33.仮面の聖女オーランチアカ
首都リカント中心部、王宮リカオン。
庭園、建物、内装、どれもが新しいそこは、結婚する第三王女のため、金銀宝石によって美しく飾り立てられている。
外装だけではない。
第三王女の結婚が大々的に発表されてから一ヶ月、結婚式に向けての準備が着々と進められていた。
ビーストの第三王女イヌエラと、エルフ軍人トリカブト大佐の結婚。
それは世界的に見ても、非常におめでたい出来事だった。
ただおめでたいだけではなく、両国の結びつきをさらに強めると同時に、他国への牽制の意味も込められた、政治的にも意味のある結婚でもあった。
ゆえに、エルフとビーストの王族は、それぞれの威信を賭け、その結婚式を戦後で最も豪華なものにする予定であった。
そのため、潤沢な資金を惜しげもなく使い、祭りを開催し、世界各国へと喧伝し、各地から著名な人物を招待した。
が、当然ながら、それを面白く思わない者がいる。
それは、エルフとビーストが力をつけることを望まぬヒューマンの貴族であったり、せっかくの金儲けのチャンスに蚊帳の外に置かれたドワーフの商人であったり……トリカブトの所属する派閥と敵対する、エルフの貴族であった。
◆
「――つまり、このトリックを使えば、毒が盛られたと推測される時間に、アリバイが存在しないヤツが出てくるって事になるわけだ。うん」
リカオン宮の一室は騒然としていた。
式典に向けて集められた各国のお偉いさんが集められ、一人の女性の言葉を聞いていた。
長い金髪から、尖った長い耳が覗いている所を見ると、エルフに違いない。
だが、その素顔は仮面で隠され、正体は知り得ない。
その場にいる誰もが知っていたが……誰も知り得ない。そういう暗黙の了解があった。
「ブーゲンビリア」
「ッッッ!」
そして、仮面の女性は、一人の女性を追い詰めていた。
短く切りそろえられた金髪に、長い耳。
耳には大きなイヤリングが付けられているものの、片方だけ。
もう片方は、仮面の女性の手に握られていた。
「なぁ、なんでこんなことしようとしたんだ? トリカブトはお前の幼馴染だろ?」
ブーゲンビリア。
そう呼ばれた女性は、しばらくうつむいて震えていた。
だが、やがてバッと顔を上げて、叫んだ。
「あなたに……何がわかるんですか! 数百年も処女のあなたに!」
「おいやめろ」
「私は、ずっと昔から、トリカブト様のことを愛していた! 激しい戦いの合間の逢瀬を心の拠り所にしていた! 戦いが終われば、トリカブト様と一緒になれるのだと夢見てきた! それが、こんな獣臭い宮殿で、毛むくじゃらの畜生相手に結婚だなんて! 許せるはずもなかった!」
「その話と処女、関係なくないか!?」
「トリカブト様のためなら、どんな過酷な任務にも耐えられた! 命令されれば老人だって子供だって殺した! でも結婚した後は、尽くすつもりだった! 愛していた! 家柄だって釣り合ってないわけじゃなかった! それなのに、暗殺部隊の隊長と王族が結婚したら外聞が悪いと言われ、戦争中にオークに捕まって犯されたから汚い体だと言われ! 周囲に無理やり諦めさせられた私の気持ちが、わかるはずがない!」
「いや、わかるぞ? 私だってな……」
「わかってたまるか! 愛を知らぬ未通女なんかに!」
「いや、むしろ私としては、オークに負けても犯されなかったせいで、臭いとか言われてた私の気持ちをわかってほしいけどな……?」
「そのオークにプロポーズされて、一転して浮かれていたくせに!」
「うっ……む……あ、ああ、そうだな。うん。私にお前の気持ちはわかりません……ごめんなさい……」
仮面の女性は冷や汗をかきながら謝罪すると、咳払い。
「ともあれだ! それで、お前はその気持ちを反カブトギク派の連中に利用されて、下手人としてこんなことをしたってわけか」
