト:ジョセフ…!


ハイエナ:急所は外した。次があると思うな。


ロベルト:犬畜生が指図とは。


ハイエナ:小僧を離せ。


ロベルト:哀れな坊やだった。くれてやる。


<<ロベルト、ヨハネをハイエナの方へ放り投げる。明らかな致命傷がいくつもある>>


ハイエナ:……!


ロベルト:急所を何度か突いた。次があるといいが。


ハイエナ:小僧、死ぬのか……。


<<ハイエナ、ジョセフの拘束をやめゆっくりヨハネに近づく>>


ジョセフ:……ぐっ…!(止血している)


ハイエナ:いつか、俺の手料理が食べたいといっていただろう……あれはどうするんだ。


ロベルト:そんな顔ができるなら、なぜロジェールを──っ(未来を見て顔をしかめる)


ハイエナ:花の話も、夢の話も、おまえの懺悔も、俺は聞けなかったな。

──すぐに行く。待っていてくれ。


<<銃声>>


ジョセフ:なっ!貴様どこに銃を!


ハイエナ:……猟犬の嗜みだ。主人に手間取らせるまでもない。


ジョセフ:ロベルト、見えていたか。


ロベルト:……あれは介錯だった。俺には、到底止められない。


ハイエナ:こいつの不死は呪いだ。銀弾でなければ死なない。だがアレでは蘇ることも無かっただろう。


ジョセフ:ただの忌人ではないな、何者だ。


ハイエナ:名乗ったよ、彼は。天使だ。呪いを押し付けられ、それでも誰も恨まなかったいたいけな少年だ。


ロベルト:なぜロジェールを呪った。


ハイエナ:お前はなぜ小僧を殺した。


ロベルト:……そうか。戦争なのか。


ハイエナ:ベルベット、これをくれてやる。


<<ハイエナ、銀弾の入った銃を放る>>


ハイエナ:ヴァルツヘルゲンの銀弾だ。俺にはもう、こんなものは必要ない。


ジョセフ:……そうか。


ハイエナ:最後に一つ聞いてゆけ。死にゆく狼の遠吠えだ。

呪いは壁も何もかもすり抜けるが、人体だけは透過しない。近くで呪いの爆発が起きる時、救いたい奴に覆い被さるがいい。


ジョセフ:なに?


<<ロベルト、未来を見る>>


ロベルト:え、え…?


ハイエナ:ベルベット、おまえはよく人がいいと言われないか。

俺のような暗殺者が悠長に話を続ける理由はな、時間稼ぎ以外にないんだよ。


ロベルト:これは…!ジョセフ!!


<<ヨハネ、血を吐きながら祈りを捧げる>>


ヨハネ:天に、まします……我らが父よ………


ジョセフ:ばかな!奴は、介錯を…!


ヨハネ:あなたの御心に、私の全てを委ねます……。


ハイエナ:ベルベット、呪いとはそういうものだ。我々の常識を覆すからこそ忌み嫌われる。


ロベルト:ジョセフ!逃げるぞ、早く!魔力が膨張している!呪いを帯びた恐ろしい量の魔力が!


ヨハネ:われらが、人を裁く如く、われらの罪を裁きたまえ……


ハイエナ:逃げるがいい、どこへなりともな。ヨハネは文字通り、死んでも使命を全うする。


<<ジョセフ、ロベルト、逃げる>>


ヨハネ:我らの、ルスラムよ……ごふっ、この命をもって、われらを……悪より救い給え……


<<ハイエナ、ヨハネの隣に腰掛ける>>


ハイエナ:最後まで、お前を苦しめてしまってすまない。


ヨハネ:……謝らないで、ください。わたしこそ、結局、あなたにあげるご褒美、なにひとつ……。


ハイエナ:いいや小僧、もうもらっているんだよ。


ヨハネ:……?


ハイエナ:この旅路が……君に捧げ、そして君からもらったこの呪いが。俺の救いそのものだった。


ヨハネ:ああ、ふふ……誰かを苦しめずに、人を救ったのは初めてです。


ハイエナ:誇ってくれ、君は間違いなく天使だ。


ヨハネ:ねえミスター。私、夢を見たんです。泣きそうな顔で私に縋る、あなたの夢を。思えばあれはあなたの介錯だった。


ハイエナ:……!


ヨハネ:私、スイセンが好きです。


ハイエナ:ああ、かわいらしいな。


ヨハネ:夢によくあなたが出ます。幸せな夢にだけ、あなたが。


ハイエナ:気恥ずかしいが、嬉しいよ。


ヨハネ:……叶うなら。きっとあなたを呪ってしまうけど、私は、あなたの息子になりたかった。


ハイエナ:今更構うものか。好きに呪え、ヨハネ。


ヨハネ:ふ、ふふ。最後まで、甘やかしてくれるのですね。

 

ハイエナ:……懺悔するとな。俺は君のことを、息子と重ねていたんだよ。


ヨハネ:…ええ、気づいていましたよ、クレイ。天国で、私も家族に迎えてくださいね。


ハイエナ:ふふ……俺も君も、地獄行きだよ。


ヨハネ:なら、地獄で。二人で。


ハイエナ:強情な息子だ。


ヨハネ:ふふ、言ってくれないのですか?


