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オーク英雄物語 ~忖度列伝~  作者: 理不尽な孫の手
第一章 ヒューマンの国 要塞都市クラッセル編
1/97

プロローグ

 かつて、大きな戦争があった。

 大きな大きな、長い長い戦争だ。

 ヴァストニア大陸全土が戦場となった、いつ終わるとも知れない、泥沼の戦争だ。


 戦争の発端なんて、誰も憶えちゃいない。

 エルフの古い言い伝えによれば、最初はデーモンの王子が、とあるヒューマンの国の姫をさらったことだと言われている。

 あるいはドワーフの言い伝えでは、ヒューマンの王がデーモンの村を攻め滅ぼしたことだと言われている。

 言い伝えを統合するに、ヒューマンとデーモンが発端であったのは間違いないが、どちらが悪いなどと考える者は、とっくに生きちゃいなかった。

 一つだけ言えるのは、その戦争は5000年以上続いたということだけだ。

 ヴァストニア大陸に住む12の種族全てを巻き込んで。


 誰もが、この戦争は未来永劫、ずっと続くものだと思っていた。

 生まれた時から戦時中。

 父も母も、祖父も祖母も、そうだった。

 誰もがそうだ。誰もが、平和な時代のことなんか憶えちゃいなかった。

 500年の時を生きるというエルフですら、開戦当初のことさえ覚えちゃいない。

 誰もが皆、自分たちは争うものだと考えていた。

 自分たちの子供も、孫も、ずっと戦い続けるものだと考えていた。

 何がきっかけで起きた戦争で、何がどうすれば終わるのか、知る者はおろか、考える者すらいなかった。


 だが、そんな戦争は、ある日、あっけなく終わりを告げた。

 戦争の始まりの発端は誰も覚えていないが、終わりの発端は誰もが覚えている。

 デーモン王ゲディグズだ。

 彼が現れたことで、戦況は変わった。

 このデーモン王ゲディグズというのは傑物であった。

 歴代のデーモン王の中でも特にカリスマが高く、王として在位した100年でデーモン族を旗頭としたオーガ、フェアリー、ハーピー、サキュバス、リザードマン、オークの七種族連合を一致団結させ、種族共を組み合わせるという編成を考え出し、今までにない新しい戦闘教義を生み出したことで、ヒューマン率いる四種族同盟を圧倒し、その支配領域を大きく広げたのだ。


 四種族同盟にとって悪夢のような出来事だった。

 それまでの七種族連合は、共闘こそすれ、連携して攻めてきたことはなかった。

 巨体で移動速度の遅いオーガをハーピーが空輸したり、サキュバスの桃色濃霧(チャームミスト)が蔓延する湿地帯を、チャームの効かないリザードマンが突破し強襲してきたり……。

 それまで偶発的にしか起こり得なかった連携に、元々連携を磨いてようやく互角だった四種族同盟は抗することが出来なかったのだ。


 だが同時に、チャンスでもあった。

 デーモン王ゲディグズによってまとまった軍隊は、今までの七種族連合ではありえないほどに、一枚岩だった。

 強いがゆえ、カリスマがあるがゆえ、彼自身が弱点となったのだ。


 無論、それを四種族連合が知っていたわけではない。

 ただ、ひとまずゲディグズを倒さなければ、自分たちに待っているのは敗北だけだと容易に予想できたのだ。


 かくして、ゲディグズは討たれた。

 レミアム高地の決戦で、ヒューマンの王子ナザール、エルフの大魔道サンダーソニア、ドワーフの戦鬼ドラドラドバンガ、ビーストの勇者レトの四人が率いる決死隊がデーモン軍の奥深くへと侵入し、デーモン王ゲディグズを討ったのだ。

