表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/24

第2章 まっすぐストーリー・2nd Scene

~ 2nd Scene Start ~


 ローナ村――先ほどの老人、村長のロイズさんはそう紹介してくれた。

 アタシ達は、ロイズさんと村人達に連れられて森から20分ほどの程の距離にある農村に到着した。

 来る途中の道沿いには小川があった。農業用水として利用しているのだろう。

 そこに設置された水車小屋の水車が、勢いを取り戻した水流によって一定のリズムで回っている。  

 その先には中世ヨーロッパの荘園に似た広大な麦畑が広がっているが、茶色い地面の休耕地が目立つ。

 辛うじて麦らしき作物が植えられた畑も、本来ならば青々と茂っているはずの若葉が萎びて黄色く変色していた。

 耕地に囲まれた村はそれなりに大きく、4,50軒の木造の家々が中心にある水場を中心に円を描く様に建てられている。

 しかし、電柱や電燈という物は見当たらない。この世界には電気がないのかも知れない。

 間違っても『テレビもねぇ、ラジオもねぇ、……オラの村には電気がねぇッ!』なんて、この村限定仕様ではないと思いたい。


 広場で人々は解散し、アタシとフジサキはロイズさんの案内で彼の家に向かった。

 その途中、何人かの村人とすれ違った。皆、どこか元気が無かった。

 水源は復活したが、今まで続いた災害がそうさせているのだろう。

 農耕具を持った男性、荷車を引く男女。

 曲がり角ですれ違った若い女性と手を引かれる小さな子。親子だろうか?

 皆、村長の姿を見ると挨拶をしてくる。村長はそれに笑顔で挨拶し返し、たまに立ち止まって二言三言、何気ない会話をしていた。

 こんな状況でなければ、のどかで良い村だ。


「ねぇねぇ、お母さん。何であのお姉ちゃん変な服着てるの~?」


 良い……村だ。


「こら! 駄目でしょ、指差しちゃ!」


 ホントだよ。誰が変な服のお姉ちゃんだよ。

 お母さん、その子の将来のためにもちゃんと躾けておいてください。

 変わった人がいても、決して指差しては駄目、絶対。

 最低限のマナーでございましてよ?


 ……とは言っても、その「変な服のお姉ちゃん」があんまり悪目立ちしても、駄目だよね。

 ロイズさんが困っちゃうか……。


 アタシは仕方なく、だんまりを決め込んだ。


 それにしてもアタシとフジサキはこの村で浮くな。

 9割は服装のせいで、残り1割は髪の色のせいだ。この村には、黒髪が一人もいない。

 西洋人風の人ばかりで、東洋人が1人もいない。


 でも、仕方ないよね。

 これは、あたしが異世界から来たってことを証明する大事な物でもある。

 服を変えたり髪を染めたりする気はない。

 だって、いつ帰れるか分からないからだ。

 今この瞬間に、帰る事もあるかもしれない。念のためだ。


 そうこうしている内に、ロイズさんの自宅に到着した。

 流石は村長の家、他の家より一回り大きいし広い庭には手入れの行き届いた花壇があって、美しい花々が満開に咲き誇っている。

 なかなか良い物件ですな。お高いんでしょ?


