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第2章 まっすぐストーリー・6th Scene (1)

~ 6th Scene Start ~


 4日目の朝。

 今日からいよいよ、アタシのアルバイト生活が始まるのだ。

 さて、これからの予定を皆さんにも教えてあげよう!

 ……そんなもん要らん、いいから話を進めろって?

 うるさい、黙って聞けっての。


 朝起きると、まずはテレサさんを手伝って朝食を作る。

 朝食後、任せてもらった家の掃除をする。

 午前10時になると、村全体に10時を知らせる鐘の音が鳴り響くから、それまでに済ませないとね。


 テレサさんに『行ってきます』と挨拶をして家を出る。

 自分で作った大まかな村の地図を持ってチェックの付いた家を訪問する。

 ドアをノックして挨拶をすると、その家の子供たちとご対面。お母さんに挨拶して、一緒に歩き出す。

 最年少で乳離れをしてヨチヨチ歩きが出来る2歳、最年長で9歳の子供達が全部で12人ほど集まる。

 2歳の子をおんぶして、アタシは子供達とワイワイ話しながら広場に向かう。

 行きかう村人達に挨拶をしながら広場に到着。

 アタシは子供達に元の世界の童話を聞かせたり、一緒に遊んだり、喧嘩やどこかに行ってしまわないように監視する。


 そこに1時間ほど遅れて、フジサキがやって来ることになっている。

 朝一の事務仕事を手伝ってからアタシに合流するのだ。


 こっちの世界の言葉を完璧にマスターしたフジサキには、ロイズさんの秘書を務めてもらうことにした。

 それが書類整理などの事務仕事を兼ねた秘書というわけだ。

 昨日、試しにやってみてもらったところ、フジサキの事務は、丁寧かつ迅速で漏れが全くないとロイズさんに大好評だった。

 ちなみにこの仕事は、お世話になってる事へのせめてものお礼なのでボランティア活動だ。


 お昼までは、多分、フジサキと女の子達による『お姫様ごっご』、アタシと男の子達による『騎士ごっこ』になるんじゃないかな。昨日の感じだと。


 そしてお昼近くになると、アタシは次の仕事に取り掛かる。

 昼食時間に合わせて子供達を家に送り届ける。

 一旦、村長宅に戻って荷車を引いて再び広場に向かう。

 広場に向かう途中、家々から出来立ての昼ご飯を預かる。

 どこの家の物なのかすぐに分かるように目印をつけてもらった弁当を荷車いっぱいに乗せて、向かうは麦畑だ。


 畑は一番遠い所でも徒歩10分ほどだ。

 畑で作業をする人々に、弁当を届ける。

 今までは朝、畑に出かける時に弁当を持っていっていたけど、それではお昼になるまでにせっかくのお弁当も冷めてしまったり、水っぽくなってしまうからね。美味しいものを食べないと、午後の作業も捗らない。

 そこで、アタシの考えた『巫女様デリバリー』……。

 これは昨日、家々を説明しながら回った時もすごく反応が良くて、すでに20軒ぐらいの依頼があった。これからの一番の収入源になるんじゃないかな。


 ちなみに、子守りは一家庭、ヒュムニア銅貨1枚。

 弁当の配達サービスは、銅貨2枚である。


 ヒュムニア銅貨とは、この大陸に流通している硬貨の一つで製造元であるヴァルベイン帝国が流通させている。

 楕円型の硬貨で、ヴァルベイン帝国のシンボルである横倒しになった砂時計と機械の様なシンメトリーの翼が表に、裏にはイオ・ヒュムニアの全体図が刻印されている。

 硬貨は金貨、銀貨、銅貨の3種類がある。


 日本円に換算するなら、銅貨が10円、銀貨が1万円、金貨は10万円位の相場だろうとフジサキが言っていた。

 今日の稼ぎは、合計銅貨52枚になるはず。520円といった所だね。

 ……そう思うと、日本の平均最低賃金が798円なんだよなぁと嫌でも比較してしまう。

 うそ、アタシの日給……低すぎ?


   ◆ ◆ ◆


 「マスター、広場へ行きましょう」


 え~? ちょっと、何よ。

 アタシは今、これからの尊いアルバイト生活について読者の皆さんに気持ち良く語ってたトコなんだけど?


「『ピスタのキャラバンマーケット』が来ているのよ。お掃除はいいから、行ってらっしゃい」


 テレサさんがにっこり微笑んでフジサキの後ろから現れた。


「ピスタの……キャラバン?」

「ええ。きっと珍しいものがいっぱいあるわよ」


 テレサさんに見送られ、アタシはフジサキと共に広場に向かった。

 どうやら『ピスタのキャラバンマーケット』というのは、3ヶ月に1回のペースで村にやって来る行商人のお店の名前で、ここでは手に入らない商品を販売してくれるのだそうだ。

