59.英雄vsドラゴン
ゼルはいつだって歴史的な瞬間を目にしてきた。
なんだったら、ゼルが見てきた全ての光景こそが、歴史そのものだといって過言ではないが、どれも今回ほど歴史に残るものではなかった。
今回のこれは、本当に歴史に残る。
伝説になる。
バッシュが戦う所を見る度にそう思うが、今日はより強く、そう思った。
『オーク英雄』。
『ドラゴン』。
この大陸で最強の二匹が相対するのを、ゼルは少し離れた所から見ていた。
「ギャアアアアアアオオオオオオオオァァァァァァァァ!」
「グラアアアァァァァオオオゥゥ!」
雄叫びの大きさで言えば、ドラゴンにやや軍配が上がるか。
だがドラゴンの方は、目の前の小さな生物が発する大音声に、心なしか驚いているようにも見えた。
そうだろう、今までは己が声を上げれば、相手は怯え逃げ惑うばかりだったろうから。
まさか怒鳴り返してくる相手がいるとは、心にも思っていなかったろうから。
とはいえ、それでドラゴンの行動が変わるわけではない。
相手が自分より大きな声を出したから、なんだ?
目の前の小さな生物は、ブレスを履けば炭になり、爪を振るえば四肢が千切れて死ぬ!
噛み付けば、あっという間にバラバラになって空腹が満たされる!
目の前にいるのは、そんな存在に変わり無いだろうが!
ドラゴンはきっとそう考えたはずだ。
だから低い姿勢から一気にまっすぐ突進し、太い右腕を横薙ぎにバッシュに叩きつけたのだ。
実に無警戒に。実に無造作に。いつもこうやっていますよと言わんばかりに。
とはいえ、凄まじい速度だった。
見上げんばかりの巨体が沈み込んだと思えば、猫のように一足飛びで前に移動していた。
あの巨体があれだけの速度で動くことを、あらゆる人は想像できない。
想像力豊かな妖精であってもだ。
ゼルはドラゴンが動いた瞬間「ヒッ」と喉の奥から声を上げ、逃げることもできず体を硬直させることしかできなかった。
ドラゴンほどの巨体に、そんな速度でぶつかられれば、木っ端な人間の運命など決まっている。
為すすべなど無く、潰されるだろう。
それぐらい早いし、重いし、鋭いのだ。
だがゼルは知っている。
ドラゴンが相対しているのは、ただの人間ではないと。
カッキィィィン!
金属音が響いた。
まるで固い砲弾でも打ち返したような小気味いい音だ。
硬度の高い金属同士がぶつかり合い、そしてどちらかが砕けた時になる音だ。
ドラゴンがたたらを踏んだ。
叩きつけるはずだった右腕が地面を滑っていく。土煙を上げながら上体が流れ、肘から接地し、転がっていく。
「……!?」
ドラゴンはすぐには体制を立て直せなかった。
一回転し、肘をついたような姿勢のまま、目だけで己の手を見た。
ドワーフ鋼よりはるかに高い硬度を持つと言われている爪が、割れていた。
「……ッッ!?」
それから、バッシュの方を見た。
驚愕の表情だ。
ドラゴンの表情など、リザードマン以上にわからないが、それでもゼルにはわかった。
ドラゴンの視線の先には、誰もいない。
すでにバッシュは側面へと回り込んでいた。
先程潰した目――死角の方から、首元へと。
バッシュの渾身の一撃がドラゴンの首に打ち込まれる。
ギャリンともギャギンとも言える耳障りな音は、バッシュの戦いにおいてあまり聞き慣れない音……剣が何か固いものに阻まれ、うまく刃が通らなかった時の音だ。
「ギッ……!」
バッシュの一撃は、間違いなく打ち込まれた。
あらゆるものを両断してきた、必殺の一撃だ。
だが、ドラゴンの首を両断するに至らなかった。
それどころか、鱗を弾き飛ばし、首に浅い切り傷を与えたのみだ。
