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読まれなければそっと封印しようと思ってます 笑
もう一度桜を見たいと言ったのは彼女の方からだった。
「今は春だし、そんなの、歩いてればいずれみれると思うよ」と僕は教室で帰りの荷支度をしながら即答する。
「そんなの嫌!」
宮森さんはわかりやすく頬を膨らませ、理不尽に怒っていた。何が嫌なのかは聞いても絶対に言わないだろう。
昔から彼女の事を知っている僕はそのことを折り込みずみだ。
だから、僕はわかりやすく穏やかな口調で彼女に説明してあげることにした。
「桜が見たいって言ったのは君じゃないか。だから僕は君の目的が叶う可能性がある選択肢の1つを提案したんだよ」
「夏木君がなにいってるのか全然わかんないけど、とにかく一人で見にいくなんて絶対嫌!」
「1人じゃないさ。今は春で花見の時期なんだから、きっと大勢の人が……」
「もういい!夏木君なんて嫌い」
彼女は怒って教室から出ていった。
そもそも僕の名前には夏が入っている。春ではない。春木という名前なら僕の対応は違ったのかと聞かれればそんなことはないだろう。
翌朝、彼女は昨日の出来事をすべて忘れたのか、満面の笑顔で家を訪ねる。
「おつかれ! 今日暇でしょ? 桜見に行こ!」
「別に疲れてないし、暇でもないよ。これから、読みたい本もあるし、食べたいアイスだってあるんだ」
「お、アイスいいね。一緒に食べよ!」
はぁ、と僕は玄関でため息をはく。
「うん、とりあえず、上がっていいよ。それとアイス食べたら帰ってくれよ」
「それはどうかな?」と言ったあと彼女はにっしっしとわかりやすく企みを顔に出していた。
リビングのソファーに二人で腰を掛ける。
「夏木君、今日はご両親いないの?」
「ん?ああ、今はでかけてるんだ。結婚記念日…… じゃなくて、一目惚れ記念日だったかな? くだらなすぎてわすれたけど」
「なにそれ!一目惚れ記念日なんて素敵!」
目を輝かせている。女子全般はこういう話が好きなのだろうか。彼女は変人のはずだが、例外ではないらしい。
「全然素敵じゃないよ。ただたんに、親父が惚れやすかっただけの話しだよ」
「でもその一目惚れしたひととこうして結婚してるわけでしょ? やっぱり素敵だよ」
「お互い他に相手がいなかった。ただそれだけの話しだよ」
「ねー、なんでそんななの!」
「元々だよ。一目惚れってことは、つまり外見重視ってことさ。運命もへったくれもない」
僕は知った風にそう言い放った。
「ちがうね!運命ってのは絶対あると思う」
溶けかけのアイスを舌ですくいとりながら彼女は自信満々に言った。
「なんでそういいきれるんだ?」
「なんでって…… 私はあるって信じてる。ただそれだけの話しだよ」
そう言ったあと、彼女はアイスのついた口角をニヤリと上げた。
語尾を独特のトーンで話したとこをみると恐らく僕の口調を真似したんだろう。全く似ていないことを指摘してもいいけど、不毛なやり取りになりそうだからそのことは流すことにした。
「君が信じるのは勝手さ。僕は別に運命があるかどうかなんてどうでもいいからね」
「私は、夏木と知り合えたのは運命だと思ってるよ……」
急にどうしたのだろう。と僕は彼女を見た。すると彼女は少し頬を赤らめ今度はふへへと恥ずかしそうに笑っている。
彼女の手元に視線を送る。
「アイス…… 食べおわった?」