スモールアント編(2)
妹達の初仕事は波乱の幕開けだった。
罠虫の罠に引っかかったり、迷子になったり迷子になったり迷子になったり迷子になったり迷子になったり迷子になったりとまあ、とにかく迷子の多い事多い事。
1人見つけたと思ったら1人か2人いなくなってることも良くあった。
というか、落ち着きなさすぎでしょう。
これからこの子達を教育するのかと思うと、ちょっとばかし気が重いですね。
私自身まだ2年目ですから。
◇
いち、に、いち、に、いち、に……ほらそこ、列乱れてる。
アンはそのままみんなを引っ張って。
あぁ、また……さゆはもう少しスピード落として。
コリンにぶつかりそうになってますよ。
あ、今やっているのは隊列を組んでの移動の練習です。
迷子が多いからまずは協調性と自制心を鍛えようと思ってやらせています。
私の時はここまで酷くはなかったのでしてはいなかったのですけど。
他の同期のみんなはどうしてるのでしょうか?
今度聞いてみましょう。
訓練を一通り終えたところでお姉様から朗報です。
なんと、今日は蟻蜜が配布される日なのだそうです。
一年に一度の蟻蜜です。
私達の種族は蟻蜜集め専門の個体がいるのですが、全体から見ると少数なのです。
なので蟻蜜が配られるのは一年に一度になるのです。
蜜玉を受け取った私は自分の部屋に持ち帰ります。
家にある部屋にも限りがありますが、私は新米なれど複数人を従える中隊長的立ち位置です。
つまりはそこそこに偉いのです。
なのでこうして個室がもらえるのです。
同室の子を追い出したわけではないのですよ?
同室だった子は産まれたばかりの弟達のお世話をするように言われてそっちの方に引っ越したらしいので、追い出したわけじゃないです。
別にここから通ってもいいのですけど、引っ越しました。
多分仕事熱心なのでしょう。
あ、そういえばまだ自己紹介をしていませんでした。
私の名前はリディアンです。
お母様にお願いしたところ自分で名前をつけていいと言われたのでこの名前にしました。
それと妹達の名前も私がつけました。
みんな喜んでくれているようで何よりです。
話を戻して、蜜玉を部屋の一番奥に置き、倒れないように周りを土で補強します。
折角の蟻蜜ですからね。
溢したら勿体無い。
これでオッケー。
では早速……
「よぉ、リディアン。ちょっといいかな?」
ちっ!
良いところで邪魔が入りました。
しかも、来たのは私達の家の中でもごく少数のみ存在するオスの内の1人、グダモル。
種族柄、オスが産まれにくい事もあってこいつらは皆甘やかされて育ちます。
その役目も、いずれ旅立たれる姫様達の伴侶となる事なのでなおのこと甘やかされ、自己中でわがままに育ってしまう事も多くあります。
このグダモルもその例に漏れず、わがままに育っています。
ちなみに同い年です。
「何の用ですか?」
「いやな、今日って、ほら、蟻蜜配布の日だろ? だから一緒に食わねぇかなって。」
「そんな事言って、私の蟻蜜を奪う気なんでしょう。」
私は普通より二つ程多く受け取っていますが、これは何かの拍子で蜜玉を割ったり、蟻蜜をこぼしたりする子が何人か出るのでその時に分けてあげる為のものです。
これを任されるのもお母様につまみ食いはしないと信頼されているからこそ。
それをグダモルなんかにあげるわけないでしょう!
大体、あなた達は毎年蜜玉を十個も貰ってるでしょ!
それなのに私達から奪おうなんて……恥を知りなさい!
「そ、そんな事ねぇよ。俺はただお前と……」
「出てって。早く私の部屋から出て行って! それに、こんな所を彷徨くなんて、お姉様にどれだけ迷惑をかける気なの? ほら、早くあっち行ってよ!」
「ちょっ、まっ……」
何やら言おうとしているグダモルですが、私は自分の部屋から追い出すことに成功しました。
ふふん!
普段から仕事で鍛えてる私に、甘やかされたグダモルが勝てるわけないんです。
しかし、なんでグダモルは私にばかりちょっかいをかけてくるのでしょうか?
あ、もしかして……お姉様相手だと普段から甘やかされてるので気後れするのかも。
それに妹達はグダモルにとっても妹なのでちょっかいをかけにくいのかも。
なるほど。
そう考えれば納得がいきます。
まあ、納得できるからといって容認できるわけではないのですけど。
と、グダモルの事なんて考えても仕方ありません。
それよりも、今は蟻蜜を堪能しましょう!
では、いただきます!
ん〜♪ 美味しい〜♪
〜????視点〜
「また、グダモル様が追い出されたって。」
「グダモル様も、叶わぬ恋を追いかけるのもいいけど、まず女心を勉強してほしいものだわ。彼等は将来姫様達の伴侶になるのだから。」
「まあ、気持ちは分からなくもないんだけどね。あの子の甲殻の艶といい、脚のしなやかさ、あの触角……特にあの触角は酷いわよね〜。あんなに完璧なの、同性でもヤバイもの。」
「そうよね。でも、残念なのは私達と同じ普通の子だということよね。」
「でも、あの子ならもしかしてアレになれるかもよ?」
「アレってアレ? お母様がお祖母様に聞いたという……。」
「そうそれ。」
「でも、アレはひいお祖母様も話を聞いただけだって話じゃない。」
「そうだけど、もしかしたらって思っただけよ。」
「気持ちはわかるけどね。あの子、とっても優秀だもの。」
「ちょっと! 無駄話もいいけど、ちゃんと仕事もやってよね!」
「あ、いっけない!」
「グダモル様も慰めないといけないしね。」
…………………………何これ?
スモールアントってこんな魔物だっけ?
実際にはスモールアントは喋っていません。発声器官が無いので。
あれは謎の観測者クエスチョンが分かりやすいように変換しているだけです。