67.緊急首脳会談
ヒューマンの国には、一人の英雄がいた。
ヨシュア・ブライト。
その男は、デーモン王ゲディグズが猛威を振るう中、孤立した己の領地を守り続けた。
自身の戦闘能力もさることながら、高い指揮能力を誇り、数多の戦場で敵の屍の山を積み上げ、その名を聞けば歴戦のデーモンすら震え上がったという。
その絶大な戦果から、前代のヒューマン王は彼に白銀に輝く鎧を下賜した。
これはヒューマン王家に伝わる魔法の鎧であり、サキュバスの魅了すらも防ぐ効果があったという。
そんな魔法の鎧を身に着けた彼は、しかし頭部だけは己の家に代々伝わる漆黒の兜を身に着けていた。
ゆえについた二つ名は『黒頭』。
デーモン王ゲディグズが存命の間、最も七種族連合から勝利をもぎ取った男だ。
最後には、孤立による物資不足の中、戦力差を覆すことができず、追い詰められ死んだ。
だが、彼を知る者であれば、口をそろえてこう言うだろう。
彼こそがヒューマン最強の騎士であった、と。
彼の敗北は、ただの敗北ではなかった。
彼の稼いだ時間を、ヒューマンは十二分に使い、戦力を整え、物資を蓄え、策を用意した。
ゲディグズがブラックヘッドにてこずった時間が無ければ、四種族同盟はレミアム高地の戦いで勝利を手にすることはできなかっただろう。
ゆえにヒューマン王は彼の偉業を称え、和平後にザリコ半島を己の直轄地にし、ブラックヘッド領と名付けた。
そんなブラックヘッド領に、現在各国の重鎮が集まっていた。
■ ■ ■
ザリコ半島ブラックヘッド領。ストームヒル城。
その城は、かつて七種族連合に攻め落とされた。
幾重にも張り巡らされた防壁は全て業火に消え、本丸は完膚なきまでに破壊され、瓦礫と化した。
ストームヒルを奪い取ったのはオークであり、城があった場所にはしばらく、お世辞にも上品とは言えない砦が鎮座していた。
この地がヒューマンの手に取り戻され、戦争が終わった後、ストームヒル城は再建された。
戦争が終わった今、もはや必要のない城であるが、戦争の英雄であるブラックヘッドへの追悼の意味も込められて再建された。
かつてほど巨大ではないが、より堅実で守りに適した城へと変貌して……。
そんな城の大広間に、多くの人間が集まっていた。
広間の中心に置かれた円卓を囲む顔ぶれは、そうそうたるものであった。
北に座るはヒューマンの一団。
ヒューマン王ルーニアス・ガイニウス・グランドリウス。
彼を中心に、ヒューマンの重鎮が並んでいる。
宰相クルセイド・アルマ・ラギエ。
大将軍ブライアン・ゴートロン。
彼らの護衛である、名だたる騎士たち。
さらに彼らの端には、ヒューマンの王子ナザール・ガイニウス・グランドリウスの姿もあった。
楽観的に笑うヒューマンの一団の中において、ナザールだけは厳しい顔をしていた。
ヘタクソな創作曲の新作を考えているにしては、少々厳しすぎる顔だ。
恐らく、これから話す内容を、誰よりも重く捉えているのだろう。
南に座るは、エルフの一団。
エルフ王ノースポールと、その腹心たち。
ノースポールの隣で腕を組み、難しい顔をして座るのは、知らぬ者はいないエルフの重鎮。
『エルフの大魔道』サンダーソニア。
エルフの一団はそうそうたる顔ぶれを前に、渋い顔をしていた。
緊張しているからだ。きっとこれから話す内容を、それだけ重く捉えているのだろう。
決して、サンダーソニアが難しい顔をしつつも、テーブル上に置かれたお菓子を頬いっぱいにため込みつつ、エルフの面々の前に配って「ほら、お前たちもちゃんと食べておけ」と押し付けたからではあるまい。
身内のそういう所が恥ずかしいなどと、彼らが思うはずがない。
なぜなら皆、サンダーソニアが大好きなのだから。
西に座るはビーストの女王と、その娘たち。
誰もがすまし顔をしているが、その耳が、尻尾が、いまいち落ち着かなげに揺れていた。
そんな中で一番リラックスしているのは、南西に座る第三王女イヌエラだろう。
隣に座るのは、つい数か月前に結婚したばかりの夫、トリカブトの姿があった。
