三項
3
食事をすると言った手前、将人と深雪も海老沼が頼んだパエリアを注文した。
先に注文していた海老沼の分が到着すると、彼はさっさと食べはじめる。
「やっぱりここで食べるパエリアはたまらないなぁ~」
彼は魚介類を器用にさばきながらぱくぱくと食べている。大皿のパエリアがみるみる胃袋に収められていく。
「ところで……」
食べる手を止めずに海老沼が尋ねてきた。
「将人と深雪ちゃんは付き合ってるわけ?」
将人は声が詰まってしまった。深雪の顔を見てあははと苦笑いするほかない。
「将人さんはいいお友達です」
深雪はそう言い切った。
「と、友達……ですか」
将人は少ししょげる。お世辞であっても付き合っていると言ってほしかった。友達の関係では海老沼はますますアタックするだろう。深雪との関係も今までとは何も変わっていないことを思い知らされたようだ。
「じゃあ、俺と付き合ってよ」
海老沼がそう言うのも無理はない。
「え、でもー」
「だって、付き合ってる彼氏しないんでしょ? なら俺でいいじゃん」
海老沼のアピールは消去法で攻めてくるほど冴えまくっているようだ。
「あのー、付き合ってる人います!」
深雪が立ち上がって両の握りこぶしを胸の前に引き寄せた。虚しい告白のように映る。
「誰? もしかしてあのバンドのボーカル?」
将人の心は騒いだ。深雪はまだ宏一のことが気になっているのだろうか。
「宏一!? 違います! あんなやつ、こっちから願い下げです」
声を荒げて深雪が否定する。その心境は図星だからなのだろうか。それとも本気で宏一は嫌なのだろうか。その心中は深雪にしかわからない。
「じゃあ誰さ。付き合ってるの」
海老沼の切り返しは絶妙のタイミングだった。
「えーっと……そのー……」
深雪がどぎまぎしている。このままでは海老沼のペースだと見た将人は、彼女へ助け舟を出すことにした。
「私だ、海老沼」
「将人が? さっき深雪ちゃんは友達って言ってただろう」
海老沼は胡散臭い目で将人を見ている。今日の海老沼は鋭い。伊達に経理班長をしているわけではなさそうだ。
「そう! 将人さんとお付き合いしているんです」
深雪が必死になって話を合わせてくる。深雪も海老沼の追撃をかわすには将人に乗ったほうがよいと判断したのだろう。
「本当かなー。話を合わせてないか?」
将人と深雪は示し合わせたかのようにぶんぶん頭を横に振った。
「まぁ、こいつに飽きたらいつでも声をかけてちょうだいね」
海老沼はそれ以上追及しなかった。追及されても困るのだが。
パエリアを驚異的なスピードで食べ終わると、海老沼はナプキンで口を拭った。
「さてと。飯も食ったし、深雪ちゃんには振られたし、憂さ晴らしに泳いでくるわ」
足早にその場を後にする海老沼を見送ると、将人は深雪に目を転じた。
「将人さん、ありがとうございます」
深雪はおじぎをしてきた。
「あ、いや、当然のことをしたまでですよ」
「一緒にいたのが将人さんじゃなかったら、もっと困ってたところでしたよ」
注文していたパエリアを二つウェイターが持ってきた。
二人は示し合わせたように笑いながらパエリアを手にした。




