111.不在
オーガという種族は、極めて優秀な種族だ。
力が強く、体は丈夫で、その上頭もよく、魔法も使える。
男女で見た目に大きな差があるが、力の差はあまりない。
強い魔力を持つ個体は、第三の目などの身体的特徴を持って生まれることもある。
これはデーモンにも見られる特徴であり、エルフの中でデーモンとオーガは近似種であるとされていた。
古代の図書館でいくつかの文献を見たサンダーソニアは、太古の昔に、デーモンの血がオーガに混じった結果によるものではないかと推測している。
まぁ、大陸の歴史は長い。ヒューマンやエルフ、果てはオークとて、他種族の血が混じっていないとも限らない。
重要なのは、オーガが独自の魔法体系を持っているということだ。
呪術という、圧政から抜け出すための魔法を。
そんなオーガの国の国境付近まで到着したバッシュ一行は、国境から程よく離れた森の中で野営を行っていた。
時刻はすでに夜であるが、まだおっぱじまってはいない。
ムードというものがある……わけではないが、その前に作戦会議が必要だったのだ。
「……どうやって入ればいいと思う?」
そう聞くのは、この一行の唯一の頭脳、サンダーソニアだ。
エルフの国の生き字引。
生けるひいひいばあちゃんの知恵袋とさえ言われる大魔導である。
言うと怒るが。
「何を迷うことがある? あの程度の関所なら、俺が盾になり、お前が焼き尽くせば突破できよう」
「突破の仕方を相談してるんじゃないんだぞ?」
サンダーソニアは不思議そうな顔をするバッシュの肩を、優しくポンと叩いた。
「いいか、私たちはな、そのルドとルカって奴に会わなきゃいけないんだ」
「そうっす! だからさっさと突入して拉致ってくるっす!」
物騒なことを言うゼルに、サンダーソニアは首を振る。
「そいつらはバッシュの弟子と婚約者かもしれないが、協力してくれるとは限らん無いだろ? 接触はなるべく穏便にいって、言葉で説明したいんだ。わかるだろ?」
「まぁわかるっすね。ラブアンドピースっすよね。とはいえ、あの二人なら、旦那がちょっと「ついてきな」って言えば協力してくれそうっすけどね」
なにせルドとルカは、愛する母親をゲディグズの手の者によって奪われている。
その仇討ちは、すでに諦められたものであるが、因縁は残っているといえよう。
手伝いができると聞けば、喜んで手を貸してくれるはずだ。
「かもな。とはいえ、ここはもう敵地だ。バッシュもキャロットも、ついでに言えば私も武器がない。軍勢に囲まれたら逃げ切れない可能性もあるんだ。騒ぎは起こすべきじゃないだろ」
「わかった」
「とはいえ、私は恐らく指名手配されてるはずだ」
サンダーソニアはエルフの大魔導。
七種族連合の連中からは、それはもう忌み嫌われている。
その上、今はゲディグズ界隈のお尋ね者だ。
つい先日までは死んだと思われていた可能性もあるが、あのシーケンスが自分の所で情報を止めているとは到底思えない。
サンダーソニアがシーケンスなら間違いなくそうする。
戦場で会おうとは言ったが、しかしそれは必要な連絡を怠ってまですんなりと戦場まで送り届けてくれるという意味ではない。
最低でも、各国に生存の報告と、指名手配ぐらいはしておくだろう。
「ここまで来てなんすけど、その呪術っていうの、サンダーソニアが開発できたりしないんすか?」
「いい質問だな! 開発できんこともないぞ!」
「じゃあそれでいけばいいんじゃないっすか?」
「うむ。そうなんだが、新魔法の発明ってのは、なんだかんだ言ってすごく時間が掛かるんだ。原理がわかれば、見様見真似でも同じことは出来るから、多少は早く開発できるが……。私は呪術を知らん。オーガがたまに使う、古臭い魔法ってことぐらいしかな。で、ゲディグズの不死身の術理もさっぱりだ。となれば、何百年かかるかわからんな!」
「ほえー。エルフにとって魔法って、そんな感じなんすね」
「フェアリーにとっては違うのか?」
「そっすね。精霊さんにお願いする感じっすね。『シャス! イマヒマスカ! チョイイスカ!? アザス! オネシャ!』って感じっす!」
精霊との親和性の高いフェアリーも、独自の魔法体系を持っている。
それを理解できる魔法使いは他の種族には存在しない。
