ガラスの瞳
しまった。遅刻だ。
今からじゃもう間に合わないが、それでも、次のバスに飛び乗った。
何しろ、もともと、遅刻の常習犯だ。
しかし、来年は、高校受験である。
例え、遅刻しても、欠席するよりは、マシだろう。
ようやく、学校に辿りついて、おそるおそる、教室のドアを開けた。
先生の怒鳴り声が聞こえる。
まあ、それは、想定内なのだ。
しかし、クラス内の異様な雰囲気に、即、気が付いた。
何と、級友の全員の「瞳」が、人間の「瞳」では無いのだ。
敢えて言えば、マネキン人形のような冷たい「瞳」に、全員、置き換わっていたのだ。
受験勉強が、クラスメートの「瞳」を、「ガラスの瞳」に変えたのか?
まるで、カフカの小説『変身』のようではないか?
何とか席に着いて、隣の女の子に手鏡を借りて、自分の「瞳」を見てみた。
何と、自分の瞳も「ガラスの瞳」だった。