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消えた君と桜がみたい  作者: 木端慎一
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4月下旬、満開だった桜の花が、枝から根元へと色を移しはじめた頃、夕風は思いのほか僕を冷たく包んだ。

学校帰り、うっすらとした記憶を頼りに宮森さんの家に向っていると、見覚えのある家がちらほら見えた。黄色い家やレンガの家どちらも知っている。僕が家にかえる時も見かける家だ。そして、そこからほどなく歩くと、宮森と彫られた表札のある家を見つける。

僕の家から宮森さんの家までは、もっと距離があると思っていた。近く感じるのは、僕が大人になったからなのか、頭の中が宮森さんの事で埋め尽くされていたからなのか、いずれにしろ、考えがまとまる前に早く着いてしまった。

改めて家を見ると、印象は昔とかわらない。洋風な造りの白い家で、柵からドアまでの距離が遠く、僕の家と比べるとかなり大きい。まるで小さいお城のようだと思った記憶そのままの家だった。

宮森さんの家の前にきたのは何年ぶりだろうか。記憶では、まだ僕が彼女を「葵ちゃん」と下の名前で呼んでいた頃だから、きっとはるか大昔に違いない。

僕は深呼吸をして、インターホンを鳴らした。もちろんはじめてだ。カメラが僕を睨むように作動している。

「はい……」と警戒したような女性の声が受話口から聴こえる。恐らく、宮森さんの母親だろう。

「あ、あの僕、夏木といいます。葵さんはいらっしゃいますか?」

「え? 夏木君? どうしたの?」

「いえ、宮森さんが最近、学校にきていないので、プリントを……」

「あー、ありがとうね。申し訳ないんだけど、そこのポストにいれておいて。あの子今出かけてていないのよ」

「出かけてるんですか…… 明日はこられそうですか?」

「え?…… それは、ちょっとわからないけど……今ちょっとうちもバタバタしてるのよ。だからって言ったら変だけど、あまり話せてないから、最近あの子がなにを考えているのかわからなくて……」

「そうなんですね……」

「ごめんね。夏木君が来たってこと葵に伝えておくわね」

「わかりました、よろしくお願いします」といって僕はその場から離れた。少し歩き、僕は再び宮森さんに電話をかけるがやはり出なかった。

彼女はいつも僕を振りまわす。それが、趣味なのかと思うくらいだ。昔からそうだった。気がつけば彼女は僕のそばにいて、僕は彼女の無責任な笑顔に振り回されてきた。

一目見たそのときから、その笑顔が頭から離れない。

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