だが、稀にエルフにも精霊に愛される者が誕生することがある。
彼らは卓越した魔法使いとなるが、魔法に対する捉え方はどこか凡人と変わってくる。
それと同じことだろう。
「といっても、ヒューマンになってから精霊の声って全然聞こえないんすよね。なんとなくいるのはわかるんすけどねぇ」
耳に手を当てて周囲の声を聞こうとするゼルを、強風がひとなでする。
それだけで、彼女が風の精霊に愛されているのだとわかるが、しかしそれ以外に何かが起きる様子はない。
精霊もさぞ悲しがっていることだろう。
「お前にとって、ヒューマンってのは精霊の声が聞こえない存在なんだろうな。まぁ、それでもヒューマンは魔法が使える、どうだ、改めて魔法を教えてやろうか?」
「お、いいんすか!?」
と、ゼルが嬉しそうにサンダーソニアに振り返った時、サンダーソニアの頭上から声がした。
「サンダーソニア」
「なんだバッシュ。退屈か? っと、そういうことか? まぁそう焦るな。昨日だっていっぱいシたろ? 私としてもお前に抱かれるのは嫌じゃないんだから、その前にぐらいさせろって」
少しばかりとろけた顔でバッシュを見上げるサンダーソニア。
いやー、愛されすぎて困っちゃうな、でも仕方ないなぁ、相手はバッシュだからなぁと、顔に書いてあった。
雑談の途中だが、バッシュが我慢できないなら仕方ないと言わんばかりで、なんとも幸せそうな顔であった。
が、バッシュは真顔だった。
「いや、そうではない。魔法というのは、俺にも使えるのかと思ってな」
その言葉に、サンダーソニアは顔を真っ赤にして口をつぐんだ。
まるで自分だけ発情していたことがバレたかのように。
「そ、そうか……うん。いや、まぁ、お前も魔法戦士になったわけだし、魔力はあるみたいだからな。まぁ、使えるんじゃないか?」
「今後の戦いで必要なら、学んでおいた方がいいか?」
サンダーソニアは、その言葉で思い出した。
そういえばバッシュが魔法戦士だとわかった時、教えてやるとか言ったような、言ってないような……。
「バッシュ、お前、私に魔法を教えて欲しいのか?」
「……ああ。魔法戦士になったと思った時は絶望したが、使ってみたくはあった」
「なんだよ! そういうことならさっさとそう言えよ!」
サンダーソニアはバッシュの膝からぴょんと立ち上がった。
「よーし! じゃあこの私が、お前らに魔法を教えてやる!」
「おお……」
「旦那といえどもビシバシいくっすよ! 大魔導の道は険しいっすからね! まぁおれっちは今は何も教えられないっすけど!」
「私も魅了ぐらいしか使えませんが、エルフの大魔導の魔法の授業……興味がありますね」
やんややんやと喝采を受ける中、サンダーソニアは手を振ってこたえる。
「まかせとけ。こう見えて魔法を教えるのは得意なんだ」
エルフの国では、あらゆるエルフに最初に魔法を教えるのはサンダーソニアだと言われている。
もちろんそんな事実はないが、王族の何人かはサンダーソニアが直々に手ほどきしている。
高名な弟子は多い。
かのエルフの小魔導ネメシアもそうだ。
他は大体みんな死んだが、生き残るための術、戦うための術として、サンダーソニアは魔法を教え続けている。
「いいかバッシュ。まず最初に言っておかなければいけないんだが……魔法というものはな、自分の身の丈にあったものから使い始めるのが肝要だ」
「どういう意味だ?」
「私に魔法を教えてもらおうって奴は、みんな私のような魔法を使いたいと願うもんだ。だが、同じように使ったって強くなるとは限らないってことだ。ま、噛み砕いていうとだな、お前は剣がうまいだろ? なら他の武器に変えない方が強いってことだ。魔法も武器なんだ。わかるだろ?」
「……ああ」
流石のバッシュとて、最後の言葉はわかった。
バッシュは剣が得意だ。
斧でも棍棒でもなく、剣が。
魔法が武器、というのはいまいちピンときていないが。
「お前のようにはなれんということか?」
「そんなつまらなさそうな顔をするな。ていうか、お前はできる気でいたのか? 私と同レベルで魔法を使うなんて」
「いや……ただ、何もない所から炎や水を出すのは面白そうだと思っただけだ」
