ちゅうとりある1
仮眠から醒めて、同じ天井を見て、まだこの世界にいたかと思ってしまった。
さて。夢なのか、夢じゃないのか。誘拐なのか、いわゆる輪廻転生なのか。それとも、異世界転生というやつなのか。まぁ、その辺は置いておくとしよう。よもや地獄や天国じゃあるまいし。
……死亡率高いな。死んだ憶えはないんだけど。
身を起こし、記憶を整理しようとしたが、情報がびっくり箱が開いたみたいに溢れてきたのでやめた。
酷い頭痛がした。全部を一気に確認するのはやめておこう。
何度か頭痛を味わいつつ、細心の注意をしつつ、必要そうな情報だけ引き出す方向に切り替える。どうにか慎重に引き抜けば、ギリギリいけそうだった。
「えっと、まず、名前名前」
俺の名前。松岡道治で46歳。こっちの世界の記憶ではライン・ロッドで17歳。
……あぁ、脳みそ軋むわ!
一個の情報に対して二種類の正解とか、キツイ。1足す1で求めたら即座に片方2で片方10の答えが導き出される感じ。
「くぅ……」
知恵熱出てきた。
少し頭を休める為に散歩しよう。そして、なんかもっと、わからないことを、理解していこう。
ベッドから飛び降りると、早速裏口からソッと出る。
そして、村の中を散策してみることにした。地理は頭に入っているが、実際に見てみないと思い出せない。というか、見ると勝手に思い出していく。オートマッピング感ある。
村は、実に片田舎という趣があった。
「さすがに、ゲームと比べると広い」
比較対象が間違ってる気はするけど、こんな場所ゲームや映画でしか知らないんだから仕方ない。海外旅行なんてしたことない。
教会を中心として、商店や農家が中心の村。なるほど、教会が学校も兼ねていると。俺もそこに通っている記憶がある。
三百人を少し越える規模の村。活気はある。たまに話し掛けられてびびるけど、口から勝手に返答が出てきたので、今のところ困ってはいない。
村の中心部をぐるりと周り、おおよそ村全体のイメージはおさえられた。
「うん、村の中の様子は大体わかってきた。じゃあ村の外ってどうなってるんだ」
記憶に問い掛ける。しかし、まさかのノーデータ。
「……村から出たことないのか?」
それとも、地形とかに関しては実際に出てみないと思い出せないのか。実際行ったら思い出すかも知れない。
よし、出てみよう。
そう思って村の外に向かう。
この村は、村の外周覆うように民家があり、そこまで大きくもない田畑が村の内側にある。外に出るには門もあるけど、そんな大仰な場所に行く気もないので、民家と民家の間を抜けよう。
民家と民家の間に細い道を見付けたので、そこを進むと、柵が見えた。村全体を囲うように柵があるようだ。RPGで見掛けるタイプ。村人の脱走防止なんだろうか。
そんなことを考えながら、柵に近付く。すると、柵の外側に、なんかいた。
……なんかいた。なんかいる!?
「う、うおおお!?」
全身が緑色で、二階建ての民家よりやや低いくらいの身長で、棍棒を持ったモンスターっぽいのがいた!
「は!? え!? ちょ、も!?」
思わず腰が抜けてしまい、その場でへたり込む。
なんとか入道という妖怪か、あるいはゴーレムか、なんかそんな感じの、なにやら怖いもんがいた。
「さ、さい、さ、さいしょ、から」
びびって震える喉を落ち着けて、少し深呼吸。そして呼吸を整えると、再度大きく息を吸う。
「さ、最初からにしては、敵が強そう過ぎませんかねぇ!」
俺は自棄になって、そんなことを叫んだ。