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第2章 まっすぐストーリー・7th Scene (1)

~ 7th Scene Start ~


 6日目……の夕方。

 順調にアルバイトを全てこなし、アタシとフジサキは片づけをしていた。

 ふと、ピスタさんの荷馬車が停まっている方を見ると、彼らも店じまいを始めていた。

 品物の整理をピスタさんが行い、天幕や重い荷物の運搬はソールさんが担っていた。

 何となく、親近感が湧く。

 

 そうだ、今日はピスタさん達が来てから3日目。

 明日には居なくなっちゃうんだな。

 ……話しかけてみようかな。


 そう思いながら眺めていると、向こうもこっちの視線に気がついたのか人懐っこい笑顔でお辞儀をしてくれた。

 なので、片付けも大体終わったことだしレッツ、コミュニケーションタイムだ。

 この世界に来た最初の頃にフジサキに助言された『情報収集』も忘れず行っている。

 荷物を持ってフジサキと共に荷馬車の方に歩み寄った。


「こんばんは。お疲れ様です、ピスタさん。今日の売り上げはどうでした?」

「これは御丁寧にどうも、チヒロさんとフジサキさん。大繁盛とまでは行きませんが、上々でしたよ」


 どっこいしょと、重そうな木箱を持ち上げるピスタさんに『お手伝いします』と声をかけて、木箱の反対側を持つと照れた様な笑顔でお礼を言われた。

 店の片づけが終わると、ピスタさんは荷馬車の前に小さな椅子を置いてくれた。


「夕食までにはまだお時間がおありでしょう? どうです、ここは一つ世間話でも?」

と、椅子を勧めてくれた。

 だけど、ソールさんはずっと立ったままだ。


「あの、ソールさんは座らないんですか?」


 アタシが恐る恐る腕組みをして立っているソールさんに尋ねると、彼は耳をピクンと動かした。

 アタシと目線は合わせず、ややあってから口を開いた。


「俺の仕事はまだ終わっていない。心配は無用だ」

「ソールは仕事が終わるまで休む事をよしとしません。お気に触ったのでしたら、私から謝らせていただきます。申し訳ありません。彼は、昔から不器用な男でして」


 そう言いながらピスタさんはぺこりと頭を下げた。

 ピスタさんが椅子を勧めてくれたので、お言葉に甘えてアタシとフジサキは椅子に腰掛けた。

 ピスタさんは荷馬車の荷台から何やら売り物らしき林檎のような果物を2つ持って来ると、アタシ達に差し出した。

 日本人の本能で遠慮すると『売れ残りですので、どうぞ遠慮なさらずに。お近づきの印ですので~』と笑っていた。なので、お礼を言って有難く受け取ることにする。

 甘酸っぱいいい香りのする果実だ。帰ったら、ロイズさんやテレサさんと一緒に食べるとしよう。


「ピスタさんはいろんな所を回って商売をなさっているんですか?」

「ええ。世界各地にお得意様がいますよ。まだ、行った事がないのはこの大陸ならヴァルベイン帝国だけです。他の大陸ならばドラグーン・パレスと未踏の大地ゼオス・ゼロスですね。それら以外は全て網羅いたしております」

「へぇ~、すごい。……ゼオス・ゼロスって……前人未到の地、でしたっけ」

「そうですね。他の4つの大陸は海路が整備されていますが、この大陸には誰も……。巨大な嵐が絶え間なく発生していて船が近づけないんだそうです」

「へぇ……」

「ヴァルベイン帝国がずっと上陸を試みているようですがね。……難しいでしょうねぇ……」


 そして話は、彼らもまだ行った事のないヴァルベイン帝国の話題になった。


「遠目からなら、何度か見たことがあります。ヴァルベイン帝国は雲より高くそびえ立つドーム状の城壁によって囲まれた完全防壁の国家です。ネズミ1匹入る事は不可能だと言われていて、もし無理にでも入国しようとするものならば城壁に備え付けられた『防衛装置』なるもので徹底攻撃されるのだとか。また、技術の不正流出を防ぐため国が認めた特別な人材以外、入国を禁じているのです。許可を得た者も内部での事を口外するのは固く禁じられているそうです」

「じゃぁ、許可さえ貰えればピスタさんも入国できるんですね?」

「それが無理なのです。帝国が許可を出すのは限られた大業を成し遂げた()()のみです」


 ヴァルベイン帝国は江戸時代の日本みたいに鎖国状態の国家である上に『()()以外お断り』という、何とも差別的な視野の狭い了見を持っているようだ。

 本当にいけ好かない国だな。

 ロイズさんは「ヴァルベイン帝国には門外不出の高度な技術や魔術がある」って言っていた。

 でも、それを他国にも教えてあげようという気は、さらさらないんだね。

 そんな国に技術を独占されていて、他の国は何とも思わないのだろうか?


