第二章 青の鼓動と赤の静寂 夢視点 PART2 (完結)
◆.
「うう、寒いね」
「そりゃそうだ。雪が降ってるんだから当たり前だろ」
目が覚めると、俺は近くの公園のベンチに座っていた。
辺りを一瞥すると、街灯がぽつぽつと点灯し始めている。公園の真ん中には巨大なクリスマスツリーが立っており、一番上には金星が光っている。木全体にもデコレーションがされており、深いモスグリーンと濃いカーマインレッドのコントラストが雰囲気を高めている。
横には長い黒髪をポニーテールにしている女の子が背中を丸めて座っていた。制服の上にネイビーブルーのダッフルコートを着ている。思わず肩を抱き寄せたい衝動に駆られる。
彼女は左手からキャメル色の厚紙に包んだ袋を取り出した。
「これ、クリスマスプレゼント」
「ありがとう」俺は予め用意しておいた袋を取り出して彼女に渡した。「これは俺の分とあいつからの分だ」
彼女はわあといって声を上げて喜んだ。
「嬉しい……開けていい?」
「もちろん」
彼女は包み紙を取り除くと、嬉しそうにケースを眺めた。彼女はフルートをしており、そのケースがお下がりだったということで、新しいものをプレゼントすることにしたのだ。
「ありがとう。ちょうど欲しかったんだ」
そういって彼女はプレゼントを俺の前に出した。色はワインレッドだった。配色を決めたのは俺だ。
「喜んで貰えてよかった。俺も開けていいかな?」
彼女は無言で頷いた。袋を開けると、そこには細長い棒が入っていた。
「お母さんに教わって作ってみたの。下手だけど、喜んで貰えると思って」
木で出来た指揮棒だった。よく見るとあまり頑丈そうな作りではなかった。細くて軽いが、ちょっとした拍子に折れそうだ。大事に使わなければならない。
「ありがとう。お前の手作りなんて嬉しいよ」
「いえいえ。喜んで貰えてよかった。その木ね、お母さんと同じ名前の木だから、愛着が沸いちゃった。大事にしてよね」
彼女はか細い声で説明を続ける。
「中学校に入ってからさ、英語の勉強をしているじゃない? それでイニシャルを入れたら格好いいかなと思って入れてみたの」
暗くてよく見えないが、その棒にはイニシャルが入っているようだった。
「俺のために作ってくれたんだな。本当にありがとう」
精一杯笑顔を見せたが、彼女には俺は映っていないみたいだった。目に光はない。
「……あいつは馬鹿だよな、お前みたいな可愛い子を振るんだからさ」
「ずっと彼のことだけ見てきたのに……苦しいよ」
彼女はそういって啜り泣きを始めた。
……絶好のタイミングだ。
俺にとって今、この瞬間、彼女を手中におさめるためにはこの機会を利用するしかない。
しかし本当にこれでいいのかと心の天秤が揺れている。このまま付き合うことができたとして……、彼女を幸せにできるのだろうか。
心が揺れたままでもいい。俺は正直に思いを伝えたい。
だって俺はお前と出会ってから、ずっと――。
「俺がずっとお前の傍にいる……。だからもう泣かないでくれよ」
「ごめんね、私、いっつも泣いてばっかりだね……」
俺はベンチに袋を置いて彼女の唇に口づけした。受け入れてくれているのか、それともただ流されているのかはわからない。唇の感触では拒絶の感情は見当たらなかった。
「……今は、俺のことだけ見てくれよ」
「……うん」
もう一度口づけを交わした時に、袋からプレゼントが零れ落ちた。
そこにはK・Kと書かれた指揮棒が顔を覗かせていた。