重要な会議の場であるにも関わらず、どこか浮ついた空気を醸しているのは、新婚であるから仕方ない事なのだろう。
その端には、つい数か月前、敵を宮中に招き入れた失態として、自主的に牢に入っていたシルヴィアーナの姿もあった。
東に座るはドワーフの一団。
王はいないが、各町を治める支配階級の者たちが、厳めしい顔で並んでいた。
その中には『ドバンガの子』バラバラドバンガの姿もあった。
この三年でドワーフはすっかり金稼ぎが板についた。
筋骨隆々としていたドワーフたちの腹は、まさに酒が詰まっていると言わんばかりに膨れている。
だが、その眼光だけはかつてのまま。
暗闇に潜む梟のような剣呑な瞳であった。
三年は人を変えるに十分な時間だが、戦いを忘れるに十分な時間ではないのだ。
「さて、本日お集まりいただいたのは他でもない」
口火を切ったのは、ヒューマンの宰相。
クルセイド・アルマ・ラギエ。
筋骨隆々とした面々の中において、最も物腰柔らかで、最も優しい声音の男。
「昨今、大陸中を暗躍している集団についてです」
クルセイドは、齢にしてすでに五十を超えるであろうことが伺えた。
頭部の髪はすでに薄く、額に汗を浮かばせながら話す姿は、決して歴戦の猛者には見えない。
それもそうだろう。
彼は生まれて今に至るまで、ほとんど戦場に出ていない。
激戦の中、己の舌先と嘘と知略のみでヒューマンの国内を渡り歩き、あらゆる戦場から逃げ切ったのだ。
「彼らの目的はすでにわかっています。大陸各地に散らばる"聖遺物"を集め、その力でデーモン王ゲディグズを復活させ、再度戦争を起こすことです」
「荒唐無稽な話だ」
「そもそも死者を復活させる術がありうるのか?」
「仮にこの話が奴らの妄言であったとしても、世界各地で"聖遺物"に相当するものが奪取されたのは事実であり、彼らに相応の実力者が加担しているのもまた事実であり、そうなれば放置できないのもまた事実」
クルセイドの口調からは、それほど切羽詰まったものを感じ取ることはできない。
本当に、ただ淡々と事実を話しているだけである。
「そして、彼らに奪取された"聖遺物"は、国によっては宗教的に重要なものも存在した。彼らは犯罪者だ」
「ならば奪われた各国で各自取り返せばよかろう」
「首脳会談を開くまでもない」
主に文句が出ているのはドワーフだ。
彼らの所から持ち出された"聖遺物"は、彼らにとって大した代物ではなかった。
それが奪われ、妄言に使われようと、どうでもいい事だ。
「グルルル……」
その言葉に、ビーストの護衛たちから抗議の唸り声が上がる。
宗教の象徴とも言える聖樹を枯らされたビーストにとって、この一件は重大だ。
ゆえにドワーフの発言に苛立っていた。
ドワーフにとって軽いことだが、それでもこの場にいるのは、四種族同盟の盟約があるからだ。
四種族の過半数以上が緊急事態だと認識し、他国の団結が必要となった時、首脳会談を開くことができる。
協力の要請を受けた国は、必ずこれに参加しなければならない。
無論、実際に協力するかどうかは、首脳会談の内容次第ではあるが。
「ごほん! 喧嘩は後にしろ!」
一人の女の咳払いで、一触即発の空気が払われる。
『エルフの大魔道』サンダーソニアである。
「魔法使いとしての観点で言わせてもらえば、莫大な魔力と適切な術があれば、死者の復活は可能だ。莫大な魔力なんかなくったって、人は半分蘇ったりするんだからな。シワナシの森に溢れていたオークみたいに」
そう、人は時に蘇る。
この世への未練や、深い恨みなどが、死者を再び立ち上がらせる。
それは決して完全な復活ではないが、しかし確かに、彼らは立ち上がり、腐った脳みそで思考し、行動するのだ。
つい一年ほど前に、エルフもそれに悩まされていたのだから。
「エルフの大魔道殿は、適切な術に心当たりがあると?」
「生憎と心当たりはない。その手の術だったら、そっちの『賢者』の方が詳しいんじゃないか? なんであいつ今日いないんだ? ヒューマンの三馬鹿トリオだろう?」
