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お出かけってこれで合ってますか? 2

「ご来店ありがとうございます〜今日はどのような要件でしょうか〜」

「えっと......」


 自動ドアを通った僕達に気付き、店員さんが要件を聞きに来る。こういった経験がほぼない僕からしたら未知との遭遇だ。


 しどろもどろになる僕に変わり、先輩がサッと表情を変えて僕の代わりに会話を進める。


「今日は彼の初めてのスマホを買いたいんです。」

「かしこまりました〜では券を発行致しますねぇ〜」


 慣れた手つきで発行された紙を先輩は受け取ると、そのまま僕の手を引いて色々なスマホが飾ってある所へと僕を誘導する。


「日向くんはなにか欲しい機種ありますかぁ〜?」

「え、あ、いや、というか機種?」

「まずはそこからでしたか......」


 んー?見間違い?なんかさっきの先輩とても頼もしく見えていたような気がするけど......。


「えーと―...それで...この違いが...」


 先輩が説明してくれているのに僕の耳は、ただただ言葉を通過する道具にしかならなかった。今見てる先輩はいつも見ている先輩なんだけど......。


「聞いてますか〜?」

「え、あ、すみません。全然......」

「んもう〜!」


 少し頬をふくらませた先輩が可愛くて僕の知ってる人だと少し安心をした。そんな僕達の後ろからスーツ姿の、如何にも仕事が出来ますといった風な店員さんが話しかけてきた。


「スマホをお買い上げのお客様ですか?」

「あ、えーと、そう―」

「はい。彼が初めてスマホを買いたいそうなので」

「最近ですとこの機種が―」

「ふむふむ」


 んーんーんー?目の前にできる人が二人出来たぞ?ゴシゴシと瞼をかく僕に店員さんが、僕に聞いてきた。


「ご自宅にWiFiはございますか?」

「わ、わいふぁい......?」

「ええ、ご自宅のネットの環境はどのようになっていますか?」

「ね、ネット......」

「WiFiはありません。」


 先輩が僕の代わりに答えてくれる。


「かしこまりました。画質の方はどうなさいますか?」

「が、画質?」

「はい。昨今SNSの発達により様々な需要が増えてきていますので、写真の画質はどのような―」

「え!?スマホで写真取れるんですか?」

「え、ええ。二つ折りの時代から撮れますが......」

「画質はそこまで気にしなくても大丈夫です。」

「かしこまりました。そろそろ窓口の方も空くので、椅子でお待ちください。」


 そう言われ颯爽と去っていく店員さんの後ろ姿を眺めた後、僕達は促された椅子に腰かける。

 ふぅ、と小さく息を吐く先輩に、じっと見つめられ、僕はドキッとしてしまった。


「日向くん、さすがに何も知らなすぎでは!」

「え、えぇと面目ないです......」

「アプリゲーとかおすすめしようとしましたけど...この様子じゃ」

「アプリ?」

「ですよね!あーもう今日は色々と私が教えます!」


 どんと胸を張りながら、へへんとでも言いそうな先輩。


 格好は微笑ましいのだが、あまりにも凶悪なその武器をそこまで強調するのだからスマホの店内は、一瞬凄まじい程の感情に飲まれた。


 男は鼻を伸ばすもの、嫉妬と憎悪を僕に向けるもの、女性は先輩を睨みながら自身の胸を見るもの、ヨダレを垂らしながら先輩を見つめるものなど、正直に言うとゾッとしました。


 しばしの間話していたら、どうやら準備が出来たみたいで、僕達は窓口に通される。何やら色々な機種やら様々な説明をされたけど......うん全然分からないや。


 先輩は僕と代わって面白そうにその機種を眺めては可愛い、とか画質が綺麗ですー等の感想を述べている。


「それで、どの機種になさいますか?」

「うーん......」


 遂にこの時が来たか。でも僕全く分からないしなぁ。ちらりと先輩を見ると、同じように横目で僕を見ようとしていた先輩と目が合って、思わず顔が赤くなる。


 先輩はふと、僕に近寄るとそっと耳打ちしてきた。


「えっと...散々説明されましたけど最初は見た目で入るのもいいですよ?」

「は、はいぃ......」


 突然耳元でそんなことを囁かれて、僕は耳がさらに耳が沸騰しそうになる。


「じゃ、じゃあこれで......」


 僕が手にした四角いスマホ。紺色の何の変哲もないスマホだが、その選択に先輩は少し驚いて、恥ずかしそうに笑った。


「?」

「あ、ああ...すみません、つい。」


 僕と店員さんははてなマークを頭にうかべる。


「だって......」


 先輩はカバーらしきものがつけられたスマホを取り出すと自身の顔に近づかせながら、満面の笑みになる。


 動作もさることながら、天使のようなその笑みに店員さんまでもが赤くなる。


「私とお揃いの......スマホ...だったので......」

「!」


 カバーに気付かなかつたけど、確かに先輩が手にしているスマホは僕の色違いのように見える。


「え、ええ!?す、すみません、嫌でしたよね?」

「ふえ?いえ、全然構いませんよ?というか今どき同じスマホは多いですし......」

「そ、そうなんですか......」

「と、ところで......」

「ああ、す、すみません。この機種でお願いします......」


 僕はおずおずとスマホを店員さんに渡し、様々な手続きを終えて支払いを終えてから店内から出た。


 なんか色々とあったけど、やった。ついに僕もスマホデビューだ!


 太陽に掲げるようにスマホをあげると、キラキラと光る宝物のように見えるのは僕の勘違いだろうか。


 それとも隣でそんな僕の様子を眺め、笑みを浮かべる先輩とお揃いのスマホだからそう見えるのだろうか。


 僕は後者がいいなぁなんて考えたんだ。









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