第四章 藍の鼓動と茜の静寂 夢視点 PART5
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目を開けると、目の前に観覧車があった。観覧車の色ははっきりとした橙色で遊園地にありながら他とは違う異彩を放っていた。
「ねえ、みんなであれに一緒に乗ろうよ」
横にいるセミロングの女の子は子供のようにはしゃいでいた。観覧車に乗りたいといってジャンプまでしている。事実子供なのだが、高校生になって観覧車で喜ぶ彼女の姿にたじろぐ。
「仕方ないなぁ、よし乗ろうか」
彼女の隣にいる長髪の男が肩を竦めながら歩き始める。
オレは重々しくごほんと一つ咳をした。そして大きく息を吸い込み、申し訳なさそうな表情を作った後、頭を下げることにした。
「高い所は苦手なんだ、山の頂上から見る景色は好きだけど、観覧車の上からはちょっと……」
長髪の男は口を手で抑えて笑いを堪えていた。
「何の冗談だよ。そんな話、初めて聞いたけど」
「本当なんだ、信じてくれ。オレは高い所というか機械が信用できないんだ。機械のガタガタした音が鳴る乗り物は怖くてね」
「私もパス。その間にソフトクリームでも食べるわ」
俺の隣にいる長髪の女も首を振った。彼女の目にはオレが映っており、予定通りにしてあげると目で訴えている。
「そっか。じゃあ二人で行ってくるよ」
長髪の男はそのままセミロングの女と一緒に観覧車に向かった。
地上から二人が乗った観覧車を見上げる。内部は鮮明に見えなかったが、二人が隣同士の席でいちゃついているのだけはわかった。
オレの心は波のように揺れている。スノーボードの選手がリズムをつけて波を作るように徐々にその振動は大きくなっていく。
……落ち着け、落ち着け。
オレは目を伏せて祈りを捧げる。わかっていたことじゃないか、元々二人の付き添いで来たんだから。彼女のとびっきりの笑顔を見に来ただけだ。オレに対してではなく、あいつに対してのだが。
二人っきりの時間を作ることがオレの使命だとわかっているのに。初めからわかっていたことなのに、何でこんなに胸が苦しいのだろう。
もしかして、やはり彼女に対して未練が――。
隣にいる彼女を目の端で捉える。彼女はオレとのデートを楽しみにしてきたのだ。ここで台無しにしてはいけない。
「どうしたの?」
「……いや、何でもない」
オレは無理やり笑顔を作り、自分の気持ちを偽った。
目が覚めると、頬の上でうっすらと涙が流れていた。
水樹は腕を捲り両手を目の前にかざした。その腕は逞しく自分のものではないことは明らかだった。