その事実に、ゼルは戦慄する。
あのバッシュの一撃が、通らない。
そんな生物を、一体どうやって倒せというのか。
「ギィィエエエエアアアアァァァァ!」
ドラゴンの咆哮が鳴り響いた。
もしかすると、生まれてすぐ硬い鱗に包まれ、そのまま長い年月を過ごすドラゴンにとって、生まれて初めて感じる痛みだったのかもしれない。
飛び散る鮮血に目を見開き、怒りの声を上げる。
ドラゴンの動きが加速する。
ブレスを吐き散らし、割れた爪を振り回し、牙をガチガチと噛み鳴らし、小さきものを押しつぶさんと、その巨体を叩きつける。
巨体の動きが風を作り出し、洞窟内に暴風が吹き荒れる。
ゼルは飛ばされぬよう、必死に岩にしがみつきながら、戦いを見守る。
半狂乱ともいえるべきドラゴンの暴走。
一見すると、ただ闇雲に暴れているだけに過ぎないが、ゼルにはわかる。
ドラゴンの動きは決して闇雲ではなく、かなり的確にバッシュを狙っていることを。
本能の為せる技か、あるいは半狂乱になっているように見えて、意外に冷静なのか……。
対するバッシュはただただ丁寧だ。
爪が飛んできたら爪を打ち返し、ブレスは回避し、牙は剣で砕き、巨体がそのまま突っ込んできたら関節などを狙って剣を打ち込む。
その度にドラゴンの鱗が弾け飛び、傷つき、咆哮が上がる。
圧倒的な差があった。
ドラゴンとオーク。
そこには生物として、鼠と象ぐらいの圧倒的な差があった。
人間の中でも、特に化け物とされるバッシュの一撃ですら、ドラゴンに浅い傷をつけることしかできないのだ。
そしてきっと、ドラゴンの一撃は、バッシュですら死に至らしめるだろう。
人間はドラゴンに勝てないのだと、本能が訴えかけてくる。
だがそれ以上に、技術に圧倒的な差があった。
バッシュはドラゴンの攻撃を全ていなしていた。
全身に大火傷を負いながら、一撃でも貰えば死ぬ攻撃を全て回避していた。
そう、これが本当に現実かと疑いたくなるほど、バッシュはドラゴンを圧倒し、何度も斬撃を加えていた。
そしてそんなバッシュの狙いは明確だった。
首だ。
最初の方の一撃で切りつけ、いまなお血が流れている首。
あそこにもう一撃を加えようと、バッシュは攻防の中で機会をうかがっている。
首の鱗はもう砕けている。
バッシュの渾身の一撃をもう一度打ち込めば、次は肉を切り裂き、血管を切り裂き、あるいは骨すらをも砕くだろう。
『竜断頭』。
バッシュが以前ドラゴンを倒した時の再現が、今まさにされようとしていた。
しかし勝負は決まらない。
ドラゴンも気づいているのだろう。
首にもらった一撃が一番の深手だと。もう一発首にもらえば致命傷になる、と。
ゆえに、首を守り続けている。
ドラゴンはバッシュの戦い方など知らないはずだ。
なのにバッシュの狙いを察知し、的確な行動をとっている。
きっと本能だろう。やはりドラゴンという生物は強靭かつ強大なのだ。生まれつき戦うことに特化した生物なのだ。
他の生物であれば、とっくに勝負は決まっていたはずだ。
だが、それも長くは続くまい。
ドラゴンは一手毎に戦力を削がれていく。
美しかった鱗は剥げ、体中から流れた血で全身がまだら模様だ。
すでにブレスも吐けないのか、舌をだらりと垂らしてゼーハーと荒い息をついている。
対するバッシュは、肩で息をしているものの、まだ余力が残っている。
「……」
ドラゴンとバッシュが数秒だけ止まった。
その数秒、一人と一匹は見つめ合った。
ゼルにはわかる。
決着の時だ。
だが同時に一抹の不安もよぎる。
ドラゴンは生物として格上の存在だ。
