3話 長田峠
黒木は登山用具を揃える。本格的な登山の経験はないため、近くの山に一晩かけてて登ってみる。自信は付かなかったが登山用具の使い方はしっかり覚えてある。
3人のアルバイトにバイト代を先払いすると自分の事務机の上に武藤宛の報告書と妻への遺書をおいて長田峠へ出かける。車を峠近くの空き地に駐車して北の斜面に入る。
予定は3日である。黒木は道なき山の中を歩き続け、夜は岩陰など風を防げる場所でビバークする。2回の夜を過ごして3日目夕方近くになり車に戻ることにする。
黒木は女と出会わなかったことに心の隅で安堵していた。これで事務所に帰ってこの仕事は終わりだと思う。
突然、後ろから声をかけられる。若い女の声だ。黒木は来てしまったと思う。
「3日間もさまよい歩いて、帰るところがないのか。」「いいえ、あなたを探していました。」
黒木は振り返りながら言う。そして女に見とれる。武藤が説明した通り、いやそれ以上に美しい女が立っている。
「私を探していたと、そちは狩人か。」「いいえ、探偵です。この冬、あなたが助けた人に雇われて探していました。」
「そうか、あの男はいい男だった。だから助けた。できればあの男に会いに来てもらいたかったのう。」「私と一緒に来てください。武藤さんに会えますよ。」
「お前は勘違いをしている。私がなぜ現れたと思う。」「それは・・・」
黒木から血の気が引いていく。女は美しくても捕食者である。女の口から鋭い牙が見える。黒木は死を覚悟するがやはり生きたいと願う。黒木は走り出そうとして転び北の斜面を転げ落ちていく。
事務所では3人のアルバイトが防犯カメラの映像の確認を終えていた。黒木は3日間留守にすると言って、そのまま帰って来ない。
3人はバイト代をすでにもらっているので困らないが、黒木が5日経っても帰って来ないので自宅に連絡する。妻は電話で黒木が帰って来ないことを知って警察に連絡する。
妻は事務所へ行き、机の上に報告書と妻に宛てた遺書を見つける。そこへ警察が来る。妻と警察は遺書を確認して黒木が長田峠に1人で向かったことを知る。
警察は長田峠の北斜面を捜索する。妻は武藤への報告書を見て、黒木が倉狩峠の鬼女に関わったことを知る。警察は食い荒らされた人間の死体を発見する。
死体は妻にも判別がつかなかったためDNA検査で死者が黒木と判断する。警察は滑落して動けなくなったところを獣に襲われたと判断する。しかし、妻は鬼女に襲われたのだと主張する。




