ちゅうとりある2
腰が抜けたまま、取り敢えず這って少しでも柵から離れる。
少しでも壁に寄り添って隠れながら先程の怪物をチラリと見てみると、丸太に車輪くくりつけたみたいな斧持ってた。
こんな距離を歩いているのだから、村を守ってくれてるのかもしれない。そう思いもしたが、頭の中で17歳の記憶が危険だと叫び続けているので、やはりただのモンスターなのかも知れない。
「……最初はさ、スライムとか、野犬とか、人型ならせめて、猿くらいのサイズだろう……」
ビックリしすぎて若干トラウマになりかけていた。
映画とかで、暗い海の底に超巨大な魚がいるの見た直後の、海や風呂がちょっと怖くなる感じ。
そんな詮無いことを考えてから、ハッとする。
なんで民家で囲んでるくらいであれから守られてるんだ?
武器を使うまでもなく、殴ったり倒れかかってくれば、柵や家なんてあっという間に壊れるだろう、ほとんど木製だぞ。
それともこの家、思った以上にヤバイ物質だったりするのかな。
自分の記憶を探ってみる。なんでモンスターが襲ってこないのか。
……情報無し。
その代わり、出ると襲われる、という認識がふわっとあることだけは理解した。
やっぱ襲われるんだな、襲ってくるんだな、あれ。
そういやゲームでも明らかに砂漠のど真ん中とかに町あるよな。ああいうやつなのかな。
近くに知り合いが居たので、訊いてみることにした。
自分から話し掛けるのは緊張するので、少し躊躇したけれど、深呼吸して覚悟を決める。
「なぁ、あの、一つ質問なんだけど。なんであのモンスター……モンスターで通じるのか? 巨大なのがさ、村の外うろついてるじゃん」
「あぁ、いるな」
「なんであいつら村襲ってこないの?」
「え、なんで村襲ってくるの?」
まさかの疑問での返答。
「あいつら、村出たら襲ってくる、んだよな?」
「そりゃ、な」
なんでそんなこと訊いてくるんだ?みたいな顔される。
驚きの意思疎通できなさであった。
「……まぁ、いいや、ありがとう」
「おう」
別れを告げて、考える。村を出ると襲ってくる。村にいれば大丈夫。見えないから? いや、あの細い柵で? 門から人出てくるのに?
なるほど、全然わからないぞ。
「……異世界感。というか、ゲーム感」
知らぬ間にゲーム世界に放り込まれたって考えた方が安心感ある状態だ。というか、一旦その方向で理解しておこう。
そう考えるとちょっとわくわくしてきたけど、外出てあいつと戦うのは絶対に御免だ。勝ち目が見えない。
ゲームというなら、どこかに武器屋とかもあるんかな?
そんな期待を胸に村を駆け巡る。雑貨屋とかも調べる。なかった。ないんかい!
そういえば外から行商人が来るという記憶もある。そこで武器があるのかも知れない。次の機会に見てみよう。
そんな感じで、やや呑気に俺はこの現状の理解に努めた。段々とラインとしての記憶を整理できてきたので、この村で過ごすこと自体はそれほど困難ではなかった。
そして、十数日が過ぎた。
……飯の味に飽きた。
毎日同じ、ボソッとしたパンと、とろみのない、あれ、野菜とか肉とか煮込んである……そう、ポトフ。そんな飯ばっかり。
なんか飽きた! 牛丼とか食べたい! 味濃いの食べたい! カップラーメンやお菓子食べたい!
口にこそ出さないが、記憶の内にある潤沢なジャンクフードの記憶が俺を苦しめていた。
そんな苦難以外には、目的や役割を特別見出すことなく、普通の子供として普通に過ごしていた。
単にこれ、生まれ変わって、前世の記憶が残ってただけなのかな?
そんなことを考え始めた頃。こっちの世界で目覚めて二週間目のこと。
突然、俺の意識の中に、ゲームでよく見る、白くて太いウィンドウの様な物が浮かんできた。
『ゆうしゃ が しんだ』
ゴシック体。
次の瞬間、目の前の光景が変わった……