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長編小説 2 『魂のクオリア』  作者: くさなぎそうし
第四章 藍の鼓動と茜の静寂
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第四章 藍の鼓動と茜の静寂 PART2

  2.

 

「おお、水樹君。ショパンコンクール、実に素晴らしい成績を修めたね。私としても鼻が高いよ」


神山は水樹を賞賛しながらも横にいる火蓮の方を見ていた。

「それに今日は火蓮君も来てくれたのか。どうぞ、二人とも座ってくれ」


 並べられていた丸椅子に座る。先生は火蓮がいつも来ないことを承知の上で、二つの丸椅子を用意していた。まるでいつかはここに来ることがわかっていたかのようにだ。


 神山の診断を終えると、火蓮は静かに口を開いた。人格が入れ替わった所を上手くぼかしながら、薬の作用について話を伺っている。


「前にも説明したけどね、あの薬は心臓の働きを助ける作用があるんだよ。君達は事故に合ってから外的な損傷はほとんどなかったが、内臓に影響があったんだ。特に心臓にね。もしかして薬が合わないのかい?」


 火蓮は首を横に振って否定した。

「いいえ、そういうことではないんです。前に先生は僕がお酒を飲むのを控えるようにとおっしゃいましたよね? それでちょっと気に掛かることがありまして、お話を聞きに来ました」


 神山の顔つきが変わった。

「何か変わったことがあったのかね?」


「もちろん何もありません。ただ年末に大きなコンサートの仕事が入りまして用心しているといった所です」


「なんだ、そういうことか」


神山はころっと笑顔になった。

「びっくりさせるじゃないか。その話は美月からも聞いているよ。火蓮君は若いのにしっかり自分の使命を果たしているね。もちろん水樹君に到ってはいうこともないだろうが」


 神山は優しい口調で説明を続ける。


「君達の体はね、アルコールを分解する機能がほとんどないんだ。アルコールを分解することができなければ、もちろん血液にはアルコールが残る。アルコールが残れば薬の作用が何倍にも膨れ上がって過剰な効果が出てしまうからね」


 水樹はごくりと唾を飲み込んだ。

「つまりどういった効果が出るんでしょうか?」 


「端的にいえば呼吸がしにくいなどの症状が出る」


神山は小さく唸った。

「薬の効果が強くなればもちろん血液は早く回ることになる。そうなると体が活性化するだけじゃなくて過剰に酸素を必要とすることになるからね。それによって急に意識が飛んだりすることもある。つまり心臓が止まってしまうだってあるんだ」


 水樹は火蓮の方を見た。彼も自分の方を見ている。考えている所は同じだろう。二人ともこの反応を起こしている。


「もちろんアルコールを摂取していなくても起こることだ。激しいスポーツをしたり、大きな悩みがあればそれだけでも心臓はいつもより早く動くんだ。心臓はデリケートな生き物だからね。逆に過呼吸といって酸素をとり過ぎてうまく呼吸ができなくなることもあるんだよ。だからこれからも定期健診には来て欲しいね」


神山は火蓮の顔を見ながらいった。


「すいません。これからはなるべく通うことにします」


「それがいい。じゃあ二人とも、いつもの薬を用意しておくね。それ以外に変わった点はないかい?」


 彼の瞳に自分達が映る。

 ここで答えたら、最悪年末のコンサートに出られなくなる可能性だってある。


「いえ……特に何もありません」


「そうか、それならいい。火蓮君、次の検診にも必ず来るんだよ」


「はい、ありがとうございます。それでは失礼します」



 いつもの薬局に行き病院から薬を受け取ると、火蓮が袋の中身を見ながらぽつりと漏らした。


「やっぱり薬が原因だったんだな」


「うん。やっぱり兄さんのいった通りだと思う。これに懲りて兄さんがお酒を止めてくれたらいいんだけどね」


 火蓮は顔をしかめた。「それとこれとは別だ。要は薬を飲む時に酒を飲まなければいいんだ」


 ……何のためにここに来たの?


 大きく溜息をつくが、酒のうまさを味わってしまったのだから文句のつけようがない。火蓮が酒を止めることはないだろうから、別の解決策を考えなければならない。


「今日のデートは場所を決めないといけないんじゃなかったのか?」火蓮はにやにやしながら水樹の様子を伺っている。


「うん。そうだけど」


 まだ考えてないよ、といおうとした瞬間脳裏に一つよぎった場所があった。


「もちろん考えてあるよ。それにあそこに行けば、記憶に関することが何か掴めるかもしれない」


 今日は風花を喜ばせることができそうだ。


 あの場所なら、彼女はきっと喜んでくれる――。


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