何か奥の手を残していてもおかしくはない。
バッシュがいかに戦士として別格であったとしても、その奥の手を初見で回避できるとは限らない。
ゼルは祈る。
どうか、どうか前の戦いで、バッシュがその奥の手を見ていますように、と。
レミアム高地の戦いにおいて、ドラゴンが最後に切り札を切ったとか、そんな話を聞いたことは無かったが、それでもどうか、バッシュにしかわからぬ何かを知りえていてくれ、と。
二人が動き始める。
ドラゴンの上体が左へと流れる。
対するバッシュは、死角である右へと移動を始める。
あくまでブレスを回避できる距離を保ちつつ、ドラゴンの攻撃にカウンターをあわせるべく、体に力をみなぎらせる。
獰猛に牙を剥き、全身から湯気を立ち上らせてにらみつける姿は、気迫に満ちている。
歴戦のオーク戦士であったとしても、小便をちびって命乞いをするだろう。
ゼルはそれを見て確信した。バッシュが勝つと。
次の一撃でドラゴンの首を刎ね飛ばす、と。
そして、恐らくドラゴンすらも、それを理解していた。
ゆえにドラゴンは上体を反らし、目一杯に溜めを作って――。
「えっ?」
そのまま地響きを立てながら、奥へと走り抜けていく。
「……えっ?」
逃げた? ドラゴンが?
あの、大陸最強の生物が?
あ、でもそうか。
「……ドラゴンも生き物っすもんね」
ゼルの呑気な言葉に、バッシュは怒声を上げる。
「逃がすな! 追え!」
「あっ! は、ハイっす!」
バッシュにしては珍しい切羽詰まった声に、そうだ、とゼルは思い至る。
旦那は言っていたじゃないか。
「空を飛ばれていたら勝てない」と。
ドラゴンがバッシュに勝つための手段があるとすれば、それだ。
逃げて、空を飛び、安全な場所から強襲する。
そう、ドラゴンに逃げ切られたら、次はこっちが狩られる側なのだ。
ドラゴンの巣から逃げ出し、ギジェ砦までたどり着けずに全滅した、あのデーモンの部隊のように。
姿を隠すことさえ出来ない雪原で追いかけられ、上からブレスを吐かれたら、いかに『オーク英雄』といえど、勝ち目は無いのだ。
バッシュが圧倒していたから、相手が逃げたから。
だから勝ったと錯覚してしまったが、そうじゃない。
今がまさに分水嶺。
正念場なのだ。
仕留めなければ、負けるのだ。
「うおおおぉぉ!」
ゼルは飛んだ。
隼のように。
「……」
しかし、ゼルが見たのは、ポッカリと空いた穴。
猛吹雪が吹き荒れる山肌と、外へと続くドラゴンの足跡と血痕のみだ。
ゼルの血の気がサッと引いていく。
やばい、逃げ切られた、と。
しかしそこで気づいた。
足跡と血痕はうっすらとだが、吹雪の雪山に続いている。
どうやら、転がり落ちながら逃げているらしい。
「旦那、飛んではないっす! 下っす! 下に逃げたっす!」
「わかった!」
バッシュが追いついてくる。
ゼルはその肩に掴まり、一緒に外へと飛び出していく。
吹雪が全身に叩きつけられる。
突き刺すような冷気に、頭がキンと痛みを発する。
でもバッシュは止まらない。
わずかに残った足跡を逃さず、追跡していく。
ゼルは知っている。
こういう時のバッシュは、獲物を逃さない。
正確に言うと逃した事はあるが、稀な例だ。ヒューストンぐらいだろう。
でなければ、『オーク英雄』と言われるものか。
詰めの甘い男じゃないのだ。
バッシュは斜面を滑るように降りていく。
落ちるような速度、一瞬でも足を踏み外せば、あっという間に滑落してしまうだろう。
だがこの吹雪だ。
ためらえば、足跡も血痕も、一瞬で吹雪に消されてしまう。
