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オタクな女の子は嫌いですか? 2

一応1週間毎日投稿です。時間は夕方辺りだと思います。

 夕暮れの差し込む部屋のような部室で、僕と美空先輩はしばらく笑いあった後、お互いに事情を話した。


 僕は図書館に本を届けに行ったこと。先輩は、そこでオタク仲間だと勘違いして僕をこの部屋に連れてきたこと。


 先輩は俗に言うオタクらしい。アニメ、ゲーム、漫画、ラノベをこよなく愛す人なんだと説明をされた。


「花影君はどうして、図書館に?」

「へ?」

「いえ、普通落し物なら職員室か、もしくは教職の窓口への提出だと思うんですけど......」


 確かに落し物は普通そこに届けられるだろう。でも僕はそれが出来ない理由があった。


「だって、広すぎるんですよ!この学校!僕もそう思いましたけど、職員室だけで7箇所ですよ!?7箇所。

 多すぎます。多すぎますよォ......。それに窓口もどこにあるのか分からなかったですし......」

「ま、まぁ普通はそうですよね。校内案内で三日使うの多分うちぐらいですし......」


 そう、美空先輩の言う通り、この学校での校内案内は三日間にも及んだ。最初は楽しかった校内探索も、最後の辺りは脱落者が出るほどだった。


 ちなみに僕も途中で脱落した。


「それでまぁ場所を知っている図書館にでも行ってみようかと。」

「なるほど。完全に理解しました」


 絶対に理解してないのは僕にもわかる。ドヤ顔でキリッとした表情してるけど絶対理解してない。


「それで美空先輩は、どうしてここに?そのラノベ?とかオタク?とか知ってる友人っていないんですか?」

「え!あ、いや、そのぉ。」


 ん、なんかめっちゃ目を逸らしているけども?


「そ、そのここってかなり、というかすごい、というかテラお嬢様学校じゃないですか。だからそのあまり...こういう話題...出しづらくて......」

「あー確かに。」

「私も理解のある友人がいるんですけど、その最近生徒会活動が忙しいらしくて......」


 つまり今はひとりだと。自分の趣味を語れることも無く、ここで一人で過ごしているのかな。こういった趣味が僕にはないから結構辛いのかな。


 しばしの沈黙が僕達の間に流れる。僕は変なこと言ってしまったなぁと後悔し、美空先輩は何やらモジモジと僕を見る。


「そ、それであの、これは相談なんですけどぉ〜」

「ん、はい、なんですか?」


 綺麗な髪の毛を揺らしながら、少し頬を染めた美空先輩。とても可愛らしいその表情に僕は目を奪われてしまう。


「よ、良ければ明日もここへ...来てくれませんか?」

「はへ?」


 見惚れていた僕は思わぬ要求に変な声をあげてしまう。


「あ、あの!良ければでいいんですけど、ここで私のお話の相手をして頂きたくて!

 ここにはお菓子もありますし、退屈しないとは思いますし、何より私先輩ですから色々教えてあげられることもありますし、ラノベとかゲームとかも面白いので良ければ...なんですけどぉ......」


 唐突な早口で結構聞き取りずらくはあったが、ゆっくりと僕を見つめる先輩。


 僕は少しだけ考えて返答した。


「美空先輩が良ければ、ぜひ」

「え!良いんですか?」

「え、はい。良いですよ。僕も帰ってからこれといってやることないですし...それに」

「それに?」

「美空先輩がとても楽しそうに話していたので、そんなに良いものなのかなぁと。出来れば僕も先輩の好きなこと知りたいです。」


 僕はありのままをそういった。あんなに好きなことをずっと喋れるなんて相当好きなんだろうし、何より話せないのは辛いんだと思う。


 少しでも助けに慣れればいいなと思ったんだけど......。

 僕の返答に、美空先輩は頬が少し赤くなった気がする。夕日のせいだろうか?


「...なら、明日もここで待っていますね。」


 小さく恥ずかしそうに言う美空先輩は、その時だけ、ただの少女のように感じた。


 いや、普通にいても可愛らしい先輩なんだけど、どうにも先程までのマシンガントークが頭から離れない。


「で、ではお近付きの印を......」


 そう言いながら、本棚から取り出したのは僕が持っていた小説だった。表紙には『俺の奥さんがタイムリープしてるわけが無い』と、でかでかと書かれた小説。


 表紙には、眼鏡姿の男性と銀髪の女性が描かれていた。


「え、これいいんですか?借りても。」

「はい、ぜひ借りてください。是非そうしてください。それで面白かったら買って、作者の方に貢献しましょう、ぜひそうしましょう。」


 その鬼気迫る表情に、僕は気圧されてしまいその小説の入った紙袋を受け取るざるを得なかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 いつしか夕暮れも静かになり始めそうな外の暗さを感じながら、シャンデリアの明かりに照らされる廊下を歩く。


 横にはジャージ姿の美空先輩。なんともまぁよく分からない状況ではあるが、隣で歩く先輩が嬉しそうな顔をするから僕もつられて口角が上がってしまう。


「あ、そういえばまだお名前聞いてませんでした!」

「あ、確かに。」

「多分、1年生さんですよね?その制服は」

「はい、申し遅れました。1年の花影日向です。よろしくお願いします、美空先輩。」


 ぺこりと頭を下げると、先輩もつられるようによろしくお願いしますと頭を下げる。その頭が僕に当たり、先輩は痛がる間もなく今度は滑って転んでしまった。


「いてて〜」

「もう先輩。ちゃんと前を見ないと―。よっと...大丈夫でした?」

「だ、大丈夫です〜。それより日向くん、部室の場所覚えましたか?」


 そういいながら、頭をさする先輩。なんだろう昔買っていたハムスター?いや、ちょいと間抜けなところが、シベリアンハスキーにも見える。


「あ。」

「ふふ、まぁこの学校広いですからね。ゆっくり道を覚えながら帰りましょうか。」


 少し抜けているところがある先輩に、今度はゆっくりと手を引かれながらこの後学校を少し回った。


 春は出会いの季節なんて言うけれども、多分僕にとっての春はここから始まるんだと、そんな恥ずかしいことを考えた。


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