63.プロポーズ
「奴が姿を現した時、俺は『黒小頭』のバーミンガムと相対した所だった」
「誰かが言ったのだ。見ろ。上だと」
「見上げると、そこには威容があった。赤い鱗を煌めかせ、炎と恐怖と死を巻き散らしながら飛び回るドラゴンだ」
「いかに勇敢なオークたちであっても、それを見て恐怖に身をすくませぬ者はいない。俺とて例外ではなかった。敵を前にして足がすくんだのは、新兵の時以来の出来事だ」
「逃げようとしたのかもしれん。あんなものに勝てるわけがないと。だが気づいた時には、俺は地面に倒れていた。ドラゴンのブレスの近くには、目に見えぬ毒か何かがまき散らされるのだ」
「俺は死んだと思った。死ぬとはこういうことか、まだ死ぬわけにはいかない、戦わねばと、思いながらも、意識を保っていられなかった」
「目が覚めた時、それほど時間は経過していなかったが、状況は一変していた。ドラゴンが地上に降り、暴れまわっていたからだ」
「なんと雄々しく、なんと偉大で、なんと圧倒的で、なんと強大なのだろうと思った」
「勝てるなどとは思わなかった。そういう次元の相手には見えなかった」
「だが俺は剣を拾い上げ、ドラゴンに向かって歩いた」
「なぜ? 決まっている。俺は名誉ある戦士。誇り高きオークだからだ」
「逃げまどって死ぬのではなく、立ち向かって死ぬべきだと思ったのだ。それこそが、名誉あるオークの振る舞いだと思ったのだ」
「ドラゴンの前に移動した時、その瞳が俺の姿を捉えたのがわかった」
「俺は剣を振り上げ、雄たけびを上げた。ウォークライだ。生きてきてあれだけの声を上げたのは、それまでに無かったかもしれん」
「そこから先は無我夢中だった。爪は掠っただけで鎧もろとも俺の肉を切り裂き、牙は引っ掛かっただけで俺の体を真っ二つにするだろう。ブレスは言うまでもない。死に物狂いだ」
「勝機を見たのは、首に一撃を加えた時だ。鱗を切り裂き、血が噴き出た時、あそこを切り落とすことができると思ったのだ」
「勝てるなどとは思っていない。ただ切り落とすことができると思ったのだ」
「ドラゴンも気づいていたのだろう。首への警戒が深まり、俺はドラゴンに肉薄するのが困難になった」
「オークやオーガ、デーモンたちがドラゴンを包囲していなければ、きっと俺が死ぬか、あるいはドラゴンに逃げられていたかもしれん」
「俺は爪を砕き、鼻づらを潰し、ブレスを回り込んで避け……そして首に剣を打ち込んだ」
「剣が首へと打ち込まれた時の感触は憶えている。ドラゴンが俺の方を見た時の、あの目の光も憶えている。俺はドラゴンの目から光が失われるまで、ドラゴンと視線を交わしていた」
「ドラゴンが何を思っていたのかはわからん。だが、俺には、賞賛の色があったように思えていた」
「よくぞ自分を倒してみせたと、誇りに思えと」
「同時に周囲から歓声がわきあがった」
「オークだけではない。デーモンもオーガも、共に戦っていた者全てが、俺に賞賛の声を浴びせてきた。あのデーモンやオーガがだ」
「あれほどの達成感と、あれほどの誉れを感じたことは無い。まさにあれこそが誇り、あれこそが名誉なのだ」
「もしあのドラゴンを倒せていなければ、俺は『オーク英雄』と呼ばれることはなかっただろう」
「ドラゴンと戦い、生き延びたことは、俺にとって最高の名誉だ」
『バッシュ』の話を、『目』は静かに聞いていた。
家族も同然だった『骨』の死。
『バッシュ』の口から語られるそれは、偉大なるドラゴンとの死闘であった。
ドラゴンを倒し、大きな名誉を手に入れたのだと、誇らしげに胸を張る『バッシュ』を見て、『目』は口を開く。
「それで?」
その言葉に、『バッシュ』は面食らったように『目』を見る。
「……それで、か?」
「それから、どうした?」
『目』の発言に、『バッシュ』はやや慌てたように『ゼル』を見る。
『ゼル』は『バッシュ』の耳元で何かをささやくと、『バッシュ』は「ああ」と呟いて言葉をつづける。