仮面の女はそう言うと、指先でイヤリングを少し弄った。
すると、イヤリングの先から、ポタリと一滴の液体がこぼれ落ちる。
禍々しい紫色をした液体。
誰がどう見ても猛毒である。
「……」
「……あのな。多分、あいつらもお前の気持ちなんてわかってないぞ?」
気を使うように言った仮面の女に、ブーゲンビリアは複雑な表情をする。
しかし、もう引くに引けない所まで来てしまった。
この場にトリカブトはいないが、自分がビースト貴族を暗殺し、結婚式を中止に追い込もうとしていることまでバレてしまった。
未来は閉ざされたのだ。
「かくなる上は……」
ブーゲンビリアは、懐から短剣を取り出した。
禍々しく曲がりくねった短剣。エルフ軍の暗殺部隊の中でも、特に功績を持つ者に与えられた、名誉の短剣。
暗殺部隊随一の実力を持つブーゲンビリアが、殺気をほとばしらせる。
「お、おい、やめろって! はやまるな!」
「全員殺してやる! イヌエラも、トリカブト様も! あ、あなただって! こんな、こんな結婚認めない! めちゃくちゃにしてやる!」
場が騒然となる。
中には、剣を抜き放つ者や、魔力を手に込める者もいる。
いかに暗殺部隊のトップだったとはいえ、ブーゲンビリアは一人。
この場にいる者は、全員が戦争を生き抜いた猛者だ。ブーゲンビリアと互角か、それ以上の実力者が何人も混じっている。
「なぁ、ブーゲンビリア。確かに私はお前の気持ちはわからないかもしれない。けどな、トリカブトもお前も、小さい頃から知ってるんだ。お前がトリカブトのことを好きだったのは気づかなかったけど、私はお前が決して悪いヤツじゃないってのは知ってる! 昔っからお前は強くて、弱っちいトリカブトをいじめっ子から守ってやってたよな……」
仮面の女の言葉に、ブーゲンビリアの瞳が揺れ動く。
「その恋が成就しなかったのは、残念だったと思う。エルフのために尽くしてくれたお前を、汚れただのなんだのと言った連中は、私がきつい灸を据えてやる。なんなら、私が直々に、公的な場でお前の功績を称えてやってもいい。うん、最初からそうすべきだったな! 色々忙しくて……いや、言い訳だな。最近は自分のことばかりで、お前達にまで気が回らなかったんだ。許してくれ」
仮面の女の声音は、ブーゲンビリアにとって懐かしいものだった。
昔、同年代と喧嘩して泣かせたら、この人がきて、こうやって諭してくれたのだ。
両親を戦争で亡くしたエルフたちにとって、この人は母であり、教師であり、守るべき対象なのだ。
「それから、新しい恋を探そうじゃないか。うん。例えばそうだな、シンビジウムなんかどうだ? 同じ暗殺部隊の。アイツも、確かまだ独身だったろ? そりゃ、お前から見るとちょっと頼りないかもしれないけど、あいつも悪いヤツじゃないし、ちょっとそういう目で見てみたらどうだ? なんだったら、私も手伝うぞ? ん?」
仮面の女は、そう言って、ゆっくりと近づいてくる。
刺激しないように、隙きあらばその手の刃を奪おうと。
しかし言葉は真摯だった。どこまでもブーゲンビリアを心配してくれていた。
「……!」
ブーゲンビリアは気づいた。
自分はいま、決して刃を向けてはならない人に、刃を向けている、と。
「だから、なぁ、頼む。その短剣を渡してくれないか?」
そして、仮面の女は、そっと、ブーゲンビリアの頬に手を触れた。
その優しい手付きに、ブーゲンビリアは力が抜けた。
カランと短剣が落ちた。
「ご、ごべんなざい…………」
膨大な涙と鼻水とともに、そんな言葉が漏れた。
こうして、一つの事件と、恋が終わりを告げた。
■
その日の晩、仮面の女はリカオン宮にある客室の一つで、果実酒をくゆらせていた。
「……」
彼女が思い返すのは昼間のことだ。
