第2章 まっすぐストーリー・1st Scene
〜 1st Scene Start 〜
ヤバい――。
異世界に来て早々、いきなり犯罪に手を染めてしまった。
罪状は『器物破損』です。
ボスうさぎの攻撃をフジサキの身を挺した緊急回避で何とか避けることに成功した。
しかし、その行動が仇となり、本日2度目の落下を経験する事となった。
悪い事は続くものらしく、アタシ達は落ちた先、崖の下に立てられたよく分からない建造物を破壊してしまった。
アタシ達って言うか、アタシを抱えたフジサキがだけどねッ!
開き直るみたいだけど、アタシは悪くない。
フジサキ曰く、壊れた建造物は『儀式を行うための祭壇と像』らしい。
つまり、祠とか神社、お寺を許可無くいきなり取り壊したのと同じことだ。
ここが日本だったらとんでもない罰当たり行為だ。
手とか足が曲がっちゃったり、末代まで祟られちゃうね。
フジサキに地面に降ろしてもらって、それから何故か無実のアタシに『自首しろ』とかほざいて来るフジサキと言い争っていると、靄が段々晴れてきた。
そして気が付いてしまった。
人がいたのだ。しかも一人や二人ではない、たくさんいた。
ざっと数えて、20人ってとこかな。
ヤバい、どうしようと思っていると、白髪で髭を生やしたお爺さんが突然、カッと目を見開いた。
「言い伝えは本当だったのだッ!! 『終末の巫女』様が我々を救ってくださったッ!」
「はぁ?」
全く予想もしていなかった言葉。
てか、バリバリの日本語じゃん。片言じゃない、滑らかな日本語発音だ。
それと同時に、やっぱりここは異世界なんだなぁ……と痛感することになった。
それより、何ですか? その『終末の巫女』って……まさか、アタシの事じゃないだろうな。
巫女だから当然、女だよね? この場にいる女ってアタシだけだし……。
やめてよ、そういう中二病みたいなこといい歳して恥ずかし気もなく叫ぶの。
老人の言葉に、他の人々も手を上げたり、近くにいた者同士で抱き合ったり、歓声を上げ始めた。駄目だ、完全に波に乗り遅れた。
すると、興奮した様子の老人がアタシ達に歩み寄ってきた。
「巫女様、我々は貴方様がお越しになるのをずっと心待ちにしておりました。是非、我らの村にお越しください。村を上げて歓迎いたします」
と、優しげな笑みを浮かべる。
他の外野達も『巫女様は本当にいらっしゃったんだ』とか『これで村も安泰だ』とか『おい、巫女様のお使いまでいらっしゃるぞ』とか口々に話している。
お使いって、フジサキのことかい? 残念ですが、コイツはただの擬人化携帯端末機です。
どうやら、この人達は何か勘違いしているらしい。
アタシは巫女なんかではない、ただ元の世界に帰りたい女子高生だ。
村に連れて行ってもらえるのは嬉しいが、『終末の巫女』とやらではない事を理解してもらわなければ……。
「あ、あの皆さん、落ち着いてください。何か、勘違いをされているみたいですがアタシは皆さんの言う『終末の巫女』ではないです。ただの女子高校生なんです」
ここにいる全員に聞こえる様に、大きな声で言ってみた。
老人を含め、皆『?』が頭の上に浮かんでいる、そんな表情になった。
「皆さんが大切にしている建物を壊してしまった事は謝ります。ごめんなさい。ほら、フジサキも謝って。ただ、アタシ達は元の世界に帰る方法を探しているだけなんです」
肘でフジサキを小突くと、「申し訳ございません」と深々と頭を下げた。
よし、良く出来ました。
すると、人々がざわつき始めた。「『じょしこうこうせい』とは何だ? 巫女様ではないのか?」やら「元の世界?」と囁く声がちらほら聞こえてくる。
失敗したか。
正直に正体を明かすより「そうです。アタシが『終末の巫女』です」とでも言った方が情報を聞き出しやすかったかも知れない。選択を誤ったか……。
でも、ここで嘘をついても後々、嘘は絶対にバレる。バレた時が怖い。
何をされるか分かったもんじゃない。
アタシの言葉に俯き、黙ってしまった老人。
ごめんね、お爺ちゃん。めっちゃ喜んでたのに……ぬか喜びにして。
沈黙が痛くなってきた頃、老人はふと穏やかな口調で再び口を開いた。
「巫女様ではない……それでも貴方様は村を危機から救ってくださった恩人。むげには出来ませぬ。何か事情があるご様子ですし、服も濡れてしまっています。乾かした方が良いでしょう。そのためにも我らの村にお越しください。お話はそれからでも宜しいでしょう?」
その言葉にアタシは老人を見つめた。目じりに皺を寄せて微笑んでいる。
とても優しい目だ。
良かった。この異世界で初めて出会った人がこのお爺さんで。
胸の奥がほんのり温かくなった、そんな気がした。
「はい、ありがとうござ……へッ、へっくしょい!」
いい雰囲気の中で、心から言おうとしたお礼がくしゃみで台無しになった。
アタシの馬鹿野郎……。
~ 1st Scene End ~




