遅い説明3
「なんとなく事情はわかってきた。俺は魔王を殺す勇者のサポートとしてここに居るってことで、すよね?」
「その通りです」
よしよし。自分の立ち位置はわかってきた。すごく意味なく前世を思い出したとかじゃなくてとても良かった。精神的にぼっちになるところだった。
しかし、腑に落ちないことが一つ残っている。疑問は尽きないけれど、差し当たり。
「で、あんたは……あなたは、何者なんですか。俺の魔王のイメージ通りの恰好をして、魔王を殺せなんていうのはどういう意図なんですか」
「私? 私は魔王です」
「魔王」
……魔王? 神とかじゃなくて?
「……え、勇者に殺させたい、魔王本人? それとも、別の魔王?」
「勇者に殺されたい魔王です」
「ドエムなんですか?」
ほとんど反射的に思ったことが口に出てた。
「語弊があります。私は死にたいだけで、そこに快楽は求めていませんよ」
「魔王が……魔王がなんで死にたいなんて?」
問い掛ける。
すると、ふーむと、魔王は唸った。
「君にわかりやすく言おうとすると、私の力というか……呪いの所為かな」
「呪い」
不穏当な単語が出てきた。
「私は時を操ることが出来る。進めることはできないが、止めることと戻すことができる」
「強そう」
「そうでしょう」
表情一つ変えないドクロは、どこかドヤッた雰囲気を醸し出す。
「この力で私は魔王と呼ばれる存在になれました。というより、なってしまいました。それ自体はまぁ、それほど悪いものではなかったのですが、しかし、正直飽きてまして」
「飽きて……」
「だから死にたい。いい加減終わりたい。だというのに、だというのに! 勇者が私に会いに来る前に、それどころか私を殺す道具を手にする前に死ぬのです!」
「なんと!」
まさかの勇者が弱い。レベル低いんだろうか。低レベルクリアを地で行ってる勇者なんだろうか。嫌だなそんな縛りプレイ勇者。
「でも、死んだ勇者を助けろって言うのはどうやって?」
「いえ、死んでません。死ぬ前の状態まで私の時を操る力で、やり直させてます」
「超便利」
いわゆるコンティニューか。
でも、無限コンティニューなら、俺いらなくない? その内勇者がどうにかするのでは?
そう思ったのでそう訊ねてみる。
「……あなたはたとえば、ゲーム。アクションゲームというのをやりますね」
「はい」
「何度も死んで、パターンを憶えて、やがてクリアしますね」
「はい」
魔王にゲームを例に出されると、こう、えーって感じするなぁ。
「それはあくまで、あなたが前に死んだ流れを憶えているから、あなたが指示を出して死を回避しているのです。ですが勇者は、時が戻れば戻った分の記憶を失います。自分が死んだなどとは夢にも思いません」
「……というと?」
「何も介入をしなければ、全く同じ時、全く同じ場所で死にます」
「なるほど!」
巻き戻しと再生みたいな状況になるわけだな! そうだね、憶えてなきゃそうなるよね!