今日、結婚式に呼ばれた賓客の一人が毒殺されそうになった。
未遂で済んだものの、もし死んでいれば、結婚式は中止となったかもしれない。
あるいは、ビーストとエルフの間で戦争が起こったかもしれない。
「まったく……」
下手人は、仮面の女もよく知る人物だった。
ブーゲンビリア。
小さい頃からよく知っている子だ。
まぁ、仮面の女は、大半のエルフの名前と顔と生い立ちを憶えているのだが。
彼女は下手人であったが、仮面の女の説得と懇願により、極刑に処されることは無く終わりそうだった。
相応の処罰は受けるだろうが、それは仕方あるまい。
そんなことより仮面の女が思い返すのは、追い詰められたブーゲンビリアの言葉だ。
正直、仮面の女には効いた。
未だに胸が痛かった。
「トリカブトめ、なんであいつあんなモテるんだ……?」
そんなボヤキを漏らしつつ、ちびりちびりと酒を飲む。
色気の欠片もない寝間着の上から腹巻きを巻き、椅子にぐでっと座った、だらしない格好だ。
「ん?」
と、部屋の扉がノックされた。
コンコンと、控えめな音に、仮面の女はそのままの声をあげる。
「誰だー? 開いてるぞー?」
「私です。夜分遅く申し訳ない」
男の声であった。
それも、知っている男だ。
仮面の女は戦場でも数えるぐらいしか出したことのない速度で扉に張り付き、回り書けていたドアノブを抑えた。
「おや? 開いていないようですが?」
「すまん、先程鍵を掛けたんだった。うん。ちょっとそこでまっててくれ。すぐ開ける」
「はい」
そこから仮面の女は素早かった。
愛用している寝間着と腹巻きを超高速で脱ぎ捨てて、自分のカバンの中にシュート。
賓客用に用意された、若干薄めの、下着が透けてみえるような部屋着に着替え、いや、これはちょっと恥ずかしいな、とつぶやき、カバンの中からカーディガンを取り出して、これを羽織った。
姿見で自分の容姿を見て、恥ずかしくない程度にセクシーだと確認。良しと頷き、先程座っていた椅子に座り直し、果実酒のグラスを手に取る。
「よ、よし、入ってきていいぞ?」
「おや、鍵は……?」
「開いている」
扉の向こうから苦笑するような気配がしたが、その理由については仮面の女はわからない。
なにせ、こんな夜分に、身内以外の男が尋ねてきたのは初めてで、テンパっていたのだ。
「失礼します」
「ああ、よく来……たな?」
仮面の女は一瞬、言葉に詰まる。
声から、扉の向こうにいる人物には検討がついていた。
実際、部屋に入ってきたのも、その人物だ。
だが、その顔には、女の顔を模した仮面が被せられていたのだ。
「お前、なんだその仮面は? ふざけてるのか?」
「サンダーソニア様こそ、自室でも仮面を外さないのですか?」
「わっ、バカ! シーッ! 今の私は仮面の聖女オーランチアカ。サンダーソニアはここに来てないんだ!」
「なんでまたそんなことを……」
「いや、私が来ていると知れたら、トリカブトのヤツに気を使わせてしまうだろ? 席次を変えたりとか、賓客用の個室をいい部屋にしたりだとか……ただでさえ結婚式の準備で忙しいのに、面倒掛けられん」
「なるほど」
仮面の男は、苦笑して頷いた。
サンダーソニアは、元々戦争中は仮面を付けていた。自身の魔力を増幅させる仮面だ。
だからむしろ、身内以外には仮面を付けている方が自然なぐらいだ。
そんな彼女が仮面を付けて変装した所で、誰も変装しているとは思うまい。
ただ重鎮だから、偉い人だから、サンダーソニアと呼んでほしくないと言えば、誰もがそれに従うだけなのだ。
「お前こそ、なんなんだその仮面は」
「私も似たような理由ですよ。今の私は愛と平和の使者エロールといったところでして……それはさておき、今日はお見事でした。陰ながら見守っていましたよ」