「そうそう、そういうのでいいんだよ最初は! よしよし、いずれそういう魔法も教えてやるからな!」
エルフの子供たちも、最初はそういった好奇心から魔法を憶えはじめる。
手からキラキラピカピカしたものを出すの、カッコイイって感じだ。
「そもそも私と同じように魔法で戦うのは無理な可能性もある。魔力の量も違うだろうしな」
「俺はどれぐらい魔力があるんだ?」
「わからん。エルフ本国には魔力を図る道具もあるが、ここにはないからな。一般的にオークメイジはそこそこ魔力を持っていると言われているが、個体差はある」
「あの、私はバッシュ様はかなりの魔力を秘めているのではないかと思います」
口を挟んだのはキャロット。
唇に指先を当てて小首をかしげている。
妖艶なポーズだが、サキュバスは一般的に物事を考える時はこういったポーズをする。
ちなみにこの仕草はエルフの女から蛇蝎のように嫌われている。
「そうなのか?」
「はい……心当たりがあります」
「ほう」
「道中でキュウカ……サキュバスに襲われたかと思いますが、あの時のバッシュ様、『桃色濃霧』があまり効いておられないご様子でした。レジストなされたのかもしれません」
「レジスト!? いや、言われてみると確かにそうか……えっ、ていうか『桃色濃霧』をレジストするとなると、相当な魔力だぞ……お前のチャームもレジストできるか、今晩あたり試してみるか?」
「それは、ご容赦ください……」
伴侶になったとはいえ、実験とはいえ、尊敬する恩人に魅了を掛けるなど、サキュバス的にはあってはならないことであった。
バッシュとしては、魅了にかかろうが掛かるまいがやることは変わらないため、どちらでも問題なかったが。
「ま、多かろうが少なかろうが、結論は変わらん」
サンダーソニアは、己の膝をポンと叩き、バッシュに指をさす。
「炎とか雷とかはいずれ教えてやるが、まずお前が憶えるべき魔法は別のやつだ。今まで通りに戦って、より強くなるような奴を教えてやる」
「わかった」
「まだしばらく旅は続くからな、それまでに一つぐらいは憶えられるだろう!」
ということで、サンダーソニアの魔法の授業が始まる……。
のだが、最初の疑問への解答が得られていなかった。
「話が逸れたな……で、どうやって国境を突破するか、なんだが……」
最初の質問へと戻ると、サッと手を挙げたものがいた。
「じゃあ、こういうのはどうっすか!」
それこそが我らがゼル。穴の開いた知恵袋。
出てくる案は、いつだって何かが漏れているものだ。
「旦那とキャロットがサンダーソニアを捕まえたってことにして、首輪を付けて連れ歩く、ってのはどうっすか!」
「……護送の途中ってことにすればバレにくいか」
しかしサンダーソニアは首肯した。
意外にも知恵袋の穴は補修されているように見えた。
きっとヒューマンは手先が器用なのだ。
サンダーソニアをここに置いて、三人で潜入した方が見つかりにくい。
そんな意見を思いつく者は誰もなく、一行はサンダーソニアにつける首枷の制作に取り掛かるのだった。
■
そしてバレた。
「いたぞぉ! こっちだぁ!」
サンダーソニアとゼルに首輪をつけ、バッシュが縄の先端を持つことで所有物と見せかける。
当初はうまくいくと思われた潜入作戦だったが、一つだけ難点があった。
サンダーソニアが下着を脱ぐのをためらったのだ。
ゼルが元気よく全裸で「ばっちこい!」と構えたのに対し、サンダーソニアは名誉だのなんだのとグダグダと言い訳を垂れながし、挙句下着姿で突入することとなった。
すっぽんぽんのヒューマンと下着姿のエルフ。
しかもヒューマンは妙に自信満々で、エルフは恥ずかしそうにもじもじしている。
明らかに不自然な姿であり、発覚に至った……。
……わけではない。
「考えてみれば、私たちの指名手配もされていて当然でしたね」
「サンダーソニアは自意識過剰なんすよ! まるで自分だけが要注意人物みたいに言って、オレっちらを惑わせて!」
「悪かったよ!」
考えてみれば当たり前の事であるが、シーケンスはサンダーソニア以外の三人の指名手配をしないわけもなかった。
バッシュとゼルはまだしも、サンダーソニアとキャロットが抜けていたのは、連日の甘い夜のせいか……あるいは、デーモンの国を出てから、一度も刺客に襲われなかったせいか。
