5話 岩戸の中
沙衣と祐二は、ハイキング部員の案内で岩屋へ行く。岩屋の入り口にはもう1人ハイキング部員がいる。
「省吾もハルトも出てこないよ。警察に連絡したけどまだかな。」「岩屋には私が入ります。」
沙衣が言うと部員は止める。
「女の子には無理だよ。危険だ。」「彼女は中野沙衣様だよ。お金を払う約束をしたんだ。」
「中野沙衣て、あの祓い屋の沙衣様か。」「そうだ。」
彼女は大学内で無冠の女王で、化け物退治の祓い屋として知られていた。沙衣は部員からヘッドライトを借りると岩屋へ入って行く。
祐二も一緒に行きたかったが、沙衣に外で待つように指示される。沙衣は中に入った省吾とハルトは手遅れだと考えている。やることは化け物退治である。
沙衣は、ヘッドライトの灯りと化け物の気配を追って中を進む。岩屋の中には、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ・・・・と骨をかみ砕くような音が響いている。
岩屋の奥まで行くと男が血まみれで倒れている。背中に大きな引き裂かれた傷がある。男はピクリとも動かない。この出血の量であるすでに命はないだろう。
そこには2メートル位の大きさのカエルのような化け物がいた。体が土色のぬらっとした皮膚に覆われており目は大きく見開かれている。
化け物は、ガリ、ガリ、ガリと骨をかみ砕くような音をさせて何かを無心に食べている。おそらくは男子部員の1人であろう。
沙衣は、水の刀を作りだすと化け物の心臓のあたりにめがけて刀を投げつける。刀は化け物の背中から胸に抜けて刺さる。化け物は食べることをやめ、ゆっくりと振り返る。
化け物の目は大きく、口も大きくて牙が並んでいた。口の端には人間の手が牙に引っかかりぶら下がっている。
沙衣は、刀を水に戻す。すると化け物の胸から血が噴き出すがすぐに止まる。傷口がふさがったのだ。化け物の大きな目が沙衣を捉える。
沙衣は、トンと地面を踏みつける。すると巨大な水のトゲが地面から飛び出し化け物を串刺しにする。化け物は沙衣に近づこうとするが動けない。
化け物は右手を伸ばす。それでも沙衣には届かないはずだ。だが腕が伸びて鋭い爪が沙衣を切り裂こうとする。沙衣は飛びのいてかわすが皮膚を切り裂かれる。
出血は大したことはない。傷を稲荷にもらった勾玉に願いを込めて癒す。しかし、沙衣の怒りは収まらない。白のブラウスがズタズタに引き裂かれていた。
祐二がかわいいといってくれた。似合っているといってくれた。彼女の怒りが爆発する。
「どうしてくれるのよ。」
巨大な水のトゲが2本壁から突き出て化け物を串刺しにする。さらに水の刀で化け物を切り刻んでいく。これには化け物の再生能力も追いつかない。
沙衣は、化け物を完全に細切れにするとやっと止まる。彼女は化け物の返り血を浴びて赤く染まっている。
祐二は、沙衣が岩屋から出てくると慌ててリュックサックからジャケットを取り出し沙衣にかける。沙衣が祐二に聞く。
「どうしたの。」「前が丸見えだよ。」
「見たいんじゃないの。」「僕以外の奴に見られるのは嫌なんだ。」
「そう、血で汚れちゃうから、新しいのを買うわね。」「いいよ。安物だから。」
「ドライブの思い出が大変なことになったね。」「大丈夫だよ。いつものことだから。」
警察が到着してみんなが岩屋の前に集まる。警察官が聞く。
「中に化け物がいるんですね。」「化け物は私が退治しました。」
「君が?どうやって。」「詳しくは東海警察署の吉田刑事に聞いてください。」
警察官が2人岩屋へ入って行く。刑事が東海警察署へ電話する。
「丸戸署の岩永です。吉田刑事をお願いします。」「私が吉田です。」
「化け物を退治したという女性がいまして、吉田刑事に聞けと言うもので。」「中野沙衣ですね。幽霊や化け物の専門家です。」
「事情聴取したいのですが。」「お金にうるさいから、必要な事情聴取は私の方で引き受けます。」
「お金にうるさいのですか。」「守銭奴です。引き留めるとお金を請求されますよ。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
沙衣は早々に警察から解放される。岩屋の中からは男性2人の死体と化け物の死体、多量の白骨が出てきた。
後日、沙衣と祐二が事務所でテレビを見ていると岩屋の事件のことを放送していた。テレビだは大学生2人が岩屋の中で獣に襲われたことになっていた。
祐二が沙衣にかけたジャケットは、彼女のドライブの思い出として大切にしまってあった。




