一項
1
将人は深雪の両親が経営するホテルのプールに来ている。真夏の太陽が容赦なく照りつけていた。
ホテルのプールとはいえ水が流れていて、来る人を飽きさせない造りになっている。
プールサイドにはパラソルの花が咲き乱れていた。将人は黒い水着の上に灰色のパーカーを着て、パラソルの陰で読書する。今年二二歳の彼は、体型を維持するためにも日々鍛錬を欠かさない。水泳もトレーニングメニューに組まれているため、泳ぎには多少なりと自信がある。だが、深雪の貴重品を見張っていようとプールには入らないことにした。
「将人さ~ん」
プールからあがってきた青いスイムキャップに黒の長髪を押し込んだ少女が水を滴らせて駆け寄ってきた。
「一緒に泳ぎましょうよ!」
一七歳のまぶしい笑顔と健康的な黄色のビキニ姿に将人は思わず見惚れてしまった。
そんな将人の表情に気づいたのか、少女はバスタオルで濡れた髪と身体を手早く拭いてブルゾンを羽織る。
「前に来たときは散々でしたから、今日は思い切り楽しみましょうね」
彼の向かいの席に座ると、少女はレンズの大きなサングラスをかけた。注文を取りに回っているウェイターを見つけると、さっそくトロピカルジュースを頼んでいる。
「深雪さん。そのサングラスをかけているとパンダのように焼けちゃいますよ」
さりげなく忠告した。日焼け止めを塗らずにサングラスをかければ、目の周りだけが日焼けしない「パンダ焼け」になってしまう。
「それもそうですよね。ライブのときに顔がパンダじゃ様になりませんものね。今日は思いっきり楽しもうっと」
深雪は少し名残惜しそうにサングラスを外した。
前回来たとき、将人はまだ深雪がロックバンド「ホワイトナイト」の一員であることを知らなかった。そのときはまだ、デートというよりお見合いの延長だったろうか。かなりぎこちなかったのを今でも覚えている。
「でもかけてないと私のこと皆にわかっちゃわないですかね?」
「サングラスしているほうがかえって目立ちますよ」
将人は苦笑いした。深雪がしていたサングラスはレンズが大きく、往年の名女優がかけていそうな代物だ。そんな派手なサングラスをしているほうがよっぽど人目を惹くだろう。
「ツアーはたいへんでしたか?」
「たいへんはたいへんですけど、それより面白いって感じですね」
彼女は所属するロックバンド「ホワイトナイト」のことになると息を弾ませて話す。素人の将人から見ても好きでバンド活動をしているんだなと思わせた。
「ライブのときの深雪さんは輝いてますよ」
彼の偽らざる感想だ。
「あ、今もじゅうぶん魅力的ですよ」
言葉が足りていなかったと思い、将人は言葉を足す。
「将人さんは気を使いすぎですよ」
深雪が手を顔の前で合わせながら視線を投げてくる。
自分でも気を回しすぎだと思わないこともない。だが、自分はそういう人間なんだと割り切っているところもある。
将人は左手を後頭部に当てて苦笑いした。