「大魔道殿、我々も立場ある身分になりましたゆえ、あまり幼い頃の呼び名はやめていただきたい。せめて若い頃の呼び名でお願いしますよ」
「三羽烏だったか? どう違うんだよ……いや、わかってる。わかってるから。でもな、私はお前たちが初陣で馬鹿やった時から知ってるんだからな。あの後、ほとんど戦場に出てこなかったくせにモガモガ……」
エルフの大魔道サンダーソニアは、エルフ王ノースポールに口を抑えられ引き下がった。
これ以上彼女に喋らせれば、ヒューマンとエルフの間に、埋まることのない亀裂が走りかねない。
あらゆる相手を子ども扱いするのは、サンダーソニアの悪い癖だ。
だから行き遅れるんだよと、彼女を知るエルフたちは思ったが、口には出さない。
彼らとて、身内が本当に気にしていることを言わないだけの気遣いはできるのだ。
「なんにせよ、我らの知る『影渦』のポプラティカは堅実な女ですゆえ。妄想でここまでやったりはしないでしょう」
そう言ったのは、ビースト女王レオーナ。
言葉は丁寧だが、瞳孔は開き、尻尾の先端でテーブルの上をトントンと叩き続けている。
かなりご立腹だ。
聖樹を枯らされたことは、彼女にとって己のプライドとビーストの威信を傷つけられたのと同義だからだ。
ナメられたまま終わるほど、ビーストは甘い種族ではないのだ。
憎きゲディグズをよみがえらせるなどという戯言をのたまう相手には、特に。
そんな彼女も、『影渦』のポプラティカとは何度か戦っていた。
彼女だけではない。ポプラティカと戦った者は、この場に大勢いた。
その全員が知っている。
ポプラティカは確実な情報でしか動かない。
己の能力が、確実な情報の元でこそ発揮されると知っているからだ。
そんな彼女が、不確かな妄言で動くとは思えない。
「妄言だろうが何だろうが、ゲディグズが復活する可能性があるなら、その芽を摘むことに異論はない」
威厳ある言葉でそう宣言したのは、ヒューマン王ルーニアス。
目の下に大きなクマのある男は、ゴホゴホと咳をしつつも、戦時中同様の鋭い眼光で周囲を見渡した。
「問題は、根がどこまで伸びているかだ」
「決まっておろう。デーモン、オーガ、サキュバス、フェアリー、ハーピー、リザードマン、そしてオークだ」
憎々しげに吐き捨てたのは大工匠バラスガラガス。
顔中に傷のある、ヒゲモジャのドワーフだ。
その瞳はひげとおなじくモジャモジャの眉毛に隠れて見えないが、かすかに覗く眼光は、彼が顔の傷より多くの敵を屠ってきた戦士であると示している。
「七種族連合が全て加担していると?」
「それは早計では? サキュバスもオーガも否定している」
「裏で動いているのだ。否定もするだろう」
「種族ぐるみで加担しているという証拠はどこにもない」
「証拠だと!? ハッ、まったく、和平だなんだと見逃してやったのに、このような画策をしているのだぞ! 馬鹿にしおって。あの時、さっさと攻め滅ぼしてしまえばよかったのだ。ならば、これを機に奴らを滅ぼせばいい。ゲディグズが復活する前にな」
ダンとテーブルが叩かれ、床に振動が伝わっていく。
その言葉は、この場にいる好戦的な者たちに浸透していく。
彼の言う通りだ、と。
見逃してやったのに、こんな態度を取るのなら、望み通り滅ぼしてやろう、と。
「しかし最後には、あなたも和平に賛同した」
彼の激高を遮ったのは、サラリとした金髪をなびかせるヒューマンの男。
『来天の王子』ナザール・ガイニウス・グランドリウス。
「余裕ができれば馬鹿なことをし始めるのはどこの国も一緒だ。つい半年前、ドバンガ孔の闘技場で起きた一件、忘れたとは言わせませんよ」
ナザールは立ち上がり、周囲を見渡す。
バラスガラガスはうっと息を飲み、縮こまった。
ドワーフの重鎮たちが他種族の捕虜を返還せず、奴隷として金儲けに利用していたことは、記憶に新しい。
ドワーフとて、一定数の馬鹿はいるのだ。