「……それから、ヒューマンの軍がなだれ込んできて、乱戦が始まった。そんな中で、俺の耳にこんな声が飛び込んできた『デーモンの本陣が奇襲を受けている』と、それを聞いた俺は――」
『目』は『バッシュ』の話を聞く。
話の流れが『骨』と関係なくなっても『目』は聞くことをやめない。
ただ淡々と話を聞く。
言葉は理解している。
意味も内容も理解している。
ただ、『目』は『バッシュ』の話を聞いていた。
◆
「俺は穴蔵の中で死を覚悟した。エルフの大魔導とは相打ったが、こちらは一人で、向こうには仲間がいた。穴倉の外からはエルフの放つ怒声と共に、魔法の明かりもチラチラと見える。俺はすぐにでも見つかるだろうし、大魔道もすぐ傷を癒やし、魔力を回復させ、追撃してくるだろうとな。だが、そこで奇跡が起きた。一匹のフェアリーが、戦火の中、俺を助けにきてくれたんだ」
「そう、すなわちそれがオレっち!」
バッシュの話は終わらなかった。
ずっと続いた。
『目』が続けさせた。
バッシュが話を終えようとする度に、『目』が「それで?」「それから?」と言って、終わらせなかった。
「そして、『ゼル』の粉で傷を癒やした俺は、間一髪の所でエルフの包囲網を突破し、脱出したのだ」
バッシュの自慢話は、オークの中では、さほど話し上手ではないとされている。
オークの自慢話というのは、基本的に盛っていい事になっている。
己の戦果を大げさに話し、相手を矮小な存在として貶めるのが、一般的な語りのテクニックだ。
小さなトカゲを「めちゃくちゃでかいドラゴン」と言ったり、半べそをかきながら殴り合った末の辛勝を「簡単に勝てた」とイキったり、その末に手に入れた一山いくらの女兵士を絶世の美女とすることで、オーク達は己を大きく見せるのだ。
でもバッシュには、その必要が無かった。
バッシュが倒すのはいつだってめちゃくちゃでかいドラゴンや、各国で英雄として祭り上げられる存在である。
仮に半べそをかきながら殴り合ったのだとしても、それはバッシュほどの戦士を追い詰められるような強敵に他ならない。
事実を語ることの方が、バッシュという存在を大きく見せるのだ。
これで一般的な自慢テクが上達するはずもない。
ついでに言えば、バッシュは自慢話の締となる「女を手に入れたエピソード」が存在しない。
ゆえにバッシュが語る時は、自然ともっと別の部分に力が入る。
つまり戦いの内容である。
「サンダーソニアと戦い、生き残ることが出来たことを、俺にとってこの上ない名誉だ」
そして、バッシュの話しの〆は、必ずそのような言葉で締めくくられることとなる。
感慨深げであり、誇らしく聞こえるその声音は、聞く者の心を震わせた。
誇りと名誉。
それがいかにオークにとって大事なものかを実感するのに、十分すぎる語りなのだ。
オークにとっては、物足りないかもしれないが……ドラゴンである『目』には関係ない。
「それから?」
そんなバッシュの話を聞きながら、『目』は思い出すのだ。
『骨』の喋り方を。
淡々としていて、説明的な話。
どこが面白いのか、いまいちわからない話。
さながら教授が生徒に話すような、聞いていると眠くなってくる眠くなるような、『骨』の話。
「……ああ、うむ。無論、戦はそれで終わりではなかった」
「そう、エルフの大魔道サンダーソニアとの戦いを辛くも潜り抜けて帰還したオレっちらが見たのは、あの難攻不落の要塞の、頼もしい城壁ではなかったんすよ……」
「炎だ。陣地へと戻った所、すでに本陣はエルフの襲撃に遭い、壊滅状態にあったのだ」
「……」
そんな『骨』と比べ、バッシュの語り口調は、臨場感にあふれるものだ。
己の見聞きし、体験してきたこと、感情のまま話す。
その上、ちょくちょく『ゼル』の合いの手が入るおかげで、盛り上がる場面がわかりやすい。
『目』にとっては、初めてのエンターテイメントと呼べるものだったといえよう。
つまり結論を言えば、
(面白い! この後、どうなるんだろ!?)