 多くの犠牲者が出た。

 ドワーフの戦鬼ドラドラドバンガとビーストの勇者レトはゲディグズとの決戦で命を落とし、決死隊の半数以上が死んだ。

 ゲディグズを討った後の撤退戦で、ヒューマンの王子ナザールもまた重傷を負った。


 ゲディグズ亡き後の変化は劇的だった。

 王を失った七種族連合は、またたく間に統率を失ったのだ。

 それはもう、驚くほどにバラバラになった。


 ゲディグズの代わりとなる者など、誰も用意されていなかった。

 大まかな指示すら発する者がいなくなり、七種族連合の指揮系統は壊滅的な打撃を受けた。

 七種族連合は、いつまで経っても降りてこない命令を待ち、戦場を右往左往するしかなく……四種族同盟軍に掃討された。

 各種族の王が自分で指揮を取らなければ、そのまま幾つかの種族は滅んでいただろう。

 デーモン族を旗頭としていた七種族連合は散り散りとなり、ゲディグズが王として君臨する以前と同様、各種族でそれぞれ戦い始めた。

 オーガはハーピーと、サキュバスはリザードマンと、オークはフェアリーと、それぞれ組んでいたため、互いに連携を取り合っていたが、あくまで戦術レベルのことでしかなく、各地で敗北を重ねた。


 ゲディグズ王が死んで5年。

 たった5年で、七種族連合は全ての領土を奪われた。

 100年の間に手に入れた領土を、全てだ。


 七種族連合からしてみれば、そのまま攻め滅ぼされてもおかしくない状況であった。

 それだけ四種族同盟には勢いがあった。


 だが、和睦という案が出た。

 他でもない、ヒューマンの王子ナザールが、四種族会議の場でその案を出した。

 彼らに最後のチャンスを与えよう。彼らに和睦を申し入れよう、と。


 それは、長い長い戦争の中でも、特に激戦が繰り返された100年間で疲弊しきった民の声そのものだった。

 実際の所、四種族同盟も限界だったのだ。

 100年間で、ヒューマンもエルフもドワーフもビーストも数を減らしていた。

 平均寿命は大きく減少し、子供をしっかりと育てるだけの土台すら消え失せようとしていた。


 誰もが休みたがっている。

 もう勘弁してくれよと思っている。

 もし万が一、窮鼠となった七種族連合がまた一致団結して決戦となれば、どうなるか。

 勝てるだろう。

 だが、その後はどうなるのか。

 あるいは、そのまま共倒れになってしまうのではないか。

 選択権があるうちに、平和への舵を取ろう。

 ナザールはそう主張したのだ。


 四種族同盟のお偉方は「彼らは絶対に和睦になど応じない」と固持していたが、実際に和睦を申し入れてみると、不思議なことに応じない種族はいなかった。

 言葉が通じるかすら不安とされていたオーガや、戦いとレイプこそが至上と言わんばかりのオークまでも、不利な条件を飲んで、あっさりと和睦に応じた。


 かくして戦争は終わった。

 長い長い戦争は、ようやく終わりを告げたのだ。



 それから3年。

 平和な時代にちなんで『平和歴』と名付けられた暦の3年目。

 人々は長い戦争が終わったことで、何やら狐につままれたような時を過ごしていたが、戦争によって破壊された町が復興し、商人たちによる他種族との交易が軌道に乗り始め、子供が生まれ、人口増加の気配が出始めると、誰もが次第に平和を自覚し始め、新しいことを始めるようになっていった。

 学問、芸術、商売、娯楽……それまで軽視されていたものが重要視されるようになり、各種族の常識も変化しはじめていた。


 新たな時代は幕開けを終え、次なる一幕へと進もうとしていた。

 この物語はそんな時代の、ある種族の国から始まる。


 オークの国である。

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[良い点] 魔法使いのとこで声出してワロタ 旅に出る強い動機にもなってて本当に秀逸な設定 読者としては老獪なベテラン作家にいいようにされてる感があって悔しい だがそれが良いw [気になる点] 読者の…
[一言] 戦いとレイプこそ至上のオーク… 4種族からすると和睦ホント謎すぎやろなぁ
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