「ヴァルベイン帝国に戦争を仕掛ける事はその国家どころか大陸の消滅を意味します。技術も戦力も桁違いですからね。ですから、どの国も帝国には何も意見できないのです」

「なるほどねぇ……嫌な感じ」


 やな感じではあるけど、だからこそ、アタシを元の世界に帰してくれそうな魔術師もいるに違いない。

 そう考えてたんだっけ……。何か、絶対に無理そうだけど……。


「ピスタ様、ヴァルベイン帝国に入国を許可されるに値する大業とはどのようなことなのでしょうか?」


 アタシがげんなりした顔をする一方、フジサキは入国許可について聞いた。

 ピスタさんは腕を組んでうーんと唸った。

 各地を旅するピスタさんでも帝国に出入りする人にはなかなか出会えない。

 出会えたとしても内情を口外することが許されていないため、どうすれば入国できるのかなどの情報が少ないのだ。


「風の噂で聞いたところによれば、大国の国王は年に1度開かれる大陸会議なる催し物で入国できるそうです。それ以外となりますと……魔術に相当長けた人物か、ドラゴンと契約を結べた方でしょうかね。それ以外には思い当たりません」

「え? ドラゴンと契約するってそんなに凄い事なんですか? てか、ドラゴンって魔物じゃないんですか?」


 アタシは驚いた。

 アタシの中のドラゴンと言えば、知能が低くて何にでもとりあえず攻撃する凶暴な生き物のイメージがある。

 ダンジョンの奥で勇者の行く手を阻んだり、何とかハンターとお供のネコに狩られて素材を剥ぎ取られたり、一番良いイメージで召喚師や竜騎士と一緒に戦う召喚獣ってところだ。

 ピスタさんにアタシのドラゴン観を説明すると、彼は真っ青になって首を横に振った。


「何を言うんですか、チヒロさん。良いですか? ドラゴンとは『ゼオス・ゼロス』から4つの大陸が創世したのと同次期に誕生した最古の種族です。魔物などと一緒にしては駄目です。この世界で最も偉大で聡明な種族なのです。ワイバーンなどと一緒にしたら……考えるだけでも恐ろしい」


 ピスタさんに言わせれば、アタシが言うドラゴンはこの世界ではワイバーンと呼ばれていて、そっちはどの大陸にも生息している正真正銘の魔物らしい。

 ちなみにドラゴンはこのワイバーンと同等に見られる事を忌み嫌っていて、そんな事をドラゴンの前で口にしようものなら激怒されること間違いなしだそうだ。

 ドラゴン達はドラグーン・パレスにのみ住んでいて、そこから他に出て行く事はまずない。

 ドラゴン達は自分達の持つ強力な魔力も存在自体が放つ影響力も熟知しているらしく、他の種族との争いを避けるために隠居している平和主義者な種族らしい。


「ただし、これらはあくまで言い伝えです」


 そう言うと、ピスタさんはガックリと肩を落とした。

「ドラグーン・パレスの守護者、巨大な亜竜『リヴァイアサン』は、部外者の立ち入りを許しません。ですから、実際にはどのような大陸なのか、何も分かっていないのですよ」

「そうなんですか……」


 ……あれ? でも、ドラグーン・パレスへの海路はあるって話だったような……。

 上陸できないのに、海路があるの?


「ああ、それはですね」


 アタシが聞くと、ピスタさんはなぜか得意気な顔をした。


「ドラグーン・パレスは外観がとても美しく、本島を中心に大小様々な島が諸島のように連なっているんですね。その島々は上陸可能です。ただし、ワイバーンや亜竜、魔物が生息しているので、危険ではありますが」

「じゃあそこも、メッカ・バスカーナのようにお宝探しで行くんですか?」

「違います、違います。貴族や金持ち相手のクルーズツアーがあるんですよ」

「へ……」

「お客様はツアーガイドや護衛として、専門の冒険者を雇います。かく言う私も、その冒険者などに商品が売れるので、お世話にはなっていますね」


 まさかの観光業とは……。

 ちょっと意外だ。


「ドラグーン・パレスは6つの地域に分かれているのだとか。大陸の外周には5つの地域があり、それぞれ木龍王・火龍王・水龍王・土龍王・金龍王が各部族を支配しています。そして大陸中央には全ての龍の王、神龍王が居られ、中央大陸を統治なされているのですッ! 一度で良いから神龍王様にお会いするのが、私の夢でもあるのですッ!!」


 そのために小人族の村を飛び出したようなものです、と興奮したピスタさんがピョンと立ち上がって力説してくれた。

 立ったままそれを聞いていたソールさんも黙ってそれに頷いている。

 2人の意気込みにアタシとフジサキは圧倒されてしまって、お互いにポカンとした顔で固まっていた。


 ドラゴンって凄いんだな。

 この世界では皆の憧れのヒーローとかハリウッドスター的存在なのだろう。

 別世界の住人であるアタシにはいまいちパッとしないけど……。


 そうだ、そもそもは「ヴァルベイン帝国に入るには」っていう話だったっけ。

 ピスタさんは、ドラゴンと契約がどうとか言ってたような……。

 

「ドラゴンと契約ってどうやってするんですか?」

「それは……分かりません。何せドラゴンと契約した人間は、過去1人しかいないそうでして。ざっと3000年以上前の話なので、何処の誰がどうやって契約したのかは詳しい文献が残っていないのです」


 現実に引き戻されたピスタさんは残念そうな口調でそう言った。

 過去1人しか契約できた者がいないとか、もうこの先契約できる人なんていないんじゃないだろうか?

 ……ということは、3000年以上前から帝国もあったということか……いろんな意味で破格の国だ。


 ヴァルベイン帝国とドラグーン・パレスは、どう考えてもアタシ達には縁がなさそうな……。

 いや、待てよ? 


 それだけ長い歴史を持った国と大陸なら、元の世界に戻る方法を知っている人かドラゴンがいるかもしれない。

 今後の目的地に追加しておこう。

 さて、どうやって入国するか……それは追々考えれば良いか。


「アタシもちょっと行ってみたいかもです。ヴァルベイン帝国とドラグーン・パレス……」

「おぉ! チヒロさんも興味がおありですか? 賛同者が増えて嬉しい限りです。お互い、いつか行けるように頑張りましょう!」


 アタシの手を取って、嬉しそうにピョンピョン跳ねるピスタさんは、妙に可愛いかった。

 ……60歳のおっさんだけど。

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