余命-3文字
死んだ
「あなたの余命はあと-3文字きっかりです」
突然、訳の分
「大変申し上げにくいのですが、あなたの余命はあと-30文字きっかりです」
からない場所に来て、訳の分からない存在に、訳の分からないことを言われた。
大変申し上げにくいのですが、と前置きをされて。
……説明しきらないうちに、二度目が地の文に割り込んできた気がする。
……うん、何を言っているんだろう? 自分でも分からない。
辺り一面、何もない真っ白な空間。
上も下もあやふやで、それでも自分が割と落ち着いているのは、目の前の訳の分からない存在ーーーー人魂のような、ただの光の集まりのような、それでいて意思を感じる存在ーーーーと、自分がおそらく同じ姿をしてい
「大変申し上げにくいのですが、あなたの余命はあと-300文字きっかりです」
るからなのだろうか。
「あの、ここは……? それに貴方は、私は、どうなっているのでしょうか」
「ここは死後の世界です。残念ながら貴方は亡くなりました」
この人魂曰く、どうやら私は死んだらしい。
死んだ時の記憶は無いのだが、結構不摂生な生活を送っていたから、まあいつ死んでもおかしくはなかった感じではあった。
それよりも、だ。
「先程からずっと気になってはいたのですが、余命、とは何でしょうか。貴方の仰る通り私が死んでいるのだとすると、余命はもう無いのではないでしょうか」
「ですからマイナスが付いているでしょう? 死ぬまでの文字数が余命なのですから、死んでからの文字数にマイナスを付けても余命になるのです」
「無茶苦茶だ」
散々地の文に割り込んでまで余命(?)宣告をする理由は何なのだろうか。
文字数が余命になっている時点で既に意味不明なのに、更にマイナス付きとはどういう了見だろう。
そもそも死者に余命なんて意味がないものの筈だ。マイナスでどうこうなるものではないだろう。つまりこの人魂、私をおちょくっていやがるな?
「不快に思わせてしまったようなら申し訳ありません。ですが、私はこうして余命を文字数で宣告しなければいけない定めなのです」
「はぁ、色々質問したいことはありますが、まずそもそも貴方は誰なのですか」
「これは失礼いたしました、自己紹介がまだでしたか。私は、貴方のような亡くなった者の魂を輪廻の輪に放り込む感じの仕事をしている、神的なヤツです。ここはその、まあ中継地点的なモノで、実体の無い場所なせいで、私はこんな姿を取っているのですよ」
一気に胡散臭さが増した。
話の内容は、理解……うん、まぁ……できなくも、ないが……うん、やはりできないな。
理解はできないが、話を進めよう。変に突っ込んでも、ややこしくなるだけで進まなくなる気がする。
「それで、"余命を文字数で宣告"とは、一体どういうことなのでしょうか。日数とかなら分かりますが……」
「その前に、これをご覧下さい」
「これは」
「皆さんご存じ、某web小説投稿サイトです」
「はぁ」
「それで、ここを見ますと」
「ふむ、"文字数"が書いてありますね」
「はい。つまりはそういうことです」
「成程、さっぱり分かりません」
某web小説投稿サイトに投稿されている小説それぞれの概要に書いてある、その小説の文字数。
それは分かるのだが、この自称神、これを見てどうしろと。
「そうですね……では、次はこちらをご覧ください」
「ジャンル別、純文芸……? 何があると言うんですーーーーはっ!? これは!?」
「ふふふ、どうやら漸く理解したようですね……そう、今は"余命〇〇文字"が軽くブームとなっているのです!」
そこに並んでいたのは、"余命〇〇文字"というタイトルの小説の数々。
宣告された文字数が小説内で消費されると、主人公が死ぬ、という内容だ。
余命を文字数に置き換えるという小説ならではの発想、メタ表現と"死"のシリアスが入り混じるシュールさ、そして〇〇文字きっかりで終わる『結』の美しさ。ちょっとした流行りになるのも頷ける。
だがちょっと待ってほしい。
「まず貴方は死者に余命宣告することの果てしなさと無意味さを認識してください。先程も言いましたが、死者に余命なんて無いんですから、"余命"ではなく"没後"ですよね、言うとしたら。それに、えぇ、文字数が余命になるのは一旦認めるとしましょう。それは、普通は話が進むにつれ余命が近づいてきますよね、書かれた文字数なのですから。しかしですよーーーー」
タメを作ったら、人魂が怯えたように揺れた。
仮にも自称神とあろうものが、こんなにビビっていていいのだろうか。
「ーーーーマイナス付けちゃったら、文字数増えると"余命"のところまでも遠ざかっちゃうじゃないですか! 貴方は一体何を考えているんですかね、このまま続いていったら永遠に桁数増えていって極限-∞まで行きますよ!? 貴方もグダりたくないのなら、さっさと輪廻の輪とやらに入れてください!」
言い切った。
沈黙が流れる。
……少し経って、人魂が、口を開いた。
「……申し訳ありません、余命の宣告はもう行われているので、変えることはできません。輪廻の輪にも、これが解決できないことには入れることはできないのです」
「それはーーーーなら、どうすれば解決できるのですか」
「分かりませ……いえ、一つだけ、方法があるにはありますが……」
「ほう、それは一体どのようなもので?」
こんな困った状況は早々に解決したい。特に現世に未練があるわけでもなし、私はさっさと輪廻の輪に加わりたいのだ。
やがて人魂は、覚悟を決めたように言った。
「……その方法はーーーーカオスにすることです」
「はい?」
「ですから、カオスにするのです。この世界を」
「この世界とは、それはこの真っ白で何もない空間のことでしょうか」
「はい。この世界は、言わば精神の世界のようなものです。ですので、精神がーーーー思考が作用する幅が広く、強く念じれば思ったことを起こすなんてことも出来ます。だから、この世界をカオスにしてしまえば、何かよく分からないことが起こって世界から弾き飛ばされるなんてことにもなるかもしれません」
「はぁ、よく分からない上に、何かそこはかとなく危険な気もしますが、他にどうしようもないようですからね、えぇ、やってみます」
そう言った私は、まずは山田さんを作ることにした。
「私は山田太郎です」「私は山田花子です」
「え、いきなり何やったの、誰なのこの子達」
「日本のアダムとイブです。今決めました」
山田アダム太郎と、山田イブ花子は、人間という生命の起源になってくれるだろう。だが、時間もあまりかけたくないので取り敢えずクローンを量産した。70億体程。
「「「「「私は山田太郎です」」」」」「「「「「私は山田花子です」」」」」
これで人類に関しては地球に近くなっただろう。え、違う? 誤差誤差。
さて、次にどうするか。折角生み出してなんだが、70億体の太郎と花子を生贄に、邪神召喚の儀式でもしてみるか。これだけ生贄がいれば何かしらは呼べるだろう。
あの呪文でも唱えてみるか。さあ、蜂蜜酒をのんで、笛を吹いて、
「いあ! いあ! はすたあ! はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい! あい! はすたあ!」
「もういいですからぁ! はやくどっか行ってください輪廻へでも天国へでも地獄へでもどこへなりと行ってください頼むからぁ!!」
なんか出てきたなぁと思ったら、人魂にそんなことを涙交じりのような声で懇願され、私はーーーー
「大変
申し上げにくいのですが、あなたの余命はあと-3000文字きっかりです」
3文字ズレているのです
触発されて書きました。最後の方はテンション振り切れてます。ナニコレ