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私と貴女の揺れる想い  作者: 明日大
9/10

お姉ちゃん、ありがとね

「ねえ、私……どうしたらいいと思う?」


 気付いたら一方的にずっと話し続けていた私が最後にそう聞くと、お姉ちゃんは私の目を見て言った。


「お前は、どうしたいんだ?」

「どうしたいって……」


 そんなことが分かってたら、こんなに悩むことなんてない。クラスメイトとしての桃野、友達としての桃野、もしかしたら…恋人としての桃野。考えることが多すぎて、何から手をつけていいのか見当もつかない。


「あー、そんな難しいこと聞いてるんじゃなくて……要するに仲直り、したいんだろ?」

「まあ……それは、うん」

「なら、そうすればいいさ。謝ってくればいい」


 それなのに、お姉ちゃんの答えは、とってもシンプルなものだった。


「え?でも、告白が……」

「んなもん知るか。後回しだ後回し」

「ええー……」

「桃野ちゃんが勝手にしてきたことだろ。そりゃいつかは答えないと駄目だろうが、今すぐ答える必要もねーだろ」

「でも……」

「そもそも答えられんのか? 今のお前に」

「それは……」

「だろ? じゃあいいんだよ、それで。適当に答えていいことでもねーしな」


 私の話を聞かずに、一方的に喋り続けるお姉ちゃんの話を何とか呑み込む。

 後回し……そんな適当で無責任な発想は、私の中には全くなかった。どこか腑に落ちる感覚を覚えたけれど、頭ではやっぱり納得できない。それでも言い返すことはできずに黙っていると、


「つかそもそも、お前と桃野ちゃんってその程度の仲だったのかよ?」


 お姉ちゃんから。予想もしてなかったことを問いかけられた。


「……え?」

「今から謝ったんじゃ遅い? 私からすりゃ、何言ってんだって感じだわ」

「なんで……」


 私は逃げ出してしまったんだ。あの場でちゃんと、答えなければいけなかったのに。


「なんでってお前、じゃあなんで許されないと思うんだよ」

「だって、私は…」


 私は酷いことをしてしまったんだ。それを償うことすら、未だにできていない。


「勝手に告白して、拒絶されたから許さないってか? お前の中の桃野ちゃんは、そんな自分勝手な奴なのか?」

「そんなこと……」


 私は、私には……そんな、資格なんて……。


「なら、いいじゃねーか。速攻謝って、んで全部伝えてこい」

「全部……?」

「あの時は怖かっただけ。好きかどうかはまだ分からない。そうだろ?」

「うん……」

「じゃあそう言えばいいじゃねーか。そしたら仲直りだ。だろ?」

「うん……」

「それともお前の自分勝手な都合で、桃野ちゃんを傷つけたまま放っておくのか?」

「っ!」


 こめかみを殴られたような衝撃が走った。今の一言は、どこか放心したままだった私を強烈に叩き起こした。


「……それは、駄目だよ」

「おう、そうだろ? じゃあどうすんだ?」

「謝ってくる。直接会って、今の気持ち全部話して、その後のことは……その時考える」

「上出来だ」


 誇らしげな顔をするお姉ちゃんを見ていると、私まで誇らしげになってくる。ああ、この人が私のお姉ちゃんで本当に良かった。


「ありがと、お姉ちゃん」

「いいってことよ」


 すっきりした気分でお礼を言って部屋に戻ろうとする私に、背中から真剣味を帯びた声がかかった。


「今はいいが、いつかはちゃんと答えなきゃなんねーからな。そこはごまかしていいとこじゃねー」

「うん」


 そうだ、私は桃野に告白されたんだ。その事実そのものは、何も変わっていない。


「いつか、自分の中でちゃんとした答えが見つかったら、ビビってねーでちゃんと桃野ちゃんに伝えるんだぞ」

「うん。分かってるよ」


 だけど、それに対する恐怖や困惑は私の中からとうに消え去っていた。何に置き換わったのかはまだ言葉にできないけれど、少なくともマイナスの感情ではない。


「そうか、ならよし。お休み、純玲」

「お休み、お姉ちゃん」


 今度こそ自分の部屋に戻りながら、私は鮮明になった頭で考える。


 答えを出すことだけに囚われていた私は、きっと焦りすぎていたんだろう。


 どうすればいいかなんて、考えても分からないんだ。まだ、今の私には。

 なら、今の私にできることをするしかない。どっちに進めばいいか分からなくなったら、その時向いている方向に進むべきだ。立ち止まっているよりはずっと、物事はいい方向に進んでいく。


 お姉ちゃんは大丈夫だって言ってたけど、正直少し不安もある。でも、やるしかないんだ。私が、先に進むために。


 明日、会ったらすぐ謝ろう。そう決意を固めて、部屋のベッドに勢いよく寝転がった私は、ずっととり憑いていた悩みから解放された安心感からか、たちどころに眠りについた。

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