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暗殺者は光の世界の夢を見るか?  作者: 月のウサギ
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黒雨の惨劇

「何だおま」

「邪魔」

薄暗い酒場に入ってきたメア・ストリーラーが右手を腕ごと真横に振るう。その瞬間、話しかけてきた酒気を帯びた男の首に綺麗な切断面が出来る。

「あ……?」

男が痛みを感じない刹那の殺人。男の頭が声を洩らすのと同時に頭が地面に落ち、切断した首から噴水のように血が吹き出す。

辺りにいた客たちは騒然としながらも腰に携えた剣をメアに向ける。だが、向けられた剣は震え、恐怖を抑えきれていなかった。

そして、返り血を浴びたメアはそんな客たちを興味なさげに一瞥した瞬間手近にいた男に肉薄する。手近にいた男が振り下ろすが、すかさず黒いグローブを着けた左手で掴む。

「くっ……ガハッ!?」

動かそうとしても万力のように力で動かない剣を見て驚く男の腹に手刀を刺す。本来筋肉があって固く、道具を使わなければならない筈の腹にメアの手は差し込まれ、上に切り上げられる。

腹に開かれた傷口から臓物が落ち男が傷口に手を当て声にならない悲鳴をあげているが、メアはお構い無しに顔面を蹴り飛ばし気絶させる。

その瞬間、蹴りの隙を突いてきたであろう男が真後ろから袈裟切りを背中に叩き込んでくる。

「なっ!?」

だが、男の予想は大きく裏切られる。

メアに振るった剣は背中を切るどころか身に付けていたコートすら切る事が出来なかった。それだけではない。振るった剣の刃は根本からポッキリと折れ、回転しながら地面に落ちていった。

普通、コートに使われるのは麻や綿だ。いくら剣がなまくらで、男が剣の整備を怠っていたとしても普通のコートは切れるし人の体も切ることは出来る。そのため、まるで大きな岩を無理矢理剣で切ろうとしたかのような折れ方は絶対にあり得ないのだ。

だが、男が答えを知ることはなかった。メアが伸ばした平拳が頭に当たり頭蓋骨ごと脳漿ごと破裂したからだ。

男が崩れ落ちるよりも速く近づき切り上げてきた攻撃を僅かに後ろに下がり回避する。そのまま背後にいた男の腹を肘で打ち、肩に手を当てそのまま背後に跳躍。盾にする。振るわれた剣を避けれなかった男の心臓に剣が突き刺さる。

「なっ!?」

仲間を自分の手で殺して男は身を引く。だが、メアにとってそれはただの隙でしかなかった。

心臓を正確に穿たれた死体を投げ捨てメアが一歩、力強く踏み込み螺旋を描く掌底を腹に打ち込み男をカウンターまで吹き飛ばす。

「がっ!?」

メアは床に落ちていた頭を蹴り飛ばして男の頭に当て肉薄。発頸を打ち込み心臓を破裂される。

一通りの戦闘を終えたメアは酒場の惨状を確認する。酒場のテーブルや椅子は死体に押し潰され、木の板を繋いで出来た床は血で赤く染まっている。

その中でたった一人血まみれになりながら呆然と呟く男にメアは目を向けて地面を擦るように歩きながら説明する。

「何だよこれ……!?」

「単純な話だ。お前らが勝手に敵と味方を区別し、敵を排除した。その敵が味方だと知らずにな。心が弱いものほど、俺の『殺意指標(フルグラービリュウ)』は力を発揮する」

常に殺意を振り撒き続けたメアの動きは『次に殺す』というメッセージを込めているように思わせた。そう思わせた事によって攻撃のタイミングを間違え、味方どうしで傷つけあった。結果として疑心暗鬼に陥り、勝手に殺し合いを初めてしまった。それこそが『殺意指標(フルグラービリュウ)』。理不尽とも言える殺意が新しい惨劇の引き金になるように向かわせた人を殺すためだけの戦術。

メアにとっては『仲間関係の薄い組織にはよく通じる手段』でしかない。逆に言えば条件にさえ合致すればどうしようもなくなるのと同義である。

それを聞いた男は顔を怒りで赤くして近づく男に剣を向ける。

「何なんだよお前!?俺たちに恨みでもあるのか!?」

「恨み?あるわけないだろ(、、、、、、、、)。依頼故に殺しに来た」

「暗殺者か……!」

暗殺。人を殺す事で報酬を貰う『闇』の仕事の一つ。標的を殺せば良いため、ありふれている反面生き残りにくい仕事。齢17のメアは暗殺者の世界では既にプロ(、、)だ。

メアの正体に気付きながら男は剣を向けていた。いや、向けてないといけなかった。既にメアは剣の間合いに入り、振れば当たるところにまで踏み込んでいた。

だが、動かない。動けない。何名もを一瞬で皆殺しにした暗殺者に男は完全に屈服してしまっていた。だが、メアはそんな男の心臓を刺し穿つ。

その瞬間、男は吸い込んだ息と共に血を吐く。脳に反芻する形容し難い激痛で剣を手から落とす。それをメアは邪笑とも言える殺意にまみれた笑みで、

「ゴッ!?」

「尤も、お前に俺の正体を話したところで意味はない。すぐに死ぬのだから」

耳元で囁き、心臓から栓になっていた手が引き抜かれる。

その瞬間、おびただしい量の血が吹き出し酒場はより一層赤くなる。

血が一通りで終えたところでメアは血で汚れた黒い薄手のコートを脱ぐ。コートは血のついてないテーブルに掛ける。黒いスーツ姿になるとカウンターを退かす。

「ビンゴ」

カウンターの裏には窪んだ地面に納められた木箱があった。罠を警戒しながら開く。中には幾つもの羊皮紙が仕舞われていた。羊皮紙にはびっしりと数字が書かれており、メアは何度も瞬きしながら読む。

そして、これがメアにとって目標とも言える。メアの依頼主はこの羊皮紙を処分するためにメアを雇い襲撃させたのだ。

羊皮紙を回収したメアはコートの裏地に隠していた小袋に詰め込むと酒場から出る。そして、暗い夜に降る雨の中静かに街に消えていくのだった。



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