1話 拉致
佐竹和沙は、両親と祖母、弟と暮らしている。彼女は高校生である。
彼女の家には、生まれる前から猫のぼたんがいる。随分長生きをしているが元気である。
ぼたんはいつも祖母の話し相手をしている。おそらく、祖母が一方的に話しかけているのだろう。
和沙は、高校へは徒歩で通学している。そんな彼女を見ている男がいる。
ある日、和沙が下校中、20歳代前半の小太りの男が話しかけてくる。
「君のこといつも見ていたんだ。お話をしたいから喫茶店にでも行かないかい。」
「困ります。」
和沙は走って家に帰る。数日後、ポストに差出人不明の封筒が投函されている。
封筒の中には写真が何十枚も入っている。すべて、和沙の写真で登下校の時に撮影されたらしい。
和沙は先日、声をかけてきた男を思い出す。
和沙は母親と警察に相談しに行く。
彼女は警察に声をかけてきた男について話す。
彼女は登下校を当分母親が送り迎えをすることになる。
1か月送り迎えを続けるが何事もなく過ぎていく。和沙は再び歩いて登下校するようになる。
数日後の下校中、人通りのない道に黒色のワゴン車が止まっている。和沙は何気なくワゴン車の横を通り過ぎようとする。
突然、ワゴン車のスライドドアが開いて、和沙を引き込む。車の中には例の男がいる。
男は和沙の口をガムテープでふさぎ、ロープで縛り上げると、ワゴン車を発進させる。
和沙は抵抗して助けを呼ぼうとしたが無駄だった。ワゴン車は町にある空き倉庫に入って行く。
男は倉庫の中にワゴン車を止めると和沙のいる後部座席に来る。男は和沙を服の上から全身を確かめるように触る。
和沙は男に汚されるような嫌悪感を抱く。男は和沙に言う
「これから一緒だよ。ずうっと一緒に暮らすんだ。君は僕を好きになるしかないんだよ。」
男は、歪んだ愛情を押し付けてくる。和沙は男をキモイを思う。
「触るな!キモイんだよ」和沙は叫びたいが口はふさがれている。男はさらに言う
「助けは来ないよ。ここはパパの倉庫だから僕しか来ないよ。」
「これからは君の世話は全部僕がしてあげるね。」
和沙に怖気が走る。彼女は早くこの男から逃げたいと考える。男にわからないようにスマホを探す。
男が気づいた様に和沙のスマホを手に持ち言う。
「これを探しているのかな。これは処分しておくから安心して。」
男は和沙の体を触った時、スマホを見つけていたに違いない。
和沙の母は、いつも帰ってくる時間に和沙が帰って来ないので不安になる。そして、暗くなるころ、警察に通報する。
警察は捜索をしてくれることになる。しかし、時間だけが過ぎてゆく。
和沙は車の中でひもをほどこうとする。ひもはほどけない。男が帰ってくる。手にはコンビニの袋を持っている。弁当を買ってきたようだ。
男は和沙の口を塞いでいるガムテープをはがす。和沙はすかさず大声を出す。
「助けてー誰かー」
男は和沙を殴り言う。
「いい子にしないと殺すよ。」
和沙は腹の下が冷たくなってくる。男に恐怖している。男はペットボトルのお茶の蓋を開けて和沙に言う
「痛いことしちゃったね。お茶を飲んで。」
男はペットボトルの口を和沙の口に当ててお茶を飲ませる。次に弁当を開け箸で和沙に食べさせる。
和沙は涙を流す。自分をみじめに感じているのだ。男は和沙の涙を見て言う
「泣くほどうれしいのか。僕もうれしいよ。」
男は全てを自分の良いようにとらえている。和沙を独占したいという欲に囚われている。
男は再び和沙の口にガムテープを貼ると車から出ていく。
しばらくすると、スライドドアが開く、和沙は男が来たと思い身構える。しかし入ってきたのは、猫のぼたんだ。
ぼたんは易々と和沙を縛っていたロープを切る。自由になった和沙は口に貼られていたカムテープをはがす。
ぼたんは和沙に言う
「ついて来い。」「ぼたんがしゃべった。」
和沙は驚く。車を出ると男に見つかる。
「まてー」
男が走ってくる。ぼたんは倉庫に開いた壁の穴から外に出る。和沙も後に続く。男も追いかけるが小太りの体は穴を通りぬけれない。
和沙はぼたんについて走る。ぼたんはコンビニに和沙を案内する。和沙はコンビニの店員に助けを求める。店員は警察に通報する。
男がコンビニに来て店員に言う。
「女の子が来なかったか。」「来ていません。」
和沙はカウンターの影に隠れている。そこへ警察官がコンビニに入って来る。
和沙は立ち上がり警察官に言う
「その男が私を拉致しました。」「何言っているんだ。君を愛しているんだぞ。」
男は警察官に逮捕される。
和沙は、それからぼたんと話をするようになる。