どっちにしろ死ぬのなら、死なない可能性に賭けるのは当然のことだ。
「……む」
ある場所で、ドラゴンの足跡がこつ然と消えた。
同時に、あるものを発見した。
「……洞窟っすか?」
それは、先程の洞穴とは別の洞窟だ。
いや、自然にできた洞窟というより、人の手で作られた建造物のように見える。
氷漬けになった石柱の残骸があり、よく見れば内部も石で舗装されていた。
いわゆる遺跡というやつだ。
もっとも、バッシュたちにはどうでもいいことだ。
問題は、さほど大きくもない入り口に、ドラゴンが入り込めるだけの余裕があるということだ。
「ここに逃げ込んだのか?」
あるいはそのまま崖を転がり落ちていった可能性もある。
ここまで飛んでいなかったが、ここから滑空して逃げたという可能性もゼロではない。
中か、外か……。
「ゼル、どう見る?」
「うーん……そうっすね。ドラゴンが中に入り込んだのなら、入り口の氷柱が折れてないのはおかしいようにも思えるっすけど、ドラゴンはあれでいてかなり賢い魔獣っす。身を低くすれば、ギリギリ折らずに入り込むことができるかもしれないっすから……」
だが、これだけ必死に逃げている奴が、それだけの知恵を働かせられるだろうか。
それより、崖を転がりながら降りていったと考える方がマシなのではなかろうか。
そう思わなくもないゼルだが、しかし可能性を除去するには至らない。
「やっぱこのまま崖を降りていったと考えた方がいいと思うっす!」
「いやまて!」
と、バッシュが鼻を引くつかせながら、遺跡の奥を睨んだ。
石造りの壁や天井には、何の痕も残っていない。
もしドラゴンがこの中に体を滑り込ませたというのなら、新しい傷跡ぐらいのこっていてもいいはずだ。
ならばこの中に逃げ込んでいないと、そう思う所だが……。
「血の匂いがする」
「!」
オークの嗅覚は大雑把だが強い。
遺跡の奥から、かすかな血の匂いをかぎ取っていた。
この遺跡の奥には、間違いなく血を流した何かがいる。
「中だ! いくぞ!」
「はいっす!」
バッシュとゼルは遺跡の中へと足を踏み入れた。
先程よりもやや慎重だ。
ドラゴンがこんな所に逃げ込んだのだとすれば、ただ逃げたのではあるまい。
なにかしらの勝算があってのことだろう。
奇襲か罠か。
ドラゴンが思いつきそうなことなど検討もつかないが、ただただ最速で動けるよう、警戒しつつ二人は奥へと進んでいく。
奥に進むにつれて、血の匂いが濃くなっていく。
いる、と確信しつつ、バッシュは匂いの元をたどる。
剣を握った手に力がこもる。
もし奇襲であれば、次の瞬間が決着の時となるかもしれない。
致命傷を負わせるか、あるいは負わせられるか。
遺跡内を進むと上へと続く階段があった。
ややきつめの階段は崩れかけていて上りにくく、見通しも悪い。
こちらが低所で敵が高所。
奇襲がありえそうな横穴があったとしてもよく見えず、不利な状況は否めない。
否応なく緊張が高まっていく。
やがて階段が終わり、広い空間に出た。
やや暖かい空気がふわりと全身を包み、同時にむわりと、強い血の匂いが嗅覚を刺激した。
空間の奥には、青く光る物体があり、それが光源となって遺跡内に陰影を作り出している。
巨大な岩や、柱の残骸らしきものが散乱しており、ドラゴンの巨体であっても隠れる場所には困るまい。
「っ!」
バッシュは何かを察知して、岩の裏にある暗がりへと飛び込んだ。
そして振りかぶった剣をそのまま、敵がいるであろう場所へと叩きつけ――。
「……?」
止めた。
「女?」
バッシュの剣が向いている先にいたのは、一人の女だった。