『目』は、めちゃくちゃ楽しんでいた。
◆
「それから?」
「……これで、終わりだ。戦争は終わった。俺たちは負けた」
「そうっすね……負けたっすね……」
その後、『バッシュ』の話は終戦まで続いた。
最後の方はやや歯切れは悪くなっていたが、目は十分その話を楽しんだ。
『バッシュ』という人間の英雄譚を、心いくまで楽しんだ。
「終わり、か」
終わりというのは悲しいが、仕方がない。
話には終わりがあるものだと、『骨』も言っていた。
だが、話は十分だったといえよう。
『目』は『バッシュ』の話から、一つの結論を導き出していたのだから。
「お前、名誉ある、戦士、か」
「うむ。そのつもりだ」
「お前、殺した戦士、みんな、名誉ある、戦士だな」
「そうだな。全員、名誉ある戦士だった」
『目』は名誉が何か知らなかった。
だが、『バッシュ』の話の中で、学習した。
人間とは、名誉を重んじる生き物だ、と。
名誉というものは、言葉では説明しにくい。
だが、人間は名誉のために戦い、名誉を誇る。
そして、名誉というものは、相手が強ければ強いほど、重くなるものだ。
重い名誉を持つ敵を倒した時、自分の持つ名誉はより重くなる。
名誉は重ければ重いほど、人間としての価値が上がるのだ。
そして、その法則は、他の生物にも適用される。
例えば、ドラゴンは重い名誉を持っていると言えるだろう。
ドラゴンは数多の人間を簡単に殺せる。
だから、ドラゴンを倒すことは、大きな名誉を得ることに他ならない。
「名誉、か」
『バッシュ』は『骨』を殺すことで、大きな名誉を得た。
『バッシュ』は言った、『骨』を殺したおかげで、『オーク英雄』と呼ばれる存在になったのだ、と。
『名誉』。
それは、『目』の価値観を大きく変える概念だった。
『目』は、死を意味の無いものだと考えていた。
なぜなら、『目』自身が、他の生物の死を意味のないものとして扱っていたからだ。
虫だろうが、獣だろうが、人間だろうが、食料としてしか見ていなかった。
それ以上の価値なんてなかったし、そいつらが死んだ所で、心が動くことはなかった。
だから、死ぬのが怖かった。
自分では気づいていなかったし、言葉にもできなかったが、そうした有象無象と同じように、自分の今まで行きてきた竜生が、価値のないものと断ぜられるのが嫌だった。
だが、『バッシュ』の話を聞いて知ったのだ。
死には意味がある。
強い者が、より強い者を倒した時、名誉として残るのだ、と。
『骨』を倒した『バッシュ』は、名誉ある戦士になった。
『骨』の名誉を引き継いだのだ。
『骨』は『バッシュ』が生き続ける限り、その死が無意味になることはない。
『バッシュ』が誰かに殺されても、『骨』の名誉はそいつの中で生き続けるだろう。
それは誇らしいことだ。
とてつもなく、誇らしいことなのだ。
これほど強い人間が、これほど誇らしく語るのだ。
これこそが誇りなのだと、『目』は、そう思った。
もし『バッシュ』が『骨』との戦いを「俺に掛かれば、ドラゴンといえど雑魚だ。あれはドラゴンではなくただのトカゲだな。ガハハ」などと評していたら……そうは思わなかっただろう。
きっと、『目』は我慢できなかったはずだ。
ドラゴンに誇りや名誉という概念はないが、小さな存在である人間に『骨』を小馬鹿にされたら、『目』は言いようのない怒りに襲われただろう。