「さぁ、お上がりください。大したおもてなしも出来ませんが」

「お、お邪魔します」

「お招きくださり、感謝いたします。ロイズ様」


 ロイズさんが玄関のドアを開けて、家の中に招いてくれた。

 アタシとフジサキはそれぞれお礼を言って、家の中に入る。

 すると、そこには白髪の柔らかな微笑みを浮かべたおばあさんが1人立っていた。


「お帰りなさい、貴方。村に水が戻ったと皆が喜んでいましたよ。あら? そちらの方々は?」


 どうやら、ロイズさんの奥さんのようだ。

 上品で優しい口調、似た者夫婦という言葉がぴったりだ。


「ただいま、テレサ。この方々が水源を復活させてくださったんだよ。こちらのお嬢さんはその時、水を被ってしまったんだ。すまないが、着替えを用意してくれるかい?」

「まあ、それは大変。早く着替えないと。さぁさぁ、こちらにいらっしゃい」


 確かに、このままじゃ風邪を引きそうだ。

 ここはお言葉に甘えて……。


「あ、すみません……」


 ぺこりと頭を下げると、アタシは、テレサさんと言うらしい奥さんの後に付いて行った。

 フジサキとロイズさんは二言三言話すと、アタシ達とは反対方向の廊下を歩いて行ってしまった。


 案内された部屋は、こじんまりとしていて、窓から降りそそぐ日差しが柔らかい……どこか少女を思わせる空間だった。


「はい、じゃあその服を脱いでね」

「え、でも……」


 制服を脱ぐ事に躊躇すると


「遠慮しないで。ちゃんとこちらで乾かしておくわ」

「あの……」

「それに風邪を引いてしまうわよ」

「それは、まあ……」

「それときちんと乾かさないと、服が傷んでしまうわ。大切な服なんでしょう?」


という怒涛の言葉攻めに遭い、結局折れて制服を脱いだ。


 制服を脱ぐと、テレサさんが布を渡してくれた。

 お日さまの匂いがする、ふかふかした布だった。アタシの世界のタオルのようなものかもしれない。


「はい、どうぞ」


 身体を拭いていると、テレサさんが折りたたんだ服を差し出してくれた。

 広げてみると、ちょっとアタシのサイズより大きい。


「娘のものなんだけれど……」

「そうなんですか。……ありがとうございます。お借りします」


 娘さんはどうされてるんですか?と聞こうと思ったけれど、やめた。

 「娘のもの」と言った時のテレサさんの微笑みが、どこか寂しげだったから。



 着替えを終えると、別の部屋に案内された。

 ノックをしてから入るとそこはロイズさんの書斎だった。

 大きな書斎机の向こう側に、ロイズさんが木製の大きな椅子に座っている。

 その前に椅子が2脚。何故かフジサキは座らずに立っている。


 「遅くなりました。すみません」


 頭を下げると、ロイズさんがほっほっほっと笑いながら「どうぞ」と椅子を勧めてくれた。

 じゃあ、と思って座ろうとすると、相変わらずフジサキは突っ立ったままだ。


「ああ、フジサキさんはあなたの許可が出ない限り勝手に座ることはできないと仰って……」


 アタシが口を開く前に、ロイズさんはそう言って困ったように笑った。


「す、すみません、すみません!」

「いえいえ……」

「ほら、フジサキ! こっちにちゃんと座って!」

「かしこまりました」


 アタシが椅子に座りながら呼ぶと、フジサキはロイズさんに一礼をしたあと、優雅な身のこなしで椅子に腰かけた。

 アタシが来て、何か言うまでずっと立ってるつもりだったのか……。

 持ち主に忠実なのはいいが、もうちょっと柔軟になろうね。ロイズさん、困った顔してたでしょうが。


「さて、フジサキさんから大体のお話は覗いました。にわかには信じがたい事ですが……と、その前にお名前を聞いてもよろしいかな?」


 そうだ、名前。自己紹介がまだだった。

 ロイズさんはフジサキの名前を知っていたから、もう自己紹介を済ませたのだろう。

 多分、アタシのことも紹介済みだろうが、こういう事は本人がちゃんとするのが礼儀だ。


「も、申し遅れました。アタ……私、宮間千尋と言います。着替えのお洋服、ありがとうございます。えぇっと……よろしくお願いします」


 いざ自己紹介をしてはみたものの、緊張してしまって何を言えばいいのか迷ってしまった。

 とりあえず、お礼を言って頭を下げた。


「大分、緊張なさっているようですな。もっと気楽になさってください。先に聞いておりましたが、あなたの世界ではファミリーネームを先に名乗るそうですね。では、チヒロさんとお呼びすれば宜しいですかな?」

「とんでもない!」

「はい?」

「チヒロでいいです。どうぞ呼び捨てにしてくださって構いませんから」


 あわあわ、と胸の前で両手を振った。

 村で一番偉い人である村長さんに敬語で話されるなんて落ち着かない。


「ほほほ、そう謙遜なさいますな。本当は命の恩人である方なのですから『チヒロ様』とお呼びしたいぐらいなのですよ」


 アタシの行動を見て、ロイズさんは愉快そうに笑った。


 『命の恩人』……水の枯渇で、このローナ村はそんなに窮地に立たされていたのか。

 蛇口を捻ればいつでも水が出てくる生活を送っていたアタシには、それがいまいち想像できなかった。


「さて、そろそろ本題に入りましょうか。チヒロさん」

「はい」


 真剣な面持ちになったロイズさんに見つめられ、アタシはぴんと背筋を延ばした。


「お二人は、別の世界からいらっしゃったそうですな」


 フジサキがどれぐらいロイズさんに説明したのかはわからないけど、こういうことはちゃんとアタシから説明しなきゃ。


「はい、学校の帰り道に事故に巻き込まれてマンホール……道に開いた穴に落ちたんです」

「ほう……」

「それで、気がついたらあの森にいました」


 アタシはロイズさんに今までの経緯を説明した。

 不足部分や補足はフジサキが所々、口を挟んでくれた。

 空から降って来た事やフジサキの正体については伏せておいた。

 フジサキについて詳しく聞かれても、アタシも説明できないからだ。


「そうでしたか……それはさぞかし、大変だったでしょう。私でお役に立てることなら出来る限りお手伝い致しましょう」


 アタシ達の話をうんうんと頷きながら聞いてくれていたロイズさんは、優しげに微笑んでそう言ってくれた。

 頼もしい人だ。これが村長の器というヤツなのだろう。


「ありがとうございます、ロイズさん。早速なんですが、アタシもフジサキもこの世界の事を何も知らないんです。詳しく教えていただけませんか?」


 さぁ、ここからがお待ちかねの『情報収集』タイムだ。





                        ~ 2nd Scene End ~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