2
部活動をしていない僕は、授業が終われば家に帰るという至極当たり前の事をできずにいた。その理由は部活をしている宮森さんに一緒に帰ろうと言われ、はっきりと断ったはずが、なぜかこうして強引に待たされることになっているからだ。
「ごめん、遅くなった!待たせたね!」と教室のドアをあけたのが、僕が普段下校している時間から3時間たった時だった。
「うん、待ったよ。かなりね」
「いいじゃん。どうせ家に帰ってもやることないでしょ?」
「たくさんあるよ。それより、部活終わるのかなり遅くなったんだね」
「え? うーん、そう…… かな? 」
困ったように彼女はあはは、と嘘くさく笑ってごまかした。
僕は嫌味で言ったつもりだった。
彼女はいつも部活が終わる時間を本来の終わる時間よりも早めの時間で僕に伝える。
そこに、どんな真意があるのかは定かではないが、確かに、最初に本来の終わる時間を聞いていたら問答無用で帰っていたかもしれないとは思う。
そんな詐欺師のような手を使ってでも僕を引き止めて一緒に帰る理由がわからなかった。
帰り道、小さな喉仏を軽快に上下させながら、彼女はスポーツドリンクをまるで熱い砂漠で飲むかのように豪快に流し込んでいた。
「そんなに喉乾いてたの?すごい勢いで飲んでるけど」
意外な質問だったのか、それとも僕が気にするようなことではないと思ったのか、いずれにしろ彼女は僕の発言に動揺して、慌てて飲むのをやめた。
「ちょっと、女の子が食べたり飲んだりしてる時にそんなこと言うと嫌われるよ」
「たくさん食べてる人にお腹空いてたの?ってきくのがそんなにいけないの? 普通の会話だと思うんだけど」
「その子からすると、がっついてるはしたない子に思われたかもってなるんだよ!本当、夏木君は女の子の事なにもわかってないんだから」
「そうか…… 女の子は変わってるね」
「女の子も君に言われたくないと思うけどな」
「僕は普通だよ」
「どこが! 変人中の変人だよ」と彼女は大袈裟に驚いたような反応をしたあと、吹き出して笑っていた。
「こんな時間がずっと続けばいいのにね」
またも彼女は唐突に理解に苦しむ発言をした。夕日を見て刹那的な感情になったのだろうか、それとも青春を満喫しているのだろうか、彼女の考えは僕にはわからない。
「感傷的な気分にでもなったの?」
「ちがう! もう、夏木君って本当、デリカシーないよね!」
半分だけ赤く染まった嬉しそうな彼女の顔を僕はあとどのくらい見るのだろう、と僕も少しだけ春の雰囲気にそそのかされる。