「くっ、囲まれたか!」
そうして現在、バッシュたちはオーガ達に包囲されていた。
両脇にサンダーソニアとキャロットを抱え、背中にゼルをくっつけた姿で。
国境からちょっと離れた森の中である。
町まで行くことすらできなかったのだ。
「とはいえ、相手は若造とジジイばっかりだし、なんとか突破できそうだな!」
サンダーソニアの言葉通り。
バッシュ立ちを包囲している兵士たちの大半は年若いか、あるいはすでに引退していてもおかしくない老兵ばかり。
バッシュやサンダーソニアのような新進気鋭の英傑を相手に立ち回れるような人材には見えなかった。
恐らく、戦える若者はすでにゲディグズ軍に加わっているのだろう。
「ああ」
バッシュは徒手空拳だが、その拳は並の戦士では太刀打ちできまい。
老人のスカスカの頭蓋骨など、一発で叩き割られるだろう。
「死にたい奴から掛かってこい」
「キャー! 旦那、カッコイー! さぁ旦那の言う通りっすよ! 死にたければ掛かってこい、死にたくなければ道を開けるっす! あ、結果だけを見たいという人はその場で座ってていいっすよ」
オーガたちは二の足を踏む。
特に老兵たちの戦慄具合は、筆舌に尽くしがたい。
バッシュのことを知っているのだ。
そして若者たちもまた、『オーク英雄』の逸話を知っているのだろう。
彼らはバッシュより一回り大きな体をしているが、自分より圧倒的な強者を前に突進できるほどの勇気も、胆力も、経験も無かった。
まして、バッシュの両脇に控えているのは、サンダーソニアとキャロットだ。
包囲をしている兵士は魔法使いが少なく、男も多い。
相手はたった四人だが、道を開けるしかない。
だが、開けるとしても、さすがに町まで行かれては困る。
そんな逡巡の中、ひときわ大きな男が、森の奥からヌッと姿を現した。
「む……」
赤茶色の肌。
背丈は四メートル以上あり、手には幅広の剣が持たれていた。
その身を包む金属製の鎧はオーガのものとは違う。
恐らくドワーフ製のものであろう。
歴戦の猛者であると一目でわかる佇まいに、バッシュは見覚えがあった。
「『鉄の巨人』ゴルゴルか!」
『鉄の巨人』の異名を持つ、オーガの戦士。
こちらにはキャロットがいるが、あの鎧は魅了をレジストするかもしれない。
まずい相手が出てきたと焦るサンダーソニアに対し、バッシュは泰然としていた。
そんなバッシュを見て、ゴルゴルは心底嬉しそうに破顔した。
「バッシュ、久しい、な」
「ドバンガ孔以来か」
そんなやり取りに、サンダーソニアは「知り合いか?」とバッシュを見上げる。
バッシュはこくりと頷き、ゴルゴルを見上げる。
ゴルゴルはバッシュを見下ろし、その両脇に抱えられた女を見やる。
「サンダーソニア、犯した、か? お前の女、か?」
「ああ、サンダーソニアは俺の妻になった」
「女になったってのは合ってるが、犯されてはいないぞ。同意の上だ。こいつは最後までオークキングの命を破ってない」
ゴルゴルはゲラゲラと笑った。
その姿に、周辺のオーガたちはギョっとして彼を見上げた。
ゴルゴルが笑う所など、そうそうみられるものではない。
彼はいつだって無口で、剣呑で、暴れん坊なのだから。
「似合いだ、バッシュ。お前ほどの男。に、エルフの大魔導。釣り合って、いる」
そしてこんな下世話な話をする男でもない。
だが、そんな話をするほど、ゴルゴルが親し気にしているのも、初めて見るのだ。
ゴルゴルは闘士だ。近々、大闘士の称号を得られるともっぱらの噂の武人だ。
そんな彼にも、尊敬する相手はいるのだと、周囲のオーガたちは思ったのだ。
「おいおい、聞いたかバッシュ、似合いだってな! 私もそうかなとは思ってたけど、改めて言われると照れるな! な!」
どことなく有頂天になるサンダーソニアに、ゴルゴルもどことなく嬉しそうだ。
しかし、ふと真顔になった。
「……お前たち、何故、我らの国、来た?」
「何故?」
「デーモンより、お前らの手配書、届いた。オーガの国、用は無い、はず……」
ゴルゴルの言葉に、バッシュは答える。
「ルドとルカに用がある」
その言葉に、ゴルゴルは頷いた。
「ルカ、迎えにきた、か」