「ふん、身内の不始末だ。私が尻拭いしなくてどうする」
「各地でそんな風に世直しをしているそうで」
「戦争が終わったからって、不始末をしでかす身内が多すぎるんだ」
仮面の女……もといサンダーソニアは、そう言ってフンと鼻息を荒くした。
シワナシの森から旅立ち、今に至るまで、各地でいい男を探してきた。
まずはヒューマンの国へ行き、そこからエルフの本国へと移動し、どちらでも空振りに終わった。
どうにも、戦争が終わってからというもの、エルフは各地で悪さをしているらしい。
特に、時期国王と目されるカブトギク王子と、そのカブトから王位をもぎ取ろうと画策するアズマギク王子(反カブトギク派)の争いは激しく、国内のみならず、どれだけ国外に味方を作れるかという所にまで及んでいた。
サンダーソニアはそれらを見かける度に仲裁していたのだが、その結果、サンダーソニアはお忍びで各国を周り、自国から出た悪事を裁いていると噂されるようになってしまった。
ただ、結婚相手を探しているだけなのに。
「それで、愛と平和の使者エロール殿は、何の用だ? こんな夜更けに顔を隠して乙女の寝室を尋ねるなど、変な噂をされても仕方がないところだぞ? そんな噂流れてみろ、お前はエルフの諜報部に追い回され、その仮面を無理やり剥がされた挙げ句、噂を立てた責任を取ってもらうことになる」
それは仮面を外して本名を名乗り、責任を取ってくれるなら、一晩の逢瀬もオッケーという誘いである。
なんなら今晩だけでなく、毎晩の逢瀬もオッケーと思っている。
迂遠すぎて伝わるはずもないが。
「……そうでしたね。確かに、こんな夜分に、純潔の乙女たる聖女オーランチアカ様の寝室に訪れるなど、配慮が足りませんでした。用が済み次第、すぐに退出させていただきます」
「あ……そうか。うん……そうしてくれ……」
自分の言った言葉を引っこめるわけにもいかず、サンダーソニアはスンと小さくなった。
彼女は「責任を取ればよろしいのでしょう?」と男が迫ってくることを期待していたのだ。
良識ある人間が、エルフの重鎮たるサンダーソニアと一晩の火遊びをするはずなど、無いのだが。
「少々、あなたのお耳にも入れておきたい事がありまして」
「なんだ?」
「例の者たち、やはり動いているようです」
その言葉にサンダーソニアが顔をしかめた。
「そうなのか?」
「この国にも、すでに侵入しているやもしれません」
「結婚式はどうなる? 中止させた方がいいんじゃないか?」
「狙いがわからない以上、なんとも……ただ、女王は決行するつもりのようです」
「かの王ならそう言うだろうな。気が強いんだ。あいつは……で、私は何をすればいい?」
「ひとまず今は、動けそうな者に情報提供と注意喚起をしているだけですので」
「……そうか。情報感謝する。気をつけておこう……それだけか?」
「それだけです」
「本当にそれだけか?」
「それだけです」
「そうか……」
サンダーソニアの脳が超高速で回転する。
この男、愛と平和の使者エロール。
その正体が独身男性であることを、サンダーソニアは知っている。
その仮面の下に隠された素顔が美男子であることや、その家柄や、戦場での華々しい功績や、その他もろもろについても知っている。
悪くない相手だ。
「まぁ、おめでたい結婚式なんだ。無事に決行させてやりたいものだよな! うん! 私たちが裏で動いて、助けてやるか!」
「そうですね」
「時に、お前はそういう浮いた話は無いのか? ん? お前が結婚とかすればおめでたすぎて世界が盛り上がるだろ? もし相手がいないようだったら、そう、例えば……」
「私は、ある女性に操を立てております」
食い気味に言われ、サンダーソニアは黙った。
その女性は誰だ、と聞くのも躊躇われた。
聞いたら再起不能なダメージを受けるかもしれないから。
