はじめまして
陽の光はまばらにしか届いてこなかった。鬱蒼とした森を進んでいく。何本もの木の幹がまるで通せん坊をしているかのように行先を塞いでいる。果たしてこの密集状態で木が育つのか、はなはだ疑問に感じるほどに、森は進めば進むほど狭くなっていった。
鼠の足跡のように細々と差してくる陽光が、あなたの進路を示している。幹を避け、茂る草々を掻き分け進んでいく。湿気があなたの頬に付き、水滴となって落ちていく。
果たして進んだ先に、眩い光が見えた。木々の間から、森の果てが覗いている。
そのまま進んでいくと、やはり開けた土地に出た。強い陽光が視界を刺す。ホワイトアウトした視界が落ち着いてから、周囲を見渡すと、先方で煙が昇っていた。
この奥に、村がある。周辺を深い森に囲まれた、秘境の限界集落という話だった。しかしたち昇っていく煙は、太陽から零れ落ちているかのように太く強烈で、有事のものを思わせる。
あなたは先を急いだ。背の低い草が、踏まれるたびにぱちりと音を立てる。
村は壊滅状態だった。立ち並ぶ民家は、どれも屋根が欠け、あるいは壁に穴が開き、柱が崩れ、傾いていた。煙ったい熱気が村全体を包み込み、大きな火事があったのだろうと容易に想像できる。ほとんど火は燃え切った後らしく、ただ家屋から吹き残る煙が空で集約して、ひとつの大きな柱になっている。
村人は大丈夫だったのだろうか。近いところから順々に家に入り込むも、人の気配は感じられない。いくつもの家を眺め、村の中央へと進んでいくと、そこでようやく、ひとつの背中を見た。
その人は、広場のようなところでへたり込んでいた。どこでもないどこかを眺めているように、座り込んだままぼんやりと目を開けている。あなたが近づいても、その人は何の反応も見せなかった。
「大丈夫ですか」
話しかけると、ようやくその人は煤に汚れた顔を向けた。きつく眉をしかめ、あなたの顔を確かめる。
「他の村人はどこですか」
「どうして」
人は、それだけ言って、強く咳き込んだ。背中に手をやり、さすってやろうとすると、その人は立ち上がる。あなたの腕から逃れるようにして、キッとした目で向かい合った。
「どうして」
そう繰り返す。
「現地調査に来ました。他の村人はどこですか」
「これが国のやることですか」
「この度の事故につきましては、深くお詫び申し上げます。まさか人が住んでいたとは、こちらには情報が届いておらず」
人が喉を震わせ、涙を零す。
割れた窓ガラスに、あなたの姿が映っている。国家謹製と書かれたラベルが、あなたの鉄腕を赤く色塗っていた。
初出「TxT Live」2020.4.12
お題:はじめまして
制限時間:1時間