ハイエナ:(微笑み)ああ、ヨハネ。不滅の愛を誓おう


ヨハネ:(微笑みながら)ええ、クレイ。不滅の愛を、地獄で。

──Amenエイメン



<<堕天>>

<<場面転換>>



ロベルト(M):恐ろしくはあった。

もしも、ジョセフが呪われたなら?


そんなこと万に一つも起こらないに決まっている。

そう言い聞かせるたびにロジェールの最期を思い出す。

誇り高いロジェール、ヴァングレイドの勇士。

彼は呪いに蝕まれ、狂い、死を望み、その最期に最愛の娘の名を呼ぶ。


満足そうな笑みで、やっと会えたと。この俺を、娘と見間違えたまま。



<<場面転換>>

<<破壊された列車の外>>


ロベルト:くっ……!ジョセフ!ジョセフしっかりしろ!そんな、ああ、なんで庇ったりなんか……!


ジョセフ:(苦しみながら)うっ……はは、ばかめ、不滅の愛を、誓っただろう?


ロベルト:喋らないで…!何か、まだ手があるはず…


ジョセフ:いいや、もう助からない。何度も見てきた。これが呪いか。


ロベルト:冗談でもそんなこと言わないでくれ…!


ジョセフ:なあ、ロベルト。私もなんだ。私も、殺されるならお前がいい。

こんなことを願うのも頼むのも、おこがましいとわかっているが……やはり石ころみたいに死にたくないんだ。お前が殺してくれ。


ロベルト:ああ、そんな、ジョー


ジョセフ:こんなところで死ぬなんて、メリーに笑われてしまうかな……。あ、ああ(苦しみ出す)


ロベルト:ジョー、だめ、だめだ……!メリーに謝るんだろ?俺を食卓に、招いてくれるんだろう…?だめ、だめだめだめ……死なないで……。


ジョセフ:う、ぐ……メリー?メリー、いるのか……?


ロベルト:(呪いを悟る)…ああ、そんな、ロジェールと同じ……!俺を、メリーと……


ジョセフ:君に、謝りたかった、家を出てから……ずっと……。メリー、返事をしてくれ、お願いだ。


ロベルト:…!しっかりしろ!ここはヴェラリオだ!ジョー…!


ジョセフ:ああ、メリー。よかった……


ロベルト:ジョー……!もう声は届かないのか…?


ジョセフ:なあ、メリー…歌を、歌ってくれないか。怖いんだ、ここは暗くて、寒い。


ロベルト:(青ざめる)歌……怖いものなんてなくなる、魔法の……


ジョセフ:ああ……怖いんだ、怖い。君が見えない……あの歌がききたいんだ、頼む……。


ロベルト:っ…!…歌えない。教えて、もらい損なった…俺は……。帰ったら!帰ったら何がしたい?ジョー、なんでも、なんでもやるから、教えてくれ


ジョセフ:帰ったら……ああ、帰ったらきっと、ナタリアが待ってる。……君のアップルパイが、食べたいよ。


ロベルト:ああ、ああ。わかった。あんたの、好きなもの。全部作るから……。


ジョセフ:ああ……楽しみだよ。メリー、ロベルトを、見てないか。……家族に、迎え入れたいんだ。不滅の愛を誓った。


ロベルト:……!


ジョセフ:勝手をした、これで最後にするから……どうか許してくれ。


ロベルト:……っ、もちろん、もちろんだ、ジョー……!


ジョセフ:ああ、あいつも喜ぶよ……。


ロベルト:……ええ、もちろん。……だからお願い、死なないで……俺を置いていかないで……。


ジョセフ:は、はは……置いていったりなんか、しないとも。だが……すこし、眠くなって……。


ロベルト:そんな、そんな!ジョー、起きて。俺まだあなたに抱きしめてもらえてない。まだ恩返しもできてないのに。


ジョセフ:メリー………すまなかった……


ロベルト:…!


ジョセフ:君に乱暴なことをした……。メリー、どうか……許してくれないか。


ロベルト:……そんな、そんな…!最後の別れも俺はとられるの…?


ジョセフ:………ありがとう、メリー。愛して、いるよ……。


ロベルト:ああ、ああ…!おれもっ……あなたを愛してる……!


<<ジョセフ、動かなくなる>>

<<ロベルト、静かに泣いている>>


ロベルト:……あなたは……あなたは、あのイカれたルスラムなんかに、顔のない暗殺者なんかに殺されてはいない。安心してほしい。あなたは……っ、あなたの最後の望みは、俺の手で……。

<<間>>

──おやすみなさい、ジョー。


<<銃声>>



<<取調室、ロベルトと検察官が対面で座っている>>



ロベルト:……なぜ、ですか?

……そうですね。俺も同じ立場ならその言葉を投げかけるでしょう。

俺はあの人に従った。引き金を引いた。それは揺るがぬ事実です。

それでもあの人は、不滅の愛を誓ってくれた。

寄る辺 (よるべ)のない俺に手を差し伸べた。

ならばまだ終わるべきではない。俺の愛は滅んでなどいない。

戦争を続けましょう。

祖国に仇なす敵国に、呪われたルスラムに復讐を。

忌まわしい天使どもに鉄槌を。

おれの最愛に……っ


ロベルト:親愛なるジョセフベルベットに……不滅の愛を。

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