ほんと、おせっかいなんだから
寝惚け頭で失われている思考力なんてものは覚醒すれば元に戻るわけで、一階に下りた頃には私は桃野のことを思い出していた。
お姉ちゃんの向かいの席で夕食を目にしながら、夕食のことなんて頭に入らず、つい呆けてしまう。
「ん、どうした? 食べねーのか?」
お姉ちゃんの声で我に返る。頭の中は思考の渦が膨れ上がってそれどころじゃないのに、お腹はしっかり空いていた。
「……いただきます」
「おーう、いただきまーす」
焦点の定まらない頭のまま、目の前のカレーを食べる。細かいことが苦手なお姉ちゃんらしい、野菜の切り方も大きさも雑なカレーは、何故だかいつもより暖かかった。
考えても答えが出ないことを考えながら食べていたら、いつの間にかカレーはお皿の上から姿を消していた。
「……ごちそうさま」
とにかく、今は一人の時間が欲しい。食べ終わってすぐに席を立って、自分の部屋に戻ろうとした。
「おい、純玲」
背後からお姉ちゃんの声。さすがに無視するのはきまりが悪いので、一応歩みを止める。
「……何、お姉ちゃん」
「何、じゃねーだろ。むしろ、それを聞きたいのはこっちの方だ。家に帰るなり、飯も作らずに部屋に引きこもっちまって」
そういえば、今日の夕食担当は私だった気がする。お姉ちゃんには悪いことをしてしまった。
「ちょっと疲れちゃっててさ。ごめん」
「嘘つけ。何があった、話してみろ」
素直に謝って早く部屋に戻ろうと思ったのに、綺麗に一蹴。言い訳を聞く気はないらしい。
「……何でよ」
「お前が落ち込んでるから」
「口説きたいの?」
「そうじゃねーよ。この世の終わりみたいな顔してんぞ、お前。誰でも心配になるわ」
そんな顔をしている自覚はない。けど、そう言われるということはそうなんだろう。顔の筋肉が、うまく動かせない。
「……つか、お前そういう冗談言うタイプじゃなかったよな。アレか、口説かれたか、それか告られたか?」
……どうしてこう、鋭いんだろう。やっぱり、呼び止められた時に無視して逃げておくんだった。
お姉ちゃんは、相当に察しがいい。ちょっとしたことから、すぐに大事なことを見抜いてくる。その時一番、見抜かれたくないことを。
「なんだ、図星か?」
「……違う」
「そうか……その様子じゃ、OKしたわけじゃなさそうだな」
一応否定してみたが、やはりというべきか何の意味も為していない。こうなったお姉ちゃんには、苦し紛れの言い訳は一切通用しない。
「断った……なら、もう少し割り切って帰ってくるはずだ。悩んでんだな、つまり」
「……早いよ。まだ、告白されたとも言ってないのに」
「でも、そうなんだろ?」
「……そうだけど」
言葉通りの無駄な抵抗が虚しくなってきたので、いい加減諦めた。こうなったら、全部ぶつけてしまおう。あまり人に話したくはなかったけれど、全てを見透かされているなら仕方がない。
私は、意を決してお姉ちゃんの前の椅子に座り直した。
「そっちから聞いてきたんだから、しっかり相談に乗ってよ」
「やっと話してくれる気になったか。んで、どしたん」
そして私は、お姉ちゃんに事の一部始終を全て話した。
お姉ちゃんは、静かに私の話を聞いていた。