「私はこの一年で旅人に扮し、各地の様子を見てきました。デーモンはわかりませんが、少なくとも、どこの国も今の状況の中で精一杯生きようとしていた。ゲディグズを復活させようなんて余裕はなかった。あのサキュバスですら、一日を生きるに必死だった。もし仮に生存すらままならず、ゲディグズ復活などという一発逆転に賭けねばならなくなったのなら、それは追い詰めた我々にも責任がある」
「ナザール。やめよ」
「……はい」
ルーニアスの声で、ナザールは座り直す。
「全てではないにしろ、どこの誰が加担しているか、我々の敵が誰かは、はっきりさせておいた方がよかろう。ゲディグズが復活する前に」
ルーニアスの言葉に、全員が頷いた。
『ゲディグズが復活する前に』
死者が蘇るなどという荒唐無稽な話を前提に、誰もが違和感なく使うその言葉。
それは、彼らの脳裏にゲディグズという存在が深く刻まれていることを示していた。
それだけ、ゲディグズという存在は強大だったのだ。
四種族同盟と七種族連合の間には、三年で国力差が出来た。
戦えば、今度こそ彼らを根絶やしにできるだろう。
でも、ゲディグズがいたら、それが覆る。
何の根拠もないが、心のどこかでそう信じているのだ。
「現在、確実とされているのはデーモンのポプラティカ、サキュバスのキャロットの二人。また、仮面をつけた凄腕の剣士がいたという話もあります」
会議室の視線がサンダーソニアの方を向いた。
皆、仮面に心当たりがあった。
「おいまて、なんでこっち見るんだよ。私がそんなことすると本気で思ってるのか? 思ってるんだったらこっちにも考えがあるぞ。大体、仮面つけてウロウロしてたのは私だけじゃないだろ? あぁ?」
サンダーソニアの目線は、ナザールに向かう。
皆の目線もそれに追従する。そういえば、こっちの仮面にも心当たりがあった、と。
「噂の人物は女性ですから」
「だったら私だって剣士じゃなくて魔法使いだ……! あーもう、そういう冗談はいいから、他には?」
「ハーピーのルカーメニンコ、リザードマンのクザンベジル、同じくリザードマンのタイドヴォルガ、オーガのボゴボゴ。このあたりは確認できたわけではありませんが、可能性としては高い、それから――」
サンダーソニアの言葉に、ヒューマン宰相が、次々と名前を挙げていく。
そのほとんどは、戦争を生き残りつつも国を出奔した者たちだ。
疑わしいと思えるような要素はもちろん、今はどこで何をやっているか、それどころか生死すら不明な者たちだ。
サンダーソニアは一人名前が挙がる度に「え、あいつ出奔したの?」だの「いやもうそいつは死んでる」だの、「あー、あいつはそうかもなー」と相槌を打っていたが、
「オークのバッシュ、フェアリーのゼル」
「いや、そいつらは無いだろ」
二人の名前が挙がった時、反射的に否定していた。
「おや、サンダーソニア殿は、彼らを擁護すると?」
宰相クルセイドの眼鏡が光る。
「あいつらがこの一年で何したか、お前たちも知ってるだろ? シワナシの森でゾンビを駆逐し、ドバンガ孔で奴隷になった仲間を救い、赤の森では奴らと戦ったんだぞ」
「しかし、赤の森では、勧誘も受けていた」
「断ってたぞ」
「ええ、しかしリカオンから旅立ったその足でデーモン領の関所を襲い、関所を守る兵たちを皆殺しにした」
「関所を襲った? なんだそれ、初耳だぞ」
「あなた様の長い耳にも入っていないとは珍しい」
「長い耳だとぉ? なんだよ、口説いてるのか? 私と結婚したいなら奥さんと別れてから出直してこいよ。ん?」
特に褒められていないが、なんとなく耳をさわさわするサンダーソニア。
きっとヒューマンの宰相が強気に押して壁にドンっとやれば、結婚まっしぐらだろう。
押すことなどないが。
「サキュバスの国に赴いていたあなた方が知らぬのもご存じないかもしれませんが、事実です。兵士は全て消えており、現場にはこのような書置きが」
宰相がテーブルに乗せた紙には、確かに『オーク英雄のバッシュ、ここを通過する』と書かれていた。
フェアリーが書いたんじゃないかってぐらい、きったねぇ字だ。
とはいえ、オークが文字を書けるとも思わない。仮に書いたとしてもこれぐらい汚いだろう。
「バッシュが関所を突破して、そのままデーモンの国に入国、ポプラティカ達と合流したとでもいいたいのか?」
「はい。関所は血の海だったらしいですよ。そこらに、兵士たちの腕や足が散乱していたそうで」
「いや、そんな馬鹿な……バッシュだぞ。この私が、オークの中でも一目置けるような奴がいるんだと思った奴だぞ……シワナシの森では本当にお世話になったんだ。エルフにとっても恩人と言えるんだぞ」
頭を抱えるサンダーソニア。
宰相はすまし顔のまま、周囲を見渡す。
「確かに、彼のこの一年での活動には目を見張るものがあります。しかし同時に、思い知ったのではないですか? 自分一人が何かをした所で、オークが種として存続するのは不可能だと。だから一度は断った勧誘に乗った」
その言葉に、一人の女から「グルル」という唸り声が発せられた。
小さな唸り声であったが、耳の良い者は、それを発した人物に視線を寄せた。
先ほどから一言も発せず、すました顔で座り続けているビーストの王女シルヴィアーナだ。
今回、同席は許されているが、発言は禁じられているのだろう。
ただ、その視線は怒りを持って宰相を貫いていた。
「そんなわけがないだろう」と、如実に語る瞳であった。
「信じられないな」
代わりに答えたのはナザールだ。
彼も、ビーストの国で見たバッシュの姿を知っている。
自分を助けてくれた後ろ姿を憶えている。
あれだけはっきりと勧誘を断ったのに、ほんの一か月程度で考え違いをするほど、尻軽な男には見えなかった。
「私も赤の森で彼が勧誘を断る場にはいましたが……そんな軽い気持ちで動いている男には見えませんでした。彼に話を聞くべきです」
「お、そうだな! いいこと言うなお前! そうだ。バッシュをここに呼んで話を聞こうじゃないか。なに大丈夫、あいつとは結構仲がいいんだ。私の質問になら答えてくれるさ。なにせあいつ、私にプロポーズしたんだからな!」
「どこにいるのかもわからないのに?」
宰相はプロポーズという言葉をスルーした。
今の話題には関係ないからだ。
「関所を通ったんならデーモンの国にいるだろ? ……いや、そうか、デーモンの国にいるんじゃ、呼びようがないよな。関所から出てくる所を押さえるか? 出てくるかわからないけど。どっちにしろだ。あいつは本当に、そういう企みに加わるとは思えないんだ。なんていうか、あいつ、そんな生半可な覚悟で旅してないだろ?」
「まぁ、確かに、あの御仁がそう安易な方向に逃げるとは思えんな」
サンダーソニアの言葉に、そうつぶやいたのはドワーフだった。
戦鬼ドラドラドバンガの息子。ドバンガの子の長男、バラバラドバンガ。
ドワーフの中でも、特に武勇で知られる男だ。
約半年前の武神具祭において、彼がバッシュに敗北したのは、記憶に新しい。
「ならばここに連れてくるといい。オークが、こいと言われて素直に連行されるとは、思えませんがね」
宰相の半笑いに、サンダーソニアは眉をひそめた。
だが、バッシュと実際に会ったことがなければそんなものだろう、自分もそうだったと考えを改めた。
「ふん、そうか。ま、来ると思うけどな。聞ける時があったらそうしてくれ」
「あぁ、『オーク英雄』と相対し、彼を倒し、生きたまま捕らえることができたら、そうしますよ」
宰相が鼻で笑った時、円卓の間の扉が開いた。
ヒューマンの兵士が一人、緊張の面持ちで部屋へと入ってくる。
「何事だ?」
「関所の調査に向かっていた者から早馬が届きました」
一瞬、全員が怪訝そうな顔をしたが、すぐにそれが引き締まる。
皆、早馬で凶報を届けられることには慣れていた。
わざわざ調査隊から早馬が来たのだ。大方の予想は出来る。
だが、それは凶報ではなかった。
「関所破りの容疑者、『オーク英雄』バッシュを捕らえたと」
そんな予想外の報告に、サンダーソニアと宰相は顔を見合わせるのだった。




