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私達の牛乳

作者: くれふじ

 冷蔵庫の片隅で、ひっそりと佇んでいた私達の牛乳はどこへ行ったのだろう。

 夫に聞いても、「知らん。」としか返って来ないし、これ位の事で、もめるのもつまらない。

 かと言って、私達が育てていた牛乳なのだ。

 決して代わりなどいない、私達の牛乳だったのだ。

 もう3年と6か月も一緒にいた私達の牛乳なのだ。


 それから数日して、忽然と私達の牛乳は見つかった。

 私が言えを離れている間に、いつの間にか元の位置に、当たり前みたいに居座っている。

 パックの凹みも、製造年月日も、中身の量に至るまで、まったく同じ私達の牛乳だ。


 ただ、この牛乳は、本当に私達の牛乳なのだろう?

 何も告げずに言えを飛び出したかと思うと、何事もなかったみたいに平然とこちらを見ている。

 あんなに可愛がっていたのに、何も言ってくれない。

 私が問い詰めても、汗をかくだけで、返事すらしない。

 今まで私達と一緒に過ごして来たのに、心配した私の事なんて知らないみたいに冷え冷えした表情を浮かべている。

 数日のブランクで、こんなにも変わってしまうのだろうか?

 この子は、本当に私達の牛乳なのだろうか?

 私達の牛乳は、もっと良い子で、あんなにも明るく私達を元気付けてくれていたのに…。


 私が冷蔵庫のがなり立てる音を聞き流しながら、牛乳と見つめ合っていると、夫が返って来た。

 冷蔵庫の前で動かない私に、彼は、スーパーで買って来たであろうビニールに詰められた、真新しい牛乳を差し出して来た。

 無言の夫は、凹みも色あせもない新鮮なただの牛乳を、色のない瞳で差し出してくる。


 私はそれを受け取ると、私達の牛乳であっただろう牛乳と取り換えた。


 シンクに流れて行ったあの子は、何故か寂しそうにこちらを見ていた。

 擦り切れたパックの中で、無駄に張り付いて、私に、2度目の反抗をしていた。

 家出なんかしなければ、ずっと一緒にいれたのに。

 妙に嫌な臭いを放つソレを、握り潰すと、中に残った固形物も気にせず、ゴミ箱へと押し込んでいた。


 それからは、その子が私達の牛乳になった。


 今度の子は利口みたいで、まだ片隅で、ちゃんと佇んでいる。

 前の子みたいに、急に消えないで欲しい。

 前の子も、その前の子も、数か月から数年毎に、唐突にいなくなる。

 その度に、夫が無言で新しい子を連れて来る。


 気付けばもう、初めの子がいなくなってから、10年が経っていた。




読んで下さって、ありがとうございます。

好きな著者さんが話題に挙げられていたので、3つ書かせてもらいました。

ギャグを書きたかったのに、真逆に走ってしまったぜぃ。

他のモノは、味付けをかなり変えたので、気になった方は、ぜひともどうぞ。

気にならなくても、是非是非どうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] シュールな感じが良いですね。
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