周囲のオーガたちが首をかしげる。
「ルカ?」
「ほら、大闘士ルラルラの娘だよ。俺、近所に住んでたから知ってんだ。確かオーク英雄と婚約したって言ってた。大人になったら結婚するって……」
その言葉に、その場にいた者たちは「そういう事か」と納得する。
婚約していた女がいたが、戦争が始まってしまった。
ゆえに立ち寄れる時に迎えてしまおうというのだ。不思議なことではない。
女三人を引き連れてとなると、オーガの倫理観的には首をかしげる所だが、バッシュはオークである。オーガの考えるオーク像としては、これまた不思議なことではない。
問題はルカが結婚や子作りを考えるには、少々幼すぎることぐらいか。
「ま、そういうことっす! わかったらさっさとルカの所に案内するか、ルカをここに連れてくるっす! 大丈夫っす! 悪いようにはしないっす! 旦那は見ての通り、三人の嫁を幸せにしてるナイスガイっすから! ルカも幸せにするっす! ついでにルドも!」
「……」
サンダーソニアとキャロットは、妙に納得しているオーガたちを訝しんだが、ひとまずゼルのやり方に従うと決めた。
その通りだと言わんばかりに頷く。
「そうだな。ルカを連れてきたらこの場をすぐにでも去るぞ。な?」
「そうねぇ。早くルカちゃんを保護したいのよねぇ」
その言葉に、オーガたちは「やっぱり」と顔を見合わせる。
ゴルゴルも訳知り顔だ。
「あ、人質にしようとかするなよ! そうするんだったらこっちだって考えがあるからな!」
「俺達は、戦争は、いい。だから、残った」
その言葉に、オーガたちも目を逸らしながら頷いた。
オーガにも、戦争を望まぬ者がいるのだ。
とはいえ、デーモンが指名手配したものを無視するわけにもいかない。
デーモンが天下を取れば、そのことで咎められかねないのだから。
「誰か、ルドとルカ、連れてこい」
そんな命令に、しかし一人の若者が首を振った。
「ゴルゴル……ルドとルカ、もう国いない。デーモンに、連れていかれた」
「デーモン? 戦争に、参加した?」
「違う。ほら、戦争始まる前、一人のデーモンの女、不法侵入してきた。そいつ、ルドとルカが庇った。最後、そいつが二人を連れて、国から出ていった」
よくわからない話が出てきた。
不法侵入してきたデーモンの女……と聞いて思い浮かぶのは、不法侵入の天才ことポプラティカぐらいなものである。
しかし、彼女が呪術がゲディグズの命を脅かすと知って、先んじて手を打った……にしては、おかしい。
もしポプラティカが呪術について知っているのなら、オーガの呪術師を全滅させるような手を打つはずだ。
たった一人か二人を連れて出たりはしないだろう。
「よくわからんが、そのデーモンの女が二人を連れ去ったということか?」
サンダーソニアの問いかけに、若者が答える。
「そうだ。嫌がってる風では、なかった。何か事情があった、そう思う」
「ふむ……ちなみにルカって、呪術師としてはどれぐらいの腕前なんだ?」
「腕前? あの子は呪術師としての仕事もしてた。一人前。でも達人ではない」
「……よし。なら、連れ去られた理由はなんでもいいか! 追い付けばいいんだ、とにかくな!」
実のところ、例の呪術が現代でどのような呼ばれ方をしているのかは知らない。
だが、少なくとも一人前であるなら、使える可能性がグッと高まる。
これが達人しか使えない秘伝中の秘伝とかなったら、失伝していてもおかしくないが……。
そうだったら、もう仕方がない。
「で、そのデーモン女は、ルカをどこに連れて行ったんだ?」
「俺も詳しくは知らない……は、ドバンガ孔に行く。言ってた」
ドバンガ孔。
ドワーフの国だ。
しかも、ここからだとゲディグズ軍に向かう形になる。
「幸先がいいな! ついでにバッシュの武器も手に入れよう、ドワーフも今はゲディグズ軍に対抗すべく兵を集めてるだろうから、それに便乗させてもらうのもいい! 一矢三頭だ! 運が向いてきたな!」
サンダーソニアが喜びの声を上げるが、しかしオーガたちは顔を見合わせていた。
そして、やや言い難そうに、言ったのだ。
「ドワーフは、ゲディグズ側に寝返ったぞ」
「あの短足どもぉぉぉ!」
サンダーソニアの悲鳴が響き渡った。