 移動式ディスカウントショップと言ったところか。


 行ってみて、驚いた。ここがファンタジー世界なのだと改めて再確認させられた。


「さあさあ、お立会い! 本日も色々揃っておりますよ!」


 水汲み場の側に大きな荷馬車が止まっていて、木箱の上に乗った行商人らしき人物が人寄せをしていた。

 村人達は香辛料や果物、多種の干し肉を購入したり、珍しいガラス製品や銀食器、宝石の付いたアクセサリーを見ている。

 そんな買い物にひしめき合う人々を掻き分けて前に出ると、その客引きをしていた店主と思われる人物と目が合った。


「え? 子供?」

「おや? お客さん、初めて見るお方ですね? うちは何でも揃ってますよ。ご注文を頂ければ、ご依頼料を頂く事になりますが3ヵ月後、確実に仕入れて参ります。我が《小人族ピスタのキャラバンマーケット》をどうぞご贔屓(ひいき)に」


 どう見たって小学校1年生くらいにしか見えない、目立つ赤髪に白いシャツ、サスペンダー付きの黒い半ズボンを履いた男の子が、笑顔でお辞儀をしてからそう説明してくれた。


 小人族――。

 そうだ、ロイズさんの話にあったっけ。

 ディス・ノグディスには人族以外の種族、全部ひっくるめて魔族と通称する種族達がそれぞれの文化を持って暮らしてるって……。

 ここに来る道すがら、小人族は、そのディス・ノグディスの精霊樹林に棲んでいる種族だってフジサキから聞いた。


「そうです、そうです。よくご存じですな、お嬢さん」


 ピスタさんがちょっと嬉しそうに頷いた。

 フジサキが「小人族は成人しても人族の子供位にしかならないそうですが、寿命は人族の3倍あるそうですよ」と補足説明してくれた。


 ナイスだ、フジサキ。

 きっとピスタさんも、見かけは子供でも立派な大人なんだろう。

 知らなかったら失礼ぶっこいちゃったに違いない。


 ふと荷馬車の脇を見ると、これまた初めて見る種族の男性がいた。

 天然のケモノ耳と、尻尾……。


「マスター、あの方は……獣族、アマローク族の方のようですね」

「へえ……」

「じろじろ見ては失礼ですよ」


 フジサキにそう注意されたけど、アタシは目を逸らすことができなかった。

 だって、ここにオタクがいたら涎を垂らして飛びつく存在だ。『2次元が3次元になった奇跡』と言っても過言ではない。


 長身のその男は灰色の髪にピンとたった犬耳、鋭い灰色の目、鍛えられた褐色の肌、ローマ時代のグラディエーターの様な皮製の軽装備を身にまとい、剥き出しの腹部は腹筋が綺麗に6つに割れている。

 カレーのルーみたいだ。後ろから押したら飛び出すんじゃないだろうか? 

 更にピッチリパッツンパッツンの革製のズボンからはフサフサの尻尾が出ている。

 腰には使い込まれていそうな分厚くて刃先が反った剣を携えていて、腕を組みながら絶えず辺りを警戒するように見回している。


「ほほう、お客様。ソールが珍しいようですね? 残念ですが、彼は当店の大切な用心棒でございます。非売品でございますので、販売はしておりません」


 穴が開くほどソールという名前の彼を見つめていると、肩から下げた鞄から分厚い台帳を取り出し、村人からの注文を書き取っていたピスタさんが笑いながら話しかけてきた。

 商人ジョークなんだろうけど、結構笑えないタイプのヤツだ。


「あ、すみません。人族以外の種族の方を初めて見たので」

「なるほど、そうでございましたか。そちらの御仁が仰っていた通り、彼はアマローク族出身で頼りになる旅のパートナーでございます」


 アマローク族――。そう言えば、広場に着くまでにフジサキが話していたっけ。


「狼の様な耳と尾を持っており、聴覚と嗅覚、また俊敏性に長けた種族であり、集団で狩りを行う生活をする狩猟民族です。獣族は、人族よりも遥かに優れた肉体と鋼のような忍耐力を兼ね備えているため、過去のイオ・ヒュムニアの戦争では傭兵にするために、たくさんの獣族が奴隷として連れてこられたそうです」


 元の世界で言うなら、アフリカの黒人奴隷のような扱いだ。

 現在は獣族の奴隷輸入は厳重に取り締まられている。

 おそらくソールさんは戦争で連れて来られた奴隷の末裔なのだろう。そんな歴史があるため、獣族は人族を極端に嫌っている。


 ……そうか、フジサキはテレサさんに小人族と獣族の行商人だと聞いていたから、アタシに長々と説明してくれていたのか。

 情報の提示はアタシが頼まない限りしないのに、妙によく喋るな、と思ってた。



 そのとき、一人の小さな女の子がソールさんに走り寄って行った。

 あれは、昨日もちょっと遊んだ……確か3歳になったばかりのルーシーだ。

 え? 危ないんじゃね? 人に似ているとは言え、相手は狼だ。

 男は狼だから、気をつけなさいと昭和のアイドルデュオも歌っていた。


 いやいや、とりあえず成り行きを見守ろう……。

 そう思ってハラハラしながら見つめていると、ルーシーは手に持っていた小さな花をソールさんに差し出していた。

 ソールさんはそれを一瞥すると、膝をついて受け取った。

 ルーシーが嬉しそうに笑っている。

 ソールさんは終始無言だったが、その尾は千切れんばかりに振られている。

 どうやら彼は子供好きらしい。

 ふぅ……寿命が縮むかと思った。

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