自分が望んだわけでもない戦争で、矮小なる人間によってたかって地面に引きずり下ろされて首を落とされ、その肉や骨のほとんどを削ぎ取られ、くだらない戦争の道具にされたと、そういう認識にさせられたら、『目』は『バッシュ』を許さなかっただろう。
と、難しく説明したが、簡単なことだ。
『目』は生まれて初めて聞く英雄譚に、心を踊らせてしまったのだ。
「お前、ドラゴン殺して、『名誉』、手に入れた」
「うむ。そうだ」
自信ありげに頷く『バッシュ』を見ると、『目』もまた誇らしくなった。
「わたし、は……」
そして同時に思うのだ。
自分は、と。
自分は、どうなんだろう、と。
戦いの途中で逃げて、『ニュート』で変身して隠れて、やり過ごそうとしている、自分は。
自分の名誉は、と。
今まで生きてきて、名誉なんて概念は存在しなかった。
しかし知ってしまえば、意識せざるをえない。
自分の名誉を。
「『バッシュ』」
「うむ」
『目』が呼ぶと、『バッシュ』は『目』の方へと視線を向けてきた。
ギラついた視線だ。
話をしていた時とは大きく違う。
あえて言うなら、自分に襲いかかってきた時に近い目だ。
殺意とは少し違う気もするが……『目』はそれを、殺意のある視線と考えた。
『目』は聡明だ。
だから、わかっている。
『バッシュ』は、数多の戦いをくぐり抜けてきた一流の戦士だ。
ヒューマンの魔法使いの偽装魔法も破ったし、ビーストの戦士の擬態も見破った。
あのエルフの大魔導の魔法だって、ことごとく打ち破ってみせた。
だから、きっと最初から、気づいていたのだろう。
『目』の拙い魔法など、見抜いていたのだろう。
すなわち『目』の正体が、ドラゴンだということを。
なぜ殺さなかったのかという疑問の答えが、そこにある。
つまり『バッシュ』は、『目』が逃げ出して、人間の姿で現れた時、ガッカリしたのだ。
こんなに不名誉なドラゴンがいたのか、と。
ゆえに『目』に対し、『骨』を始めとする、多くの誇り高き戦士たちの話をすることで、問うているのだ。
お前は、それでいいのか。
お前の名誉は、それで守られるのか、と。
「お前、どうしても、『名誉』まもりたい、か?」
「うん? ああ、俺はいかなる事があってもオークの名誉を守るだろう」
「名誉守るため、ドラゴン、殺す、か?」
「む? うむ、お前のために殺してみせよう」
「死にたくない……」
「ん? だろうな」
だが、『目』の本音は変わらない。
死にたくない。
いかに自分の死が『バッシュ』の名誉になると聞かされても、やはり死ぬのは怖かった。
『バッシュ』や、『バッシュ』の話に出てきた戦士たちのような、勇敢で名誉ある戦士にもなれそうになかった。
「さっき、ドラゴン、逃げた」
第一、『目』の中では、もう勝負は決しているのだ。
『目』は負けて、『ニュート』の魔法まで使って命乞いをしている。
それが答えではなかろうか。
「もう、勝った、違う?」
「ドラゴンは、そんな甘い相手ではない。」
『目』とて、『バッシュ』にそう言ってもらえるのは嬉しいが、過大評価である。
『目』は『バッシュ』と戦うことに怯えきっているし、できれば今すぐ逃げたいと思っている。
『名誉』は、確かに憧れるし、誇らしい死に様というものに興味もある。
でも、それでも……。
「どうすれば、殺す以外、名誉守れる?」
それでも死にたくなかった。
情けなくて泣きたくなるほどに、死にたくなかった。
「ドラゴンを殺さずに……俺の名誉をか?」
「……うん」
『バッシュ』は極めて険しい顔で目を閉じた。
何かを考えるような仕草に、『目』は不安を隠せない。
