プロローグ
武藤啓二は、坂口町での商談を終えて、会社に戻るため峠の道を車で走っている。峠を通らなくても会社に帰ることはできるが1時間余分にかかるため、狭い峠の道を選んだのだ。
町では雪は降っていなかったが、山に入ると雪がちらつき始め、峠に差し掛かる頃にはふぶいていた。武藤は車のタイヤをスタッドレスタイヤに替えておいてよかったと思う。
峠を越えると道の状況が変わる、雪がかなり積もっていた。そして、深雪のため車が動かなくなる。
武藤は仕方なく携帯電話で会社に連絡する。
「武藤です。長田村の道で雪が深くて車が動かなくなりました。遅くなります。」「今、山にいるのか。こちらも急に雪が降りだして積もっている、レッカーを呼んだ方がいいぞ。」
「はい、そのつもりです。」「気を付けろよ。」
武藤はレッカーを呼ぶが、依頼が殺到していて、行けるのは明日になると言われる。仕方なく、車で夜を明かすことにする。
しかし、雪がどんどん積もってきており、車が雪に埋まってくる。武藤は車の周りの雪をどかすが、雪が車の屋根の高さまで来たところで諦める。
武藤は、長田村の家に泊めてもらおうと歩き始める。しかし、吹雪で前が見えない。武藤は雪原をさまよう。彼の服装は吹雪の中を歩くには軽装だった。
冷たい風と雪が体温を奪っていく。意識がもうろうとなる。ついに武藤は雪の中に倒れ込む。薄れゆく意識の中で、白い美しい女に抱きかかえられる。意識はそこで途切れる。
武藤が目を覚ました時、布団に寝かされていた。男が武藤に声をかける。
「気がついたか。119番したが、この雪で来られないというから布団に寝かせていたんだ。」「私は武藤と申します。助けていただいてありがとうございます。」
「武田と言います。インターフォンが鳴ったから、外を見たら玄関前に倒れていたんだよ。」「私は色白の女性に抱きかかえられて・・・そこから記憶がありません。」
「この家には、私と妻がいるだけです。村の誰かが助けたのでしょう。」「そうですか。」
翌日になると雪がやみ晴れる。武藤が外に出ると道のすぐそこに武藤の乗っていた車が雪に埋まっていた。
武藤は後日、長田村を訪れて、女を探すが見つからなかった。武藤は時が経つにつれて女に会いたい気持ちが高まっていった。




