第六章 ヴァイオレンスブルー&サイレントレッド PART7
7.
「ようこそおいで下さいました。お疲れだったでしょう」
ホールにつくと、プロデューサーが出迎えてくれた。
「いえ、とんでもありません。お出迎えありがとうございます。こちらの3名が私が推薦した人物です」
火蓮の紹介で、水樹達はそれぞれに簡単な自己紹介をし、持ち場を伝えた。
「水樹さんでしたね。ショパンコンクール本当に素晴らしい演奏でした。うちのオーケストラでは力不足かもしれませんが、どうぞよろしくお願いしますね」
なるほど。演奏が素晴らしいといっているが、きっと聴いていないのだろう。目が虚ろになっている。
「ありがとうございます。全力で舞台に立たせて貰います」
プロデューサーは少し顔を引くつかせた。オーケストラに対する配慮の言葉がなかったからだろう。若造のくせに、言葉がなっていないと思っている顔だ。
そのまま、プロデューサーはホールを案内してくれるが、形式ばかりの説明で退屈だった。
こいつの考えていることはただ一つ。父さんが亡くなって十年目。追悼コンサートを含めた舞台で息子が演奏することだけだ。目的は集客数を稼ぐことだけだろう。
一般人にはどんな演奏をしても聞き分けることができないと考えている顔だ。もちろんこういったパフォーマンスの方が客が入ることを見越してるのだろう、本当に反吐が出る。
グランドピアノが置いてある部屋に入った。プロデューサーはこのピアノを使って演奏することになると説明を始めた。
「水樹さんはウミハのピアノを大変好んでいると聞いているのですが、今回は手違いがありまして、こちらのピアノになりそうなんですがどうでしょうか?」
ピアノの鍵盤の上にはストーンウェイと書かれていた。
「どうしてストーンウェイを? 前に話を聞いた時はウミハのピアノといってたじゃないですか」
水樹が尋ねると、プロデューサーは何度も頭を下げて謝った。
「本当に申し訳ないんですが、急遽ウミハさんがスポンサーを降りてしまったんです。それでストーンウェイさんに声を掛けて頂いて」
水樹は愕然としたが、了承するしかなかった。
「少しだけ弾いてみても?」
「もちろん構いません」
鍵盤の上に手を載せる。違和感を拭いきることはできなかったが、やるしかないと腹を括った。
突如思いついたのは『革命』だった。左手が低音を駆け抜け右手が高音の和音を打ち鳴らす。
体が高ぶっていた。いつもなら確実にテンポが取れるのだが、今回ばかりは胸の高鳴りを抑えることはできなかった。
……このピアノをどこかで味わっている。ショパンコンクールではない、どこかで。
体の赴くままピアノを夢中に弾いていく。一曲弾き終える頃にはプロデューサーの顔は歪んでいた。
「……やはり違うピアノを弾くと感触が違うようですね。本番まで時間がありませんが、どうかよろしくお願いします」
そういって彼はその場から逃げるようにしてホールから立ち去っていった。
他の3人を眺めると、みんな唖然とした表情で自分を見ていた。




