2話 雪の鬼女
長田町の駐在所の警察官は黒木に言う。
「ここらでは、雪の鬼女の話があります。大雪の日に迷った人の前に現れるそうですよ。」「私が探している人も大雪でさまよっている時に出会っています。」
「雪の鬼女の話は、お福さんに聞くと言いですよ。」「お福さんですか。」
「はい、もう引退したおばあさんですが、若い時には文学者で地域の伝承を集めていたのです。」「それは興味深い。紹介してくれませんか。」
「この道を行くと最初の十字路を右に入った所に赤い屋根の平屋があります。駐在の吉田に紹介されたと言ってください。」「ありがとうございます。」
黒木が教えられたとおりに歩くと赤い屋根の平屋に出る。玄関はまだ春なのに網戸になっている。黒木は声をかける。
「すみません。お福さんはご在宅ですか。」「はーい。」
着物姿の老婆が出てくる。黒木は駐在所の吉田が言ったように言う。
「駐在の吉田さんに紹介されて来ました。」「そうかい、あんたは伝承に興味があるのかい。」
「申し訳ありません。私は探偵の黒木と言います。ある女性を探しているのです。」「あんたが探偵さんか村でうわさになっているよ。」
「大雪の日にさまよっている男性を助けた女性を探しているのです。」「へ~、まるで雪の鬼女の話だね。でも雪の鬼女は男を食い殺してしまうからね。」
「その雪の鬼女の話を詳しく教えて欲しいのです。」「黒木さん、この辺で手を引いた方が良いよ。」
「どうしてですか。」「いろいろ伝承を集めていると中には本当にあったのではとか思う話があるんだよ。その中でも雪の鬼女は極め付きだよ。」
「途中でやめるわけにはいきません。」「死んでも知らないよ。」
「覚悟はできています。」「仕方ないね。雪の中を迷った男の前に現れると言われているけど、他の季節は山の中に現れている。」
「どうしてですか。」「大雪の中に現れるのは人目につかないからだよ。他の季節は人目につかない山の中と言うわけさ。」
「まるで山姥ですね。」「的を得ているよ。」
「調べて分かったのですか。」「古文書を漁って、山の中を歩いて痕跡を探して分かったのさ。」
「雪の鬼女と言われていますよね。」「それは明治以降のことだよ。それまでは倉狩峠の鬼女と呼ばれていたのさ。」
「ここの峠は長田峠と言いますが・・・」「昔は倉狩と言う集落があっただけで集落の人々や旅人が襲われていたのさ。」
「本当にいるようではありませんか。」「江戸時代初期に山狩りが行われた記録もあるよ。」
「会うことはできますか。」「町に出ている時は見つけ出すのは難しい。危険だけど長田峠の北の斜面をさまよってみることだね。」
黒木は考え込む。ここまでの収集した情報を報告書にして武藤に渡して終わりにすることもできる。だが、約束の1カ月まで1週間残っている。女に会う時間は残っている。
女に会ってどうする。話が通じる相手だろうか。黒木は考え抜いて女に会うことにする。事務所には武藤宛の報告書と妻への遺書を残して、長田峠に向かう。