と、そこで『ゼル』が、『バッシュ』の耳に近づいて、こしょこしょと何かを耳打ちした。
『目』の不安は強くなる。
もうこんなのさっさと殺してしまいましょう、なんて言ってるに違いない。
先ほどの話でも、そういうシーンがあったのだから。
「……」
やがて話が終わったのか、『バッシュ』はまっすぐに『目』の方を見てきた。
やはり殺すのだろうか。
名誉なき相手を殺した所で大した名誉にはならない。
だが、そうした相手とて、『バッシュ』は倒してきたのだ。
さっき本人がそう言っていたのだから間違いない。
「俺の名誉は」
「……」
「お前のような美しい女を妻にすれば、守られるだろう」
「……?」
いきなり、よくわからない概念が出てきた。
ツマ。
ツマとはなんだろうか。
「ツマ?」
「ああ、俺の妻となり、子を産んでほしい」
子を産む。
そこで賢い『目』はわかった。
ツマとは番のことだ。
「わたしを、妻にする、番になる、名誉守れるの、なぜ?」
「普通のオークは、お前たちを妻にすることなど、生涯の全てを賭けてもできん。お前を妻とし、子をなせば、俺はオークの中でも特に優れた者として、語り継がれるだろう。オークが滅ぶその日までな」
「……」
「お前にとっては、オークの妻になるなど、屈辱かもしれんがな……」
なるほどと『目』は思った。
ドラゴンに伝わる話では、『ニュート』の魔法を使った後は、その相手と子を成すことが多い。
あの『骨』だってそうだった。
でも『骨』は別に追い詰められて『ニュート』を使ったわけではないし、『骨』自身が人間と子を成したいと思っていたわけではないそうだ。
でも人間と子を成した。
なぜ『ニュート』を使うと、相手と子供を作ることになるのか?
『目』は、かねてよりそこに疑問を持っていたわけだが……。
これだ。
この『バッシュ』の言葉こそが、答えだったのだ。
相手から求められたのだ。
人間にとってドラゴンと番になるということは、極めて重い名誉を獲得する行為なのだろう。
きっとそれは、ドラゴンを殺すことよりも、だ。
いきなり番になることを提案しなかったのは、『目』の名誉を気にしてのことだろう。
確かに、ドラゴンが矮小なる人間と番になるというのは、不名誉なことだ。
少なくとも、数日前の『目』であれば確実に嫌がっただろう。
ドラゴンに名誉という概念がなくとも、人間と子供を作るなど、嫌に決まっている。
「……」
だが、不名誉などいまさらだと『目』は思った。
『ニュート』まで使って命乞いをし、名誉を守るチャンスまでもらったのに、それをかなぐり捨てて生に執着したのだ。
不名誉だろうが、どうでもいい。
大切なのは生き残ることだ。
それに、『目』は名誉を学んだ。
『バッシュ』は名誉ある戦士であり、『目』よりもずっと強いのだ。
そんな彼の番になるというのは、『目』にはさほど不名誉には思えなかった。
『骨』も昔言っていたが、強い個体が強い個体と結ばれるというのは、ドラゴン的にもよくある話だ。
『目』には、まだそういった経験は無い。
でも初めての相手が『バッシュ』という部分に不快さや嫌悪感は無かった。
『バッシュ』が自分よりも強い存在だと認めたというのもあるが、きっと名誉や誇りについての話を聞いたおかげだろう。
もはや『バッシュ』は、『目』が憧れる英雄なのだ。
となれば、答えは決まっていた。
「わかった。わたし、お前の番に、なる」
その日、初めてバッシュのプロポーズが、成立した。