「そ、そうか……あるならいいんだ。うん」
「では、そろそろ失礼します」
「ああ、うん。わかった。引き止めて悪かったな……」
「はい。サンダー……いえ、オーランチアカ様も、くれぐれもお気をつけください」
「もちろんだとも。私はエルフの大魔道サンダーソニアだぞ。気をつけるさ。十分にな」
エロールは一礼すると、部屋から退出していこうとする。
サンダーソニアは後ろ髪が引かれる思いでそれを見送りつつ、引き止めるかどうか迷う。
と、そこでエロールは立ち止まった。
「ああ、そうだ」
「な、なんだ!?」
「『オーク英雄』が、この町に来ていました」
「バッシュが?」
「王女の結婚を祝いにきたのでしょう」
「ほ、ほう……」
唐突にオーク英雄のことを聞かされて、サンダーソニアは動揺した。
だが、考えてみればバッシュがここに来るのは、そう不思議なことではない。
オークとビーストの友好を考えれば、この結婚式は絶好の機会なのだから。
「完璧な正装に、慎ましやかな態度……自身を失わぬよう、お酒も飲まなかったようです。自分がビースト王族からどう思われているか、よく理解しているのでしょう。他のオークでは、あそこまではできない」
「だろうな。奴は私にプロポーズしにきた時も、エルフの正装をしていたものだ。もちろん、断ってやったがな! もちろんな!」
本来、オークが戦場で殺した相手の家族に頭を下げることなどは無いだろう。
お前も殺して一族を絶やしてやるぞと、嘲笑するのがオークという種族だ。
でも、バッシュなら、一族の誇りと名誉のためなら、自分の頭など軽いものだと下げてみせるだろう。
もちろん、バッシュの取った行動は謝罪とは少々違う。
他族の正装をして、正式な場に姿を表し、堂々と祝辞を述べる。
それは、オークが他種族を尊重しており、友好的であるというポーズだ。
「もっとも、ビースト王族は彼ほど理知的ではないようで、私が席を外している間に、英雄殿を激しく罵り、追い出してしまったようですがね……そうなるなら、付いていればよかった」
「なんだと……ビースト王族は馬鹿なのか? 気持ちはわかるが、やっちゃダメだろ、それは。大体、アイツらは恨みを持ちすぎなんだ。戦争は終わって、みんな仲良くしようとしているのに、オークだけ敵視しちゃいけないだろ。子供かあいつらは」
「仰るとおり……でも、もし『シワナシの悪夢』であなたが殺されていれば、エルフも同じようなことをしていたと思いますがね」
「あー……まぁ、うちもヤンチャな子供ばっかりだからな」
エロールはくすりと笑った。
数百年を生きたエルフを子供と言い切るサンダーソニアが面白かったのだ。
「英雄殿が、そのことを恨み、復讐など考えていなければいいのですが……」
「いや……奴はそういうのは考えないと思うぞ。うん。私に振られた後もケロッとして次の町に行ったしな。他のオークだったらこうはいかん」
「だといいのですが……『例の者達』の動向も気になります。サンダーソニア様も、ゆめゆめ油断なさらぬよう」
「当たり前だ。私が油断なんかするか」
「ははは、いらぬお世話でしたね。では」
エロールは再度一礼をすると、部屋から退出していった。
部屋に残ったサンダーソニアは、果実酒をグイっと飲み干して、テーブルに突伏した。
『例の者達』の動向も気になるし、バッシュのことも気にならないと言えば嘘になる。
が、それ以上にショックだったのは、別のことだ。
「はぁ~~~~~」
サンダーソニアは、大きくため息をつき、突伏したまま、誰にも聞こえないであろう小さな声で呟いた。
「あいつほどの男だから、そりゃ相手ぐらいいるよなぁ……」
旅を開始してから何度目かになる空回りに、サンダーソニアは大きく嘆息するのであった。