青白い肌に、白い髪。
頭には二本の大きな角がついている。
服はやや古めかしいが、かなり立派なもので、身分の高さが窺える。
しかも、体のラインがわかるピッチリとしたもので、目に嬉しかった。
身体はスレンダーで、最近サキュバスの豊満な肉体を見てきたがゆえ、少し貧相にも見えたが、しかし女性らしい美しいラインだ。
顔もいい。
やや幼さの残る顔立ちで、気の強そうな印象を受ける。
金色に輝く瞳は大きくパッチリとして美しく、ぷっくりとした唇と、口元から覗くギザギザの歯は実にキュートだ。
ただ、彼女は体の至る所に傷を負っていた。
パッチリと美しい瞳は片方だけ醜くつぶれているし、首筋についた傷は深いのか、片手を首筋に当てて、はぁはぁと荒い息をついていた。
バッシュを見る目は恐怖のそれだ。
完全に追い詰められた獣のような目をしていた。
彼女はガチガチと歯を鳴らし、両手を己の身を守るように持ち上げつつ、バッシュの剣とバッシュとを、何度も見比べていた。
だがやがてバッシュが動きを止めているのを見て取ると、口を開いた。
「た」
たどたどしい言葉は、まるで言葉を覚えたて子供のようだった。
だが、確かに彼女は言った。
バッシュに恐怖の目を向けながら、怯えきった様子で、
「たすけて。ころさないで」
なぜこんな所にこんな素晴らしい美女がいるのか。
歴戦の戦士であるバッシュも、混乱から抜け出せない。
「あっ」
しかしゼルは違う。
ゼルは彼女の体に残る傷を見て、ピンと来ていた。
「討伐隊の生き残りっすか!」
「!」
バッシュもハッとなり、その可能性があったかと得心がいく。
ドラゴンを倒すことに夢中になりすぎて、自分の目的を忘れるなど戦士として失格だが、思えばバッシュは戦時中ずっとそうだったのだから仕方がない。
「ドラゴンから撤退し、ここに逃げ込んでいたということか……?」
「違うっす、旦那、ほらこっち! よく見てくださいっす!」
そう言われ、バッシュはゼルの指差す方向を見た。
すると、そこにはどことなく見覚えのある空間が存在していた。
岩が砕け、壁や天井が焼け焦げ、血が周囲に飛び散っている。
もっと奥を見れば、そこには溶けた岩と、人間が二人ほど通れそうな穴も存在していた。
バッシュたちが入ってきた穴だ。
「ここは、繋がっていたのか……!」
「どうやら、そうみたいっす」
なんということか。
そこは、さきほどバッシュがドラゴンと戦った場所だった。
遺跡はドラゴンの巣へと繋がっていたのだ。
「ならば、先ほどの血の臭いは……」
「さっきの戦いの痕跡、ってことっすか」
ドラゴンはそれを知っていたからこそ、雪に体をこすりつけることで血の臭いを薄れさせ、濃厚な血の臭いの残るここにバッシュたちを誘導させたのだろう。
まさかドラゴンがそんな小細工を……と思う所もあるが、魔獣の中には、そういった行動をとる奴もいる。不思議ではない。
そしてこの討伐隊の女は、ドラゴンに非常食か何かとして確保されていた、ということか。
あるいはドラゴンは、同族がピンチなら助けようとするという人間の習性を知っていて、こういう時のために女を生かしておいたのかもしれない。巣の中に傷だらけの人間を置いておけば、自分が巣から逃げる時に足止めになるから、と……。
ヒューマンが戦争中によくやった手である。
ドラゴンの知能は極めて高いとされる。それぐらいはしても不思議ではない。
どうにせよ、
「逃げられた、ということか……?」
「…………っすね」
ドラゴンに逃げ切られた。
その事実にバッシュの肩から力が抜け、剣先が地面へと下りたのだった。