プロローグ
昔、濁池という地区で、早苗という美しい娘がいたが、庄屋の息子に嫁ぐことになる。
彼女に思いを寄せていた若者は少なからずいた。稲吉もそんな若者の1人である。
彼は濁池の近くで、落ち込んでいる。
濁池は、泥の沼となっている。以前死者を弔うために死体を池に沈めていたと伝えられている。そのためか濁池は近づくと奇怪なことに会うといわれ池に近づくものはいない。
稲吉も池のことは知っていたが、1人になりたくて誰も近づかない濁池に来たのである。
日が暮れ、辺りは暗くなってくる。稲吉は家に帰ろうと立ち上がる。その時、静かだった池の髄面が波立つ。
稲吉は警戒する。そして恐る恐る池のほとりに近づく。彼が見ると水面から白い2本の腕が出て岸の草を掴んでいる。
「うわわわー」
稲吉は、叫び声を上げ、腰を抜かし座り込む。彼は座ったまま後ずさりする。
池の中からは、腕に続き水にぬれた黒髪が頭にまとわりつき出てくると共に華奢な肩が出てくる。
稲吉は恐怖にひきつりながら、出てくるのものを見る。彼はそれの顔を見ると落ち着きを取り戻す。
それは、稲吉の知った顔だった。というより彼が心を痛めていた張本人である。稲吉はそれに話しかける。
「早苗、何をしているんだ。」「・・・」
早苗は答えない。稲吉は、早苗の手を引き池から引き上げる。早苗は全裸である。
「このままじゃ風邪ひくぞ。俺の家に来るか。」
早苗は黙ってうなづく。稲吉は暗がりの中、早苗を家へ連れていく。家に入ると彼は早苗に服を着せる。
稲吉は早苗に話しかける。
「おまえが庄屋に嫁ぐと聞いて、俺はがっかりしたよ。おまえ、嫁ぐのが嫌で逃げてきたんでないのか。」
早苗は、黙ったままうなづく。
「嫁ぐのやめて俺の所に来てくれないか。俺は、お前が好きなんだ。」
早苗は黙ったままうなづく。稲吉には、早苗の裸の姿が目に焼き付いている。彼は美しい彼女を自分のものにしたいと考える。
稲吉は早苗を力づくで押し倒す。早苗は抵抗せず、声も出さない。彼は彼女に劣情をぶつける。
その日から稲吉は家に引きこもる。
1週間後、良作は稲吉が姿を見せないので稲吉の家に行く。家の中には、皮と骨になって動かなくなった稲吉が倒れている。
良作は、稲吉よりその隣に座っているものに目がひきつけられる。彼も早苗に思いを寄せている。
「早苗さん、こんなところになんでいるんだ。」
早苗は答えない。良作は思い切っていう。
「好きです。一緒になってください。」
早苗は黙って微笑む。良作は早苗を家に連れて帰る。彼は家の中で早苗と抱き合う。
両親が仕事から戻ってくると息子の良作は泥の塊と抱き合っている。父親が良作に言う。
「何をやっている。やめないか。」「早苗は俺の者だ。邪魔するな。」
両親は泥の塊を良作から引き離そうとする。しかし、泥の塊が手をかざすと両親は跳ね飛ばされてしまう。
その頃、庄屋の家には、旅の僧侶が逗留している。僧侶は庄屋に言う。
「近くにある池というか沼には、よからぬ気配があります。邪気を封印した方が良いでしょう。」「濁池のことですね。あそこは奇怪なことが起こるので人は近寄りません。」
「そうですか。幸いです。」「今後のため池に封印をお願いします。」
「分かりました。明日にでも準備を始めましょう。」「ありがとうございます。」
そこへ良作の両親が駆け込んでくる。2人の慌てた様子に庄屋が何事か聞く。
「何があったのです。落ち着いて話しなさい。」「良作が泥の化け物と抱き合っているのです。」
「泥ですか。引きはがせないのですか。」「それが近づけないのです。」
僧侶が割って入る。
「私が行きましょう。」「お願いします。良作はどこだ。」「家の中です。」
僧侶は、両親の案内で庄屋と良作の家に向かう。4人が家の中に入ると良作は泥の塊と抱き合っている。庄屋が良作に言う。
「良作、泥から離れなさい。」「庄屋か、早苗は俺のものだ。」
僧侶が言う。
「良作さんには泥が早苗と言う人に見えるようですね。」「早苗は、うちの嫁だ。あんな泥の塊と一緒にされては困る。」
庄屋は憤慨する。僧侶は経文を唱え始める。すると良作は、みるみるとやせ細っていく。そして泥にひびが入り、泥の塊は崩れる。
両親は、良作に駆け寄るが、彼は事切れていた。両親は泣き崩れる。
僧侶は、庄屋に言う。
「この化け物は、あの池から出てきたものでしょう。」「分かりました。良作にお経をあげてください。」
僧侶は、お経をあげ、庄屋は冥福を祈る。
翌日から僧侶は濁池を封印する準備を始める。彼は池の周りの5か所に要石を設置する。
そして、僧侶は経文を唱えて封印を完成させる。その後、濁池では、怪異は